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田中希実選手は技巧派

こんばんは、池上です!


 実は本日兵庫リレーカーニバルを現地で観戦しておりました。何と言っても、特筆すべきは楠康成君の2000m障害日本記録樹立です。元々2000m障害は楠君が保持していたのですが、それを洛南高校の後輩の坂口竜平君が去年の兵庫リレーカーニバルで更新し、今大会では坂口君と楠君の二人が出場しており、新旧日本記録保持者対決となりました。


筆者と楠君、於セブスポーツ


 結果としては、楠君がスタートから一度も先頭を譲ることなく、初めの1000mを2分40秒で通過すると、後半を2分49秒で粘り切り、5分29秒11という素晴らしい記録を作りました。


 月並みな言葉にはなってしまいますが、スタートからかなり力強い走りをしており、見ていても安心感のある走りでした。2000m障害というのは正式な種目にはなく、出場する選手は皆3000m障害の選手です。そして、3000m障害というのは完全に長距離種目で、進路的にも全国高校駅伝強豪校、箱根駅伝常連校、実業団になり、駅伝もやる選手が多いです。


 その為、3000m障害というのは長距離型の走りの中でスピードを追求していくという選手が多く坂口君もそのまま距離を伸ばしても充分に対応できる走りです。言葉で一言でいうのは難しいのですが、べたな表現で言えばやはりすり足気味に流れるような走りで走ります。


 一方の楠君は長距離・3000m障害というよりは、800m・1500m・3000m障害型の走りという感じで、流れるようにというよりは接地の瞬間に上体と下半身の型がバシッと決まり、接地の瞬間に地面をしっかりと捉える感じで突っ込んでいき、そのまま押し切った感じでした。


 女子1500mの直前には雨が降り出し、ちょっと走りにくいかなという気象条件の中、ペースメーカーがペースを400m66秒くらいで作り、800mを2分13秒で通過し、そのあとは田中希実選手が前に出ると、そのまま逃げ切りました。ただ、今回のレースで私が注目したのは、田中選手って意外と技巧派の走りなんだなということです。


 ペースメーカーが外れた直後から田中選手がペースを作ったのですが、そのあと卜部蘭さんが鐘がなってから、田中選手の独走を許さず、追走しました。動き自体は卜部選手の方が大きく、勢いがあるように見えました。実際に、田中選手の独走を許さずにラスト100mに入るまで猛追をしていました。


 この時に、卜部選手と並んで非常に良く分かったのですが、田中選手は重心を浮かせずにやや前傾姿勢を保ちながら前に前にと進んでいくような走りを維持し、スパートは最後の最後までためて力をためるような動きで力をためると最後の100mで爆発的なスパートを見せて、後続を突き放し、田中選手が4分10秒60で優勝しました。


 そして、男子1500mは洛南高校陸上競技部から駒澤大学へと進学したルーキー佐藤圭太君に注目しながら見ていました。この日の1500mは日本記録保持者の河村君も出場していましたが、比較的スローペースになりました。あくまでも、比較的スローペースなだけで400m60秒ほどでレースは推移しました。


 佐藤君は珍しく後方に位置取りし、外側後方に位置取りしていましたが、800mからペースが落ち着いたところで前に出ました。このおかげで800mから1200mも60秒のペースが維持され、最後の300mから各選手が一気にスパートすると3分41秒くらいのタイムでフィニッシュしました。優勝したのは新井七海選手、3分41秒08で優勝、佐藤選手は3分41秒71で4位でのフィニッシュとなりましたが、佐藤君の良いところはやっぱりレースを台無しにしないところだと思います。


 いくら超高校級とは言え、この先本気でタイトルを獲りたいのであれば、一番苦しいところでいつもいつも前に出てペースを作るのは賢いやり方ではありません。特にいつも同じパターンだと相手にも読まれるので、なかなか勝てなくはなるでしょう。それでも、やはり彼のおかげで良いペースでレースが進み、見てる方としては面白レース展開になります。そのことによって1500mという種目自体の注目度が上がっているのは間違いありません。今後も彼の活躍が楽しみです。


 最後は女子10000mのレースを見て帰ってきました。皆さんにお礼を申し上げたいのは、私も今のお仕事をさせて頂くようになって選手から指導者目線に変わり目が肥えました。この日は800mから10000mまでのレースを、見ていましたが、「この選手は最後行くな」とか「この選手は落ちるな」というのがことごとく当たりました。


 全てお見通しという訳ではなく、「あっこの選手もう落ちるな」と感じたら次々とその通りになりました。全てを知ることは出来ないのですが、見ていて感じたことはほぼすべて当たりました(感じられないことは分かりません)。


