池上秀志

2023年6月16日13 分

私自身の練習計画の立て方

皆さん、こんばんは!

 無事にクアラルンプールに着き、次の飛行機を待ちながらこちらのメルマガを書いております。ここからドーハに飛び、更にそこからナイロビまで飛んで、そこから車で数時間走って、恵まれない子供たちに最低限の衣食住と教育を与えている施設に行く予定です。

 最近、メルマガ読者様に練習をトータルで考えることの重要性、一回一回の練習ばかりに目を向けるのではなく、練習全体を組み合わせることの効率の良さを説いているのですが、本日は私が練習をどのように組んでいるかをお話しさせて頂きたいと思います。

 先ず、大雑把な流れを説明しますと、この前のピークは2月26日の大阪マラソンにおいていました。

 ここでの目標は2時間16分台、あわよくば2時間15分台、悪くても2時間17分までで帰ってくることでした。だいたい、人間の持久力の限界値、落ち率の低さの限界値が5000mのタイム+1分15秒です。昨年の5000mの自己ベストが14分53秒なので、1分15秒足すと16分8秒、このペースでマラソンを走ると40キロ通過が2時間9分4秒、ラスト2.195キロを6分50秒でカバーすると辛うじて2時間15分台にのってきます。

 ですから、これが私の100点のレースでした。35キロくらいまでは感覚的にもその目標が非常に現実的だったのですが、35キロから大幅に失速して2時間18分かかってしまいました。

 この反省から、走り方を変えてみたり、練習内容を見直したり、コーチと他の指導者の方からもアドバイスを頂いたり、自分で色々試行錯誤はしています。

 ですが、2時間18分でも5000mのタイムに+1分半なので一応想定の範囲内と言いますか、及第点です。

 要は、5000mのタイムそのものを上げるか、より5000mからタイムを落とさずにマラソンを走り切るか二つの選択肢を選ぶときに、5000mのタイムを向上させる方がはるかに簡単です。

 5000mのタイムに+1分15秒というのは本当の人類の限界値がこのあたりで、これ以上の数字を出した人はほぼ皆無です。もっと言えば、+1分15秒で走り切っているのは私が知る限りは全員日本人です。日本人以外で達成した人を私は知らないです。

 誰か知っている人がいたら、教えて下さい。

 ちなみに、世界には5000m12分40秒くらいで走る選手は何人かいます。その選手たちが+1分半で走るとスタートからゴールまで5キロあたり14分10秒ペースで刻んでいくことになり、マラソンのゴールタイムは1時間59分半くらいになるので、マラソンで2時間を切る力がある選手は世界に数人いると私は思います。

 それでも実際にはまだ世界記録は1時間台に届いていないので、そのくらい5000mに+1分半で走り切ること自体が難しいということです。

 ちなみに、ブレーキング2では1時間台が出ていますが、あれは極限まで空気抵抗を少なくして、ペースメーカーのペースメイキングを車でやって、給水も走りながら渡しているので、ペースの変化が極限までないという究極の条件でやっているので、記録が速くなるのは当然だと思います。

 同じ条件で5000mもやれば、世界記録はもう少し速くなるでしょう。

 話を元に戻すと、落ち率を人類の限界近くまで低くするのと男のくせに女子の世界記録よりも遅い私の5000mを速くするのとどちらが簡単かと言えば、圧倒的に後者なのです。

 ですから、トラックの記録を速くすることが、マラソンの記録を向上させるうえで、最適な努力であることは私の場合は明白です。

 では、トラックの記録を速くするにはどうすれば良いのかということですが、段階的に目標とするレースペースに体を慣らしていくことが必要になります。マラソントレーニングで速いペースで30キロから40キロを走ったり、38キロ走の中に2キロ6本のインターバルを入れたりしていたら、1000m5本は鼻で笑うほど楽に思えるかもしれませんが、実際にはそうではありません。

 速いペースで1000m5本走るのはやはり大変なことです。

 更に細かいことを言えば、マラソントレーニングにおける1000m10本や1000m12本は基礎スピードに該当するので、休息時間を長めに取っても全く問題ありません。要は、速いペースでたくさん走ることで速いペースに体を慣れさせられたらそれで良いのです。

