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私に腰高の走りを教えてくれた人

 バナナの味を説明してくれと子供に言われれば、あなたはどうしますか?


 千言万語を尽くしても、バナナの味を説明することは無理でしょう。


「ねえねえ、お父さんバナナの味ってどんな味?」


「どんな味って甘い味だ」


「じゃあチョコレートみたいな味?」


「チョコレートとはまた違うな。もっとフルーティな味だ」


「フルーティって何?」


「フルーティってのは果物みたいな味ってことだ」


「でもお父さん、おみかんは甘くないよ。酸っぱいよ」


「おみかんみたいな味じゃねえんだ。もっと甘い味だ」


「でもチョコレートとは違うんでしょ?」


「チョコレートはちょっと苦くて甘いだろ?バナナはもっとはじめっから甘いんだ」


「えー、そうなんだ。じゃあお砂糖みたいな味?」


「お砂糖はもっとはじめっから甘いだろ?バナナはあそこまでは甘くねえ」


どうですか?


 こういうやり取りが延々と続く羽目になるでしょう。陸上競技も同じで言葉で伝えられることと伝えられないことがあります。長距離走・マラソンは幸いなことに、ほとんど言葉で伝えられます。基本的なことは全て言葉で伝えられると言って良いでしょう。何故かというと、技術的なことはあまりないからです。


 しかし、技術的なことがない訳ではありません。やはり、技術的なこともありますし、一流選手というのはすべからく固有の技術を持っています。腰高の走りというのも、言葉で説明するのが難しい技術の1つです。中高生に「腰高の走り」とだけ伝えるとたいていは接地の瞬間に上にジャンプしてしまい、ぴょんぴょんと上に跳ぶような走りになってしまいます。


 しかし、これでは長距離走は速く走れません。無駄な動きを上に逃がさずに、前へ前へと進むように流れるように走ることが大切になります。では、腰高の走りとはどういうものか?


 「日の丸を背負った京大生、消えた天才平井健太郎のトレーニング戦略」の中で平井は、地面から天まで一本の線を引っ張って、頭頂部が天に向かって引っ張られる感じと説明していました。これは非常に分かりやすいですね。さすがは、セルフコーチングで10000m28分36秒、ハーフマラソン62分30秒で走っただけのことはあります。家庭教師をしていただけあって、説明が簡潔かつ分かりやすいです。


 そして、腰高の走りのメリットを「ストライドが伸びること」とこれまた簡潔かつ本質的なことを言い当てます。彼の話を聴いていると「膝を打つ」とはこういう時に使うんだなと思うことがたくさんあります。


 しかし、それでもやはり分からない人には分からないでしょうし、分かったと思っていても、実際に走って見せたら平井に「そうじゃない」と言われてしまうかもしれません。私自身勝手に分かったと思っていますが、平井に見せたらなんと言われるか分かりません。


 そういう意味では、やはり言葉には限界があります。しかし、目で見れば分かります。私が初めて「腰高の走りとはこういうものか」と腑に落ちたのは高校1年生の時でした。


 先日行われた淀川マラソン、うちの副社長は途中棄権してしまいましたが、優勝者の名前に懐かしい名前を見ました。志方文典さん、西脇工業から早稲田大学へと進んだ名ランナーです。確か大迫傑さんの著書「走って、悩んで、見つけたこと」の中に、大迫さんの同級生で高校時代の実績はほとんど変わらないのに、大学では差がついた。自分は全て自分で考えて決めてきたけど、彼は「指導者がこう言ったから」で行動していた。そこが自分との差になったというようなことを書いておられたのですが(私の記憶が正しければ)、この彼は名前を出さずとも関係者なら志方さんのことだと分かります。


 私も何度か言っているのですが、強くなる選手は大きく分ければ、1,やんちゃ型、2.マイペース型です。やんちゃ型は指導者との対立も辞さずに自分の主張を押し通そうとするタイプで、マイペース型は「はい、はい」と言っておきながら、ちゃんと自分のやりたいようにやってしまう人です。


 長距離選手で強くなる選手は基本的に全員真面目です。真面目じゃない選手で強くなる人はまれです。でも、その中から抜きんでるには、真面目なだけで強くなる人は少ないです。やっぱり、自分なりのやり方とか感覚というものを持っている人が多いです。


 この辺りは難しい問題です。私自身も多分指導者のいうことを聴きすぎたんだと思います。それだけではないにしても大成しなかった理由の1つでしょう。ただ、私の場合は、1から自分で考えてやれと言われれば、全然自分で出来るんですね。それでも指導者につく以上は、自分の意見くらいは言いますが、最終的に決定権を持つのは指導者だと考えています。信頼関係の問題だと言って良いでしょう。あるいは、組織論的なものなのかもしれません。


