池上秀志

2020年11月5日7 分

9cmの差が分ける一流と二流

最終更新: 2021年10月16日

 今回は9cmの差が分ける一流と二流の差というテーマです。あなたは9cmの差が分ける一流と二流と言われて何かピンとくるものはありますか?勘の良い人はすぐにピンとくると思います。走り幅跳びとか砲丸投げの話ではないですよ。長距離走の話です。

 勿論、長距離走ではゴールした時に9cm差でも一流と二流の差は別れません。でもこの9cmの積み重ねで一流と二流の差が分かれます。勘の良い方はもうお分かりですよね?そうです。ストライドの話です。私の家には居間に三本のテープが貼ってあります。1本目は開始位置です。2本目のテープはそこから175cm先に貼ってあります。私が1キロ3分ペースで走る際のピッチは一分間に約190歩です。一分間に190歩ということは、ストライドは約175cmです。3本目のテープはそこから9cm先、184cmの所に貼ってあります。一分間に190歩のストライド頻度で、184cmのストライド長を刻み続ければ、1キロ2分50秒ペースです。ということは、このままずっといけばハーフマラソンで日本記録くらいのタイムになります。

2本目のテープのところは私のハーフマラソンのレースペース、3本目のテープの位置は、ハーフマラソン日本記録保持者の小椋祐介君のレースペースになります。ちなみに、これはたまたまなのですが、2本目と3本目のテープの間に一本の線が入っています。これはもともとフローリングに入っていた線なのですが、ここの位置でペースを刻めば1キロ2分55秒ペースです。ハーフマラソンで言えば、現スズキのコーチの藤原新さん(61分34秒)や大塚製薬の上門大祐君(61分37秒)のペースになります。

 小椋君と上門君は私と同い年で、特に上門君の方は高校、大学と同じ京都でなんどもレースで競り合った仲です。今改めて上門君と書くのはなんだかおかしく感じられるほど近い存在なのですが(向こうがどう思っているかは別にして)、ハーフマラソン、マラソン共に大きく水をあけられてしまいました。私は1日の中に何度も1本目のテープに立ち、2本目と3本目のテープの位置を確認します。そうやってみると、大きな壁に見えて実はそうでもないということが分かります。

 勿論、私も素人ではありませんから、1キロ3分から2分50秒にペースを上げるのがどれだけ大変かは知っています。でも、ただ単に大変な差と思うよりも日々この9cmをなんとかしようと思って過ごすのと、漠然と大きな差だと思い込むのとでは大きな差があるように私には思えます。目標が明確になり、自分のやるべきことが見えてきます。

 ちなみに、このテーピングの位置はあくまでも私のリズムでの話です。ストライド長が175cmでも、一分間のストライド頻度が190歩から200歩になれば、2分50秒に近いペースになります。藤原新さんの場合は、ストライド長が約170cmで、ストライド頻度が一分間に210歩以上ありました。この割合は人によって変わります。

 実際私もかつてはこのストライド頻度に着目して、リズムを体に覚え込ませるということをテーマにしていたこともあります。でも色々試した結果、調子が良い時はストライド頻度が自然と一分間に190歩くらいになります。ストライド頻度が基本的にはリズムです。ストライド頻度を変えると走りのリズムを変えないといけないので、少し自分にはきついなと思いました。神経が疲れてしまうんです。ラストスパートや中距離なら良いのですが、これで1時間走ると神経が疲れて余計な力が入ってしまいます。そこで、ストライドの方を変えることにしました。これは人によると思います。

 ただ、私は身長が167cmしかありません。この身長で184cmのストライドを作ろうと思うと、身長以上のストライドです。勿論、ストライドを伸ばすだけなら簡単です。いつでも出来ます。もっと言えば、それで5000m走ることも難しくはありません。でも、テーマは今までハーフマラソンを走っていたのと同じ力で、ストライド長を184cmにすることです。そうでなければ、ハーフマラソンで良い記録を残すことはできません。もっと言えば、少なくとも私の中では藤原新さんも、上門も一流選手にカテゴライズされますから、180cmで良い訳です。今より、5cmのストライド長を伸ばして1時間走りきることができればハーフマラソンを61分で走ることが出来ます。問題はどうやって?という部分です。