 一方で、5000mのレースに向けての1000m5本においては、なるべく休息を短くすることが求められます。

 何故ならば、この場合は基礎スピード=一般的スピード練習ではなく、特異的スピード練習として実施するからです。

 そして、最終的にそのペースを短い休息で走れるようになるためには、ある程度休息時間を長めに取っても良いから、速いペースに体を慣らしていきます。例えば、400m15本を200mでつなぐような練習です。

 マラソントレーニングにおいては400m15本を200mつなぎのような練習をやっている余裕はありません。何故ならば、そういった練習は速いペースでの30キロ走や40キロ走のような練習への適応を妨げるにも関わらず、練習効果はあまりないからです。

 人間のエネルギーは常に有限です。

 従って、リスクのない練習などありません。負荷が高い練習ほど、リスクが高くなります。これはオーバートレーニングや故障のリスクだけではありません。トレーニング刺激に対する適応を妨げるというリスクが高くなります。

 だから、不要な負荷の高い練習は省いていく必要があります。

 このように考えていくと、マラソントレーニングと5000mのトレーニングは両立しえないので、分けて考えていきます。

 もちろん、ハーフマラソンやマラソンに向けて練習していたら5000mも速くなるということはあります。ですが、これは確率の問題です。

 子供の頃、道端に落ちている空き缶に少し離れたところから石を投げて当てるという遊びをしましたが、その時にだいたいその辺に向かって投げるよりも、明確に缶を狙って投げた方が当たる確率は高かったです。

 それと同じで、要は確率の問題です。

 小松美冬さん訳の『リディア―ドバイブル』を読まれた方は「マラソントレーニングをすることによって5000mや10000mも速くなる」と誤解されているかもしれませんが、これは「マラソントレーニング中に5000mや10000mが速くなる」のではなく、あくまでも「マラソントレーニングのあとにトラック練習をすると、5000mや10000mがより速くなっていた」ということなのです。

 そういう意味においても私は春から夏にトラック、ロードレース、秋から冬にマラソンをやることは完璧な組み合わせだと考えています。

 そして、準備期間は出来るだけ長くとりたいのです。

 何故かというと、準備期間が長いとそれだけ細かく段階を踏めるからです。間に低強度な週もたくさん挟んで、体にトレーニング刺激に対して適応するチャンスも与えることが出来ます。

 これも確率の話になりますが、体が適応できるかどうか分からないけれど、とにかく短期間に練習を詰め込むよりも、ある程度期間を長くとって、2,3週間やりたい練習をやったら、1週間は軽めの週を作って確実に体に適応するチャンスを与える方が確率が高くなります。

 ただ、やはり季節的な問題やレーススケジュール的に記録が狙えるレースというのは限られてきます。私の場合は、7月2週目の京都選手権か6月2週目の日体大長距離記録会がそれでした。

 で、じゃあどちらにするのかということですが、単純な考え方として7月2週目の京都選手権に照準を合わせると、京都選手権までの準備期間は長く取れますが、秋のレースまでの準備期間は短くなります。

 一方で、6月2週目のレースに照準を合わせると春から夏までの準備期間は短くなりますが、秋のレースまでの準備期間は長くなります。

 人によって違うと思いますが、私は秋からのレースの方が記録が狙いやすいので、秋のレースに向けての準備期間を長く取りたかったのです。

 だから、6月2週目のレースを選びました。ただ、最終的には日体大長距離記録会の要項がなかなか出ず、仕事と並行して、旅程などを組むのが煩わしかったので、先に詳細が分かっている関西実業団記録会を選びました。同じくらいの目標タイムを持つ選手が出場していて、結果的にそれで良かったと思います。

 目標としていた14分35秒は出ませんでしたが、14分46秒と起業後ベストが出せました。

 では、秋のレースはどのように考えていくのかということですが、秋に一本マラソンをやって、春にもう一本マラソンをやるというのも一つの選択肢です。ですが、私はその選択肢は取りませんでした。

 何故なら、14分46秒では、マラソンで自己ベストを狙うには少し物足りないからです。出来れば、次のマラソンで2時間10分前後マークしておきたいので、そうなると5000m14分10秒か、10000m29分10秒のどちらかが欲しいです。

 そう考えると、秋のレースは10000mか5000mがメインのレースになります。私の場合は長い距離の方が得意なので、10000mを選択しました。また、その方がマラソントレーニングにもスムーズに入れます。

 更に私の場合は、結構トラックの10000mに近いペースでハーフマラソンが走れてしまうので、ハーフマラソンに焦点を絞る方法もあります。ハーフマラソンが1キロ3分ペースで走り切れたら、マラソンで2時間10分前後のタイムが狙えます。

 逆算すると、ハーフマラソンを1キロ3分ペースで走り切るには10000mはやっぱり29分10秒では走れておきたいので、目指すところは同じです。

 更に、来年の東京マラソンか大阪マラソンに出場するとして、12週間のマラソントレーニングを組むなら、11月の終わりから12月の初めからマラソントレーニングに入ります。

 そうすると、準備期間の長さ、気温などを考慮に入れると11月1週目から3週目までのレースを探すことになります。該当するのは11月2週目の日体大長距離記録会とその1週間後の上尾ハーフマラソンです。

 私は日体大長距離記録会に照準を合わせて、ハーフマラソンの為のトレーニングは一切せずに、1週間後のハーフマラソンに出場しようと思っていますが、これはまたコーチと話し合って決めようと思います。

 というか、私の考えはもう話してあるので、あとはコーチの回答待ちです。

 ついでに言えば、そのスケジュールで行くと、結婚式を入れるとすると上尾ハーフマラソンの1週間後が唯一のチャンスです。それが、レースと次のマラソントレーニングの間の唯一のチャンスです。

 では、何らかの理由でスケジュールが変わればどうするのか?

 その時は結婚式は欠席せざるを得ません。警察や軍人と同じで要請があれば、いつでもどこでも行くのがプロランナーです。

 私の場合は今も昔も唯一の上官はディーター・ホーゲン、ただ一人です。どれだけの金額を提示されても他の人の指揮下に入るつもりはないし、今までもそれが年間数千万円のお金であろうと動いたことはありません。

 実業団を含めて、私が今までサラリーマンや公務員をやらなかった一番の理由は、自分にとって唯一の上官はディーター・ホーゲンという状況を維持するためです。

 逆に言えば、実業団を含めた会社員(サラリーマン)になるなら、その会社の命令系統に従うつもりです。いわゆる業務命令というやつです。

 話を元に戻すと、だいたいの大枠はこのように決めていきます。

 マラソントレーニングの詳細は、秋までの練習の出来次第で微調整していきますが、基本的にはマラソンを見据えた上での、トラック練習なので、マラソントレーニングに繋がるようには組んでいきます。それが、秋以降のレースでは同じトラックでも10000mに重点を置く理由です。

 では、秋までのレースはどのように組んでいくのかということですが、6月2週目から11月2週目までが21週間あります。かなりの準備期間です。

 目標とするレースが終わったら、一度休養期間を取るのが私のやり方で、これは皆様にもおススメさせて頂いております。その理由は、神経系とホルモン系を休ませるためです。この期間も低強度走は続けます。

 何故なら、軽く走った方が精神的にもリラックスできて、筋肉もほぐれて、神経系とホルモン系も休ませることが出来るからです。ただ、これは性格の問題が一番です。私はたまに完全休養があったとしても、基本は走った方がリラックスできます。

 完全休養が良い人は完全休養、別のスポーツを楽しみたい人は別のスポーツやスポーツ以外の趣味を楽しむと良いと思います。

 そして、この期間と高地への順化期間を重ねるのが理想だと思いました。高地への順化には時間がかかります。最低でも2週間は軽めの練習を組んだ方が良いです。1500m程度の高さならば問題はありませんが、私が滞在するイテンは2300mなので、2週間くらいは時間をかけた方が良いです。

 個人差はありますが、私の場合はそんなもんです。

 恐らく、何度も頻繁に高地に滞在している、例えば大迫さんとかであれば、そこまでの時間は必要ないと思います。それでも、休養期間と高地への順化期間を重ね合わせることが理想だと思います。