 10000mでは特にそれがことごとく当たりました。やっぱり上から見ていて感じたのはもがきだすとやっぱり落ちます。もちろん、兵庫リレーカーニバルに出てくる選手は全員レベルが高いので、走り方を直せば良いというそんな単純な話でもないのですし、今までの自分だと「もがきだした」というのが分かりませんでした。しかし、市民ランナーの方を年間数百人見させて頂く中で、私なりにデータを集積することが出来ました。


 実業団の選手も起きている現象自体は市民ランナーと同じで、やっぱりブレだすともう落ちます。改めてブレない走りの重要性を感じました。走りについては、やはり文章だけで説明する無理さがあるので、また動画で解説する場を設けたいと思います。


 女子の10000mはヘレン・エカエレ選手がスタートから独走し、危ない展開もなく31分22秒でゴールし、優勝しました。第二集団は田中希実選手やドーハの世界選手権マラソン代表の中野円花選手、スターツキャプテンの佐藤奈々さんあたりを中心に第二集団が形成されました。


 この田中選手の走りを見て思ったのですが、1500mのスピードから10000mへの落とし込みが非常に良く出来ています。基本的には10000mをやるにしてもスピードはあるに越したことはないのですから、1500mのタイムは速い方が良いに決まっています。


 しかしながら、実際には1500mが速い選手と10000mが速い選手はイコールではありませんし、ましてやトップを取るとなると、その種目に特化しないと難しいです。そして、1500mが速くても10000mが速く走れない一番の理由は、ペースを落とした時に上手く余裕を持って走れないからです。


 やはり女子で言えば、400m66秒前後のタイムで短い距離を速く走るのと、400m78秒でずっと走り続けるのでは体の使い方が全然違います。この異なるペースにおける体の使い方を習得するのが難しいので、10000mと1500mでどちらもトップを取るのは難しいのです。


 田中選手は1500mの能力を考えるとトップを取っているとは言えないのかもしれませんが、1500mから10000mへの落とし込みが非常にうまく、力で押していくのではなく、リズムよく押していく走りが完成されていました。接地の瞬間にはまだ硬さが残りすぐにハーフマラソンでも通用する走りではありませんが、両肩の動きと接地のタイミングがピタリと合い、力を使わずにリズムで押していく走りはほぼ完成形と言えます。


 ちなみにですが、田中選手は将来マラソン志望です。これは確かな筋からの情報で、「本人がマラソンをやりたい」と言っているそうです。そういう観点から今の彼女の走りを見た時に、彼女の走りなら充分にロードでも通用すると思います。


 接地に関しては、もう少し柔らかい走りじゃないと無理だとは思います。ただ、彼女の場合は接地を柔らかくするか、もしくはあの走りで持つ筋持久力をつけるかのどちらかでしょう。ロードでは名前は忘れましたが、ホカオネオネから出ているスパイクに近い感覚で走れるロード用レースシューズを履いています。そのシューズでマラソンが走り切れるだけの筋持久力をつけることが出来れば、前代未聞のマラソンランナーになるでしょう。


 スパイクみたいなシューズでマラソンを押し切ることは、私なら想像は出来ませんが、彼女ならやってしまうかもしれません。


 結局10000mも日本人トップは田中選手で32分39秒です。日本人2位はGRラボの兼重選手、兼重さんも7000mくらいから一度苦しそうにしていたのですが、苦しくなってから重心を落とし、ピッチで前に前にぐいぐいと走る走りに切り替わりました。苦しくなると、重心が浮いてしまい、地面をけるような走りになるのですが、苦しくなってバネもなくなってきているので、キックが空回りするような選手が多いです。


 ところが、兼重さんは重心を落とし、重心をおさえながら、脚を前にスライドさせるように走りを変化させてロングスパートをかけておられました。ベテランらしい走りの妙技です。田中さんから2秒遅れの32分41秒でゴールされました。


 そして、5着に入ったスターツキャプテンの佐藤奈々さんは32分50秒の自己ベスト達成です。佐藤さんは私が大学に入った時の大学院1回生でした。私が陸上競技部をやめた時は、佐藤さんは大学院生2回生です。そんな最上級生となった佐藤さんが「池上君、陸上部辞めても全然グランド使いや。なんか言ってくる人がいたら私に言ってくれれば良いから」と言ってくださる姉御肌で、その性格の通りスターツでもキャプテンをされています。


 佐藤さんは上からの評判も良く、佐藤さんがスターツに入社した時のマネージャーさんからも「佐藤は入社した時から、真面目でしっかり者で、信頼できる」とのお声を聞いています。人づてに聞く話というのはどこかで歪曲されるものですし、面白おかしく悪口を言われたりもするものですが、佐藤さんは良い評判しか聞かないです。


 そんなスターツキャプテンの佐藤奈々さんの応援をこれからも宜しくお願い致します。


左から京都教育大学入社時の3つ上の先輩中村真悠子さん、スターツキャプテンの佐藤奈々さん、筆者


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筆者紹介

​ウェルビーイング株式会社代表取締役

池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

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