 例えばサラリーマンをやるとして、自分は契約にのっとった業務を遂行するためにお金を頂いているのですから、たとえ上司の意見に反対であっても上司からの指令に従うべきだと考えています。ただ、サービス残業や体罰などは契約にのっとっていないので、交渉の余地があったり、従う必要が無かったり、警察に相談するなどの処置を取ることになると思いますが、人に雇っていただく場合は、雇ってくださった方の業務命令に従うべきだと考えています。


 今は経営者なので、全て自分で判断していくことになりますが、それは自分が経営者という役割を担っているからであって、サラリーマンをやるならサラリーマンの役割を遂行するのが任務です。


 私にとっては、マラソンは仕事でしたから、意見を異にしても最終的にはコーチの言うことに従うべきだと考えています。「自分で考えることも大切」というコーチもいますが、私からすればそれならコーチはいりません。別に1から自分で考えてやろうと思えばやれるのですから。そして、その組織の長に従わないなら、その組織にはもういてはいけないでしょう。


 しかし、こういった割り切った考え方は、陸上選手としても社会人としてもなかなか難しいものがあるのでしょう。皆さんもうそうだと思うのですが、社会で生きていく上ではグレーな部分は必要です。先述の通り、強くなる選手は上手く組織を活用しながらも、肝心なところでは我を押し通してしまう人です。ある意味グレーな部分を上手く使える人と言えるでしょう。我を通すと言っても単なるわがままではありません。強くなるためにこれが必要だと思ったら、それを押し通してしまうのです。


 改めて考えてみると、確かに強くなる選手は我の強い人が多いです。しかし、我は強いけれど、本当の一匹オオカミというのは見たことがなくて、なんだかんだで上手く組織の中で我を押し通す人が多いと言えるでしょう。


 志方さんはそういう意味では、真面目だからこそ強くなり、真面目だからこそ壁にぶち当たってしまった選手なのかもしれません。しかし、高校時代の志方さんは本当に強かったです。全国高校駅伝では、3区で23分34秒という7年間残る日本人最高記録をマークしました。登りのコースの8.1075キロをおよそ、2分55秒で押し切ってしまったのです。


 この年私は全国高校駅伝で4区を走っていますので、志方さんの走りを間近で見ておりました。それ以前から近畿インターハイやインターハイでも西脇工業高校のエースとしてご活躍されていた志方さんの走りは見ており、「腰高の走りとはこういうことを言うのか」と勉強させて頂いておりました。


 かなりもったいぶってしまいましたが、実際の映像をどうぞ!



 これは兵庫県高校駅伝の映像です。西脇工業の選手が志方さんです。こうやってみてみても、「あまり腰高じゃないじゃないか」と思われる方が多いかもしれません。ですから、このあたりが言葉で伝えることの難しさです。


 「腰高」というよりは腰の位置に着目していただきたいのです。腰が乗っているといいましょうか、前傾はしていないんだけれども、腰の位置が前にあるのです。


 着目すべきはこの動きのゆったりさと小ささです。これでも1キロ3分ペースは切っていますから、大きなストライドのはずです。しかし、見た目にはゆったりと小さな動きに見えます。これは腰の位置が高いので、下の空間が広くなり、脚を大きく使うことが出来るからです。


 また腰の位置が前にあると書いたのですが、このことによって後ろの空間も広くなり、後ろの脚の動きが大きくなります。基本的には、前に進むには体の後ろで脚をかくことが必要になるので、後ろの動きが大きくなるとストライドが伸びるのです。


 また後ろの動きが大きくなるとハムストリングスや大殿筋などの大きな筋肉群も使いやすくなります。分かりやすいたとえで言えば、縄跳びで使う筋肉は主にふくらはぎの筋肉です。縄跳びというのは基本的には体の真下だけで、ジャンプしています。


 一方で、エンストしてしまった車をみんなで後ろから押す場面を想像してください。強く地面を押そうと思えば、脚は必ず体の後ろにあり、ハムストリングスや大殿筋などの大きな筋肉群を使って地面を押すことになります。走りでは前に前にと進むので、こちらの動きが中心となるべきなのです。


 ふくらはぎの筋肉もアキレス腱反射も使うのですが、人間だれしもふくらはぎよりもハムストリングスや大殿筋の力の方が強いので、どちらかと言えばという話です。


 そして、下半身と上半身が連動し、体の内側(肩甲骨と骨盤)からしっかりとうねって大きな力を生み出しています。腕振りも小さく見えますが、これは肩甲骨から動かしているから小さく見えるだけで、しっかりと肩甲骨と骨盤が連動しているのです。また、しっかりと胸を開くことで、見た目の腕振りは小さいけれど、肩甲骨はしっかりと動くということが可能になっています。また、胸を開くことによって呼吸もしやすいはずです。大きく息を吸えるでしょう。


 そして、問題はここからなのですが、そこまで分かっているならお前もやれば良いじゃないかと皆さん思われると思うんです。でも、これは簡単には出来ないんですよ。この腰の位置、この脚の運び、この肩甲骨の位置は8キロでもなかなか維持できるものではありません。マラソンなんてとんでもないです。


 私が高校生の頃は、各学年5人くらいしかこの腰の位置で5000mを走り切れる選手はいませんでした。今は数十人います。レベルが上がったのか、厚底シューズのおかげなのかそれは分かりませんが、志方さんクラスの高校生が増えたなと思います。先述の平井健太郎がインカレで日本人トップの2番に入った時は、10000m通してこのポジションをキープしていました。本当に凄いです。


 では、どうすればこの走りが出来るのか、どうすればこの走りに近づけるのかということですが、これはもうある程度はクロカンと体幹補強をやらないと無理です。なかなか普通に走っているだけでは難しいと思います。無理とは言いませんが、体幹補強とクロカンが近道だと思います。


 それからミラーリング効果もあるでしょう。高校駅伝関係者やファンの方ならなんとなくお分かりいただけると思うのですが、西脇走り、佐久長聖走り、立宇治走りといったものが存在し、これら強豪校で強くなっていく人はある程度同じような走り方をしているのです。


 もちろん、一人一人個性がありますから、完璧に同じにはなりません。完璧に同じにはならないのですが、先輩の動きを見て覚えることが出来ますし、意識しなくても自然と毎日それを見ていれば自分もそうなっていくのです。人間にはミラーニューロンと呼ばれる神経細胞があり、毎日毎日あるものを見ているとそれをコピーする習性があるそうです。


 夫婦の顔も似てくると言いますし、また双子はずっと一緒にいると顔が似てきて、しばらく離れるとちょっと顔が変わってくると言います。


 洛南高校陸上競技部の柴田博之先生も「最近は先輩が基本を押さえてやってくれているから、新入生もそれを自然と真似する。だから、基本的なことを教える必要がないから、初めからレベルの高いことが出来る」とおっしゃっていました。これが伝統の力であり、日本一の陸上競技部を支えている土台なのでしょう。


 年配の方はなんとなくお分かりいただけると思いますが、今の子供はキャッチボールが下手です。男の子なのにボールを投げさせると女の子投げみたいになる子もいます。これは単純にプロ野球の視聴率と関係があるでしょう。昔はスポーツは野球と大相撲くらいしかありませんでしたが、今はサッカーもバスケもゴルフも色々あります。


 そう考えると、マラソンと駅伝はもう何十年も、野球ほどではないにしても日本人に長く親しまれていると言えるでしょう。


 要するに、何が言いたいかというと映像を見るだけでも若干の効果はあるということです。毎日その人の後ろを走れれば理想なんでしょうが、志方さんも今は長野の山奥、野辺山で農業を営んでおられますから、そういう訳にもいかんでしょう。しかし、映像を見るだけでも効果はあるので、皆さんも参考になりそうな選手がいたら、是非映像を何度も見てください。


 あとは繰り返しになってしまいますが、そうやって技術的なものを身につけても、つまり100mだけならその動きが出来たとしても、長距離走・マラソンの場合はそれで最後まで走り切らないといけませんから、それがレースで使えるようになるかどうかはまた全然別の話なのです。


 だからこそ、クロカンのように不整地や起伏のある所を走りこんだり、体幹トレーニングが重要になってくるのです。クロカンに関しては住んでいる地域に当然制限されます。これまた難しい問題で、延々と上り坂を走り続けるというのはまた違うんです。ちょうど良いアップダウンのあるコースがあれば良いのですが、なかなかとれないでしょう。


 しかし、例外なくやっていただきたいのはやっぱり体幹トレーニングです。


 実際に、あるウェルビーイングオンラインスクールトレーニングプログラムビルダーの受講生様より頂いたお声を紹介させて頂きます。


先日3月21日の月曜日祝日にフルマラソンを走りました。 渡良瀬遊水地のトライアルマラソンです。  結論から申し上げますと、初めてサブ3を達成いたしました。 しかも還暦になってからの、サブ3です。  私は50歳からランニングを始めました。 その後、2度目のマラソンでサブ3.5を達成して、 すぐにサブ3なんて行けるよなと思っておりました。  しかし、サブ3は甘くなく、何度その壁に跳ね返されたかわかりません。 それと、私は汗っかきでフルマラソンの7割のレースでは足がつれてしまって、失速しています。 ほとんどふくらはぎがやられてしまっています。  ラン仲間のコーチ的存在の方からのアドバイスで、 大きな筋肉で走らないといけないということを教えていただき、 最も大きな筋肉であるお尻で走ることを意識しだしました。  それとコーチから金井さんは腹筋が弱いと指摘されました。 その後、腹筋トレーニングなんて面倒だなと思いつつなにも対処しないていたところ。 池上さんがショーコさんの体幹トレーニングを販売することを知りました。  これは面白そうだから、安いし、買っておこうかと即購入。 すぐにYoutