池上秀志

2021年7月29日9 分

世界チャンピオン25人、オリンピック金メダリスト4人を育て上げたコーチ、ブラザーコルムのトレーニング

多様性

・ケニア人はペースを非常に多く変える!

・リカバリーランやウォーミングアップはものすごく遅い(キロ6分くらい)

・距離走を含む多くの持久走は速いペースで行う

・10キロの周回コースをある日は50分で走り、次の練習では31分で走る

高頻度ランニング

・一日に2,3回、時には4回走る

・これはアメリカ長距離界の流行りでもある

・ブラザーコルムが高校生に12月までノートレーニングと指示する意味は一日に一時間しかトレーニングしないという意味である。

プログレッション

・物凄くゆっくり走り始めて、最後にペースを上げる

・その逆は絶対にありえない

・レースでもネガティブスプリットが望ましく、800mからマラソンまでの距離の世界記録は全て若干のネガティブスプリットによって出されている

スピードワーク、インターバル

・基本的には長い距離を短い休息を挟んで行う

・400mのインターバルの際は基本的には100mジョギング

・1キロのインターバルの際は200m

・休息はしばしばウォーク

・いつもインターバルは大集団でおこなう

インターバルトレーニングの一例(シルビア・キベット)5k 14:31

・カマリーントラック2011年5月のトレーニング、標高2400m

カマリーントラックを観たい方は下記のRLよりどうぞ!

https://youtu.be/ywXGnTIxeUg

・2000m2本、1000m3本

・6:50, 6:39, 3:13, 3:10, 3:07

・リカバリーは3分間のウォーキング

・一本ごとに速くするだけではなく、一周ごとに速く走る

・ペースメーカーあり

ファルトレク

・ファルトレクはスウェーデン語でファルトレク

・ファルトレクははっきりと時間を決めて行うやり方もあれば、気分に従って行うやり方もある

・ブラザーコルムのグループでは時間に従って行う

基本的には2分:1分、もしくは1分:1分

4分:1分や5分、4分、3分、2分、1分の時もある

・合計時間は種目によって異なり、800mのランナーなら通常20分間から30分間、マラソンランナーは1時間かそれ以上

・「必殺仕事人(Man on a mission)」35秒:20秒

対角線

・シーズン初期のトラックワークアウトとして行う

・サッカー場で行う

・3000mから5000mのレースペースで対角線にフィールドを横切る

・ジョギングで短辺を横切り反対側の頂点へ

・これを繰り返す

・この練習は30分間、40分間などの時間で行う

動きづくり

・全てのグループで動きづくりをするわけではない

・逆にあるグループではかなり多くの動きづくりを行う

・ルディシャは朝に動きづくりをする

・60分ジョギング、60分動きづくり、体幹

通常のスケジュール

月曜日 70分間の閾値走

火曜日 トラック(10x1000m、20x400m、2x6,5,4,3,2などなど)

水曜日 70分間走

木曜日 ファルトレク(2分:1分、1分:1分、25分間から60分間)

金曜日 70分間走

土曜日 距離走、登坂走、もしくはトラック

日曜日 休養、もしくは1時間

上記以外にも二回目のラン、時には三回目のランが実施される

デイヴィッド・ルディシャのトレーニング

ジュニア世界選手権800m優勝前のトレーニング

月曜日

午前6時 6キロイージージョギング

午前10時 40分間中強度

午後4時半 プライオメトリックス、フィールドエクササイズ、流し、動きづくり

火曜日

午前6時 6キロイージージョギング

午前10時 120m10本ヒルスプリント「

午後4時 30分間イージージョグ

水曜日

午前6時 8キロイージージョギング

午前10時 動きづくり、流し、プライオメトリックス

午後 体幹補強40分間

木曜日

午前6時 6キロイージージョギング

午前10時 4x600m 1分30秒つなぎ90秒、5x400m56秒から58秒つなぎ90秒、4x300m40秒から39秒つなぎ60秒、2-4x200m26秒から25秒つなぎ60秒

午後 休息

金曜日

午前6時 8キロイージージョギング

午前10時 動きづくり、流し、プライオメトリックス

午後 体幹補強40分間

土曜日

午前6時 8キロ(40分)

午前10時 距離走80分間、ストレッチ

日曜日

完全休養

ブラザーコーチの6つの原理原則

1. 偉大なコーチになるために偉大な選手である必要はない

25人の世界チャンピオンを輩出し、4人のオリンピック金メダリストを輩出したケニア一のコーチが20代後半にケニアにたどり着いたとき、選手としての経験は一切なかった。人生で一度もレースを走ったことがなかった。

2. 選手としてのみ接するのではなく、人間として接する

 人には様々な可能性がある。陸上競技が人生の全てではない。そして、選手として考えた時にも人として成長し、その選手の性格も含めて大切になってくる。

3. 選手が中心で、コーチが光り輝いてはいけない

 「私は選手をよく観察し、個性を見抜く観察眼を養ってきた。選手に特定のやり方を押し付けることはなかった」一つのやり方が、全ての選手にぴったりということはありえない。その選手にとってベストなやり方を見つけることが先ずは重要だ。

4. 結果と同じくらいその過程に集中する

 目標に向かって進んでいく過程そのものが大切で、練習においても、ランニングスタイルに注意を払い、ペースを読み上げて選手にプレッシャーをかけるようなことはしない。常に目標ペースで選手を走らせたビル・ボワマンとは対照的だ。

5. 偉大なコーチとは即興演奏者である

 トラックセッションの日の朝はデイヴィッド・ルディシャに必ず「今日はどうだい?」と聞く。それで良い返事が返ってこなかったり、答え方や表情に不安が見られたら、その日はトラックには行かない。ファルトレクに切り替えるか、軽い練習に切り替える。トレーニングは必要性に応じて、柔軟に変えなければいけない。

6. 逆境に対処せよ

2009年にルディシャが調子を落とした時、疑心暗鬼になったことを認めてこう回想した「物事が上手くいっているときは、コーチも楽なんだが」それでも彼は選手とともに汗を流し続け、最終的には暗闇に一縷の光を見出した。2010年8月ルディシャはウィルソン・キプケテール世界記録を更新する1分41秒09をマークすると、一週間後のイタリアのリエティグランプリでは1分41秒01まで更新した。

ブラザーコルムのジュニアアスリート(14歳から18歳)の為のトレーニング1998年12月

月曜日 

午前(男子)8‐9km、ストレッチ

  (女子)6‐7km、ストレッチ

午後(男子)ロングラン45分間から60分間(12‐14km)+エクササイズ

  (女子)ロングラン45分間から60分間(10‐12km)+エクササイズ

火曜日

午前(男子)8km27‐30分間

  (女子)6km25分間

午後(男女)10分間ウォーミングアップ、ファルトレク60分間から75分間(2分ハード/3分イージーもしくは3分ハード/1分イージー+エクササイズ

水曜日

午前(男子)9kmペース持久走60%前後の強度

  (女子)7kmペース持久走60%前後の強度

午後(男女)サーキットトレーニング2分間を4セット、その後100mの流し45分間

木曜日

午前(男女)起伏のあるコースで60分間ゆっくり

午後(男女)15分間ラン、対角線30分間から35分間、10分間動的ストレッチ

金曜日

午前(男子)8kmイージー、動的ストレッチ

  (女子)6kmイージー、動的ストレッチ

午後(男女)登坂走120-200m14本

土曜日

午前(男女)40分間流し

午後(男女)レースもしくは1分/1分のスピードプレイ

日曜日

午前(男子)8kmイージー

  (女子)6kmイージー

午後 積極的休養

聖パトリック高校はエルドレット空港から車で約一時間のところにあり、標高2400m、で周辺の地域は起伏のあるコースばかりで、トラック以外に平坦なコースはほとんどない。トラックシーズンが始まる二週間前には週に二回、標高1000mのところまで降り(車で20分)、スピードワークを行う。

解説(池上秀志)