 レース前の最後の6週間を特異的な練習に当てるとすると21週間から6週間を引いて15週間、15週間から休養と高地への順化期間として3週間を引くと残りは12週間、2週間高密度な練習をして、1週間軽めの週を作るというセットが4回繰り返せます。

 そうすると、次にこの4セットの中身を考えていくことになります。

 具体的な内容まではまだ考えていませんが、6週間前くらいから1000m10本を200mつなぎで2分55秒、もしくは少しペースを落として2000m5本を400mつなぎで5分55秒という練習をすると考えるならば、逆算していくとその前段階の週二回のハードな練習が、短い方は400m20本を200mつなぎで平均69秒(71秒から67秒)、2000m5本を400mつなぎが平均6分ちょうど(6分10秒から5分50秒)、その一個前段階が、400m20本を200mつなぎで平均69秒(71秒から67秒)と1000m10本を200mつなぎで平均3分ちょうど(3分5秒から2分55秒)、その一個前段階が400m20本を200mつなぎで平均70秒(72秒から68秒)とファルトレク3分速く1分ゆっくりを10本もしくは12000mのテンポ走、その更に一個前段階が1分速く1分ゆっくりのファルトレクを25本と15キロを中強度から高強度、もしくは12000mのテンポ走というような青写真になっていきます。

 これを基本形として、ケニアから日本への移動や高地で練習することによるタイムの下方修正といったものが必要となっていきます。このように考えていくと、21週間あっても意外とびっちり詰まっていると言いますか、やることは詰まっているというのがお分かり頂けるのではないでしょうか?

 私には競技者の中でも上位0.5%に入るような天才のやることはよく分かりません。ですが、いわゆる私のようなごく普通の選手が結果を出すなら確率の高い選択肢を選ぶべきです。

 これは市民ランナーの方にも言えることです。

 ただ、漠然とその日の気分に従って走り、ただ何となく皆が出ているから同じレースに出るという人と、目標から明確に逆算してステップを踏んでいくのとどちらが目標を達成する確率が高いでしょうか?

 最短最速で目標を達成するのはどちらでしょうか?

 また、実は無計画に練習するのも、明確に青写真を描いてそこから細部を決めて練習するのも負担自体は変わらないのです。

 別に、厳密に計画を立てて練習するから負荷が高い訳ではありません。寧ろ、計画を立てる際には、負荷が高すぎないように計画を立てるべきなので、適切な計画を立てることが出来れば、寧ろ苦しい練習はそれほどないはずです。

 もちろん、低強度、中強度、高強度の3つに分類するならば、その中に高強度の練習は入ってきます。ただ、出来るかどうか分からないような、自分の限界に挑戦するような練習は限りなく減るはずです。適切な計画が立てられていればです。

 また、このように見ていくとたった8週間の準備期間では何も出来ないことがお分かり頂けると思います。

 もちろん、いつの場合も奇跡が起こることはあります。ですが、文字通り奇跡だと思います。初心者の方ならいざ知らず、今まで16年間走り続け、月間1000キロや1200キロの練習を積み重ねてきた私が、今の仕事と並行してプロ時代の記録を上回るには決して偶然などあり得ません。

 ただ、「そんなことはやってみないと分からない」と言われれば確かにそうです。壊れた時計でも一日二回は正確に時を刻むのですから。

 要するに、文字通り偶然もしくは奇跡だということです。

 だいぶ長くなってしまいましたが、あなたの参考になりますと幸いです。

 最後に、マラソンサブ3やサブエガなどの記録を目指している方にお知らせです。

 世間ではサブ3の達成率は3%程度と言われていますが、私が長距離走、マラソンが速くなるために必要なことを体系的かつ網羅的に解説したウェルビーイングオンラインスクールの受講生様のサブ3達成率は約3人に2人です。

 その理由は、先述の通り確率の問題として狙って出すのと偶然を狙うことの違いです。

 3%にかけるか、66%にかけるか。

 66%にかけるという方は是非こちらをクリックして「たった1年間でマラソン3時間16分から2時間33分まで伸ばした男の話」をお読みください。

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