 これに対しても回答はいくつかあります。おそらく、ストライド長を伸ばすという話をすると、バネを使ってより遠くに跳ぶイメージで前に進むという回答が多くなると思います。これはランラボチャンネルから出ている「プロランナーに聞いた。厚底シューズ合う人・合わない人」の中で解説している縦型の走りと横型の走りで言えば、縦型の走りになります。実際のところ、ストライド長が伸びるということは、遠くにジャンプしている訳ですから、物理的な記述としては、それで間違いありません。ただ、イメージとしてバネを使って跳ぶとはっきりと意識するかどうかはまた別の話です。

 もう一つのやり方としては、横の動きを使うことです。体のひねりを使っても良いと思います。人間の体は、モデルウォークでもない限り、歩く時には乳首の前あたりに足を出します。ヘソが中心にあって、顔が一つ、背骨がまっすぐ中心に立っていて、骨盤が横に広がりその横に広がった骨盤から足が下に伸びているので、普通は二軸で歩きます。要するに、骨盤をまっすぐに固定したまま、足だけ動かして動くことが多いので、足は乳首の前あたりに出るんです。

 ところが骨盤を大きくひねり、足をおへその前あたりに出すことで、一軸で走ることもできます。骨盤をひねるとバランスを取るために肩甲骨を骨盤と逆側に動かす必要があります。勿論、人間が走る時には例外なく、足と腕を反対側に振ってバランスを取っているのですが、それを体の奥の骨盤と肩甲骨からうねってストライドを伸ばすことが出来ます。有名選手の中で言えば、瀬古利彦さん、児玉泰介さん、中里麗美さんあたりが代表的だと思います。野口みずきさんや神野大地くんのように、小柄な選手もこのタイプの走りが多いです。トップランナーではありませんが、芸能人の猫ひろしさんもこのタイプです。私もどちらかと言えば、このタイプです。いかに体のひねりを使って、この9cmを絞り出すかです。

 もう少し具体的に言えば、実際にコンパスのように地面を足につけたままひねるわけではなく、ジャンプするわけですから、体のひねりも使って跳ぶというイメージです。この時大切になるのは、手(もしくは肘)が体の横を通る瞬間に、足を接地させ、そのタイミングを一致させるということです。瀬古さんの走りも足が接地する瞬間に手が体側を通過しています。瀬古さんの現役時代のトラックレースの走りをユーチューブで観ると、はるかに2分50秒を切って走っているにも関わらず、ちょこちょこ走っているように見えます。ですが、計算してもらえれば分かりますが、ちょこちょこ走っている訳ではなく、ストライドがしっかりと伸びています。それにもかかわらずちょこちょこ走っているように見えるのは、横の動きを使ってしっかりとストライドが伸びているからです。大迫さんのように、見た目からしてストライドが大きい選手とは少し違います。大迫さんは縦型の走りの代表中の代表だと思います。

 ちなみにあくまでも一般論ですが、ストライド頻度が一分間に180歩に達していない人はまずは、ストライド頻度を上げることから始めるべきです。やはり、ストライド頻度がこれよりも遅い人は、走りが汚い人が多いです。どうしても、体が後ろに残ってしまい、ブレーキをかけながら走ることになるので、ダメージが大きい走りとなってしまいます。では、ストライド頻度が180歩を超えたらどうしたら良いかということですが、一般的にはストライド長を伸ばすことでタイムは伸びます。女子と男子の大きな違いでもあります。女子も男子もストライド頻度は変わりませんが、男子の方がストライドは長いです。ただ、藤原新さんのように、一分間に210歩以上を刻みながら、もはや芸術的とも言えるだけの走りを作り上げている方もいますので、こればかりは何とも言えません。松宮隆行さんも計算はしたことがありませんが、藤原さんに近いストライド頻度を維持されています。

 また私自身の場合でも、ペースが2分50秒を切ってくると、やっぱりストライド頻度の方も上がってきます。身長が167cmだと180cmまで伸ばすのでも結構大変なことです。そこから先は少しストライド頻度を上げないとそれはそれできつくなってしまいます。そのあたりのさじ加減は自分で見つけていくしかない部分なので、何とも言えません。ただストライド頻度が180よりも遅い方は(ほとんどの市民ランナーの方はこれに該当します)、まずはストライド頻度を上げることを意識してみてください。

 縦型の走りと横型の走りについては下記の動画でより詳しく解説していますので、ご参考にしてください。

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