 個人的には、このトレーニング内容はオーソドックスな高校駅伝強豪校のトレーニングとも言えるもので、ヨーロッパやアメリカなどのキャリアの早い段階(中高生)において集団的に専門的に取り組む文化のない国からすると、かなりストイックに思えるかもしれないが、日本の強豪校もだいたいこんな感じである。そして、何よりも重要なことは、こういったトレーニング内容は市民ランナーにとって大いに参考になるということである。何故なら、彼らも学校がある中でこの練習をこなしており、一回の練習時間は決して長くないうえに、800mや1500mで活躍するランナーにとってもある程度の強度の持久走が頻繁に入っていることが確認されるからである。ジョギングとハードな練習だけという白か黒か(give it all or go home)のトレーニングではなく、8kmを27分から30分で走るようなトレーニングからファルトレクから、対角線からヒルトレーニングからバランスよくトレーニングが組み込まれている。市民ランナーの方にはインターバルはどういう練習をすれば良いか?距離走はどういう練習をすれば良いか?タイムトライアルは?テンポ走は?などなどハードなトレーニングばかりに目を向ける人が多いが、追い込み切らないようなトレーニングをバランスよく組み合わせた方が、負担が少なく、確実に走力アップを図ることが出来る。

 あとは、上記のトレーニングを自分のライフスタイルに応用しながら、週に一回か二週間に一回距離走を取り入れれば、そのまま充分マラソントレーニングとして使える内容になっている。

オーガスティン・チョゲとイサック・ソンゴクの2004年12月のトレーニング

オーガスティン・チョゲ

1500m 3分29秒

3000m 7分28秒

5000m 12分56秒

イサック・ソンゴク

5000m12分52秒

月曜日

朝:45分間低強度

午前:登坂走200m12本

午後:30分間低強度

火曜日

朝:45分間低強度

午前:休息

午後:30分間中強度

水曜日

朝:40分間低強度

午前:45分間ファルトレク

午後:対角線

木曜日

朝:40分間低強度

午前:30分間高強度

午後:40分間動きづくり

金曜日

朝:45分間低強度

午前:一時間半ジムワーク

午後:45分間低強度

土曜日

朝:45分間低強度

午前:30分間高強度

午後:休養

日曜日

朝:1時間半走

午前:休養

午後:休養

月曜日

朝:60分間中強度

午前:1時間半ジムワーク

午後:45分間低強度

火曜日

朝:40分間低強度

午前:45分間ファルトレク

午後:40分間対角線

水曜日

朝:45分間中強度

午前:動きづくり

午後:30分間低強度

木曜日

朝:45分間低強度

午前:登坂走200m12本

午後:30分間低強度

金曜日

朝:60分間中強度

午前:休養

午後:休養

土曜日

朝:45分間低強度

午前:30分間中強度

午後:休養

日曜日

朝:1時間半走

午前:休養

午後:休養

月曜日

朝:40分間低強度

午前:45分間ファルトレク

午後:対角線

火曜日

朝:40分間低強度

午前:40分間低強度

午後:休養

水曜日

朝:45分間低強度

午前:動きづくり

午後:30分間低強度

木曜日

朝:45分間低強度

午前:登坂走200m12本

午後:30分間低強度

金曜日

朝:45分間低強度

午前:ジムワーク一時間半

午後:休養

土曜日

朝:45分間高強度

午前:休養

午後:休養

日曜日

朝:60分間中強度

午前:休養

午後:休養

月曜日

朝:45分間高強度

午前:休養

午後:休養

火曜日

朝:60分間中強度

午前:休養

午後:休養

水曜日

朝:40分間低強度

午前:45分間ファルトレク

午後:40分間対角線

木曜日

朝:45分間低強度

午前:動きづくり

午後:休養

金曜日

朝:30分間中強度

午前:一時間半ジムワーク

午後:45分間低強度

土曜日

朝:45分間低強度

午前:30分間中強度

午後:35分間動きづくり

日曜日

朝:12キロトライアル

午前:休養

午後:休養

解説(池上秀志)

 メニュー中の高強度は聖パトリック高校から3kmくらいウォーミングアップをして、10キロで140mほど登るコースです。私も一度だけ一緒に参加したのですが、もうタイムトライアル並みにきつくてかなりトラウマになりました(笑)改めて、上のトレーニングを見ても「特別な何か」はありません。様々なトレーニングがバランスよく組み合せられていると思います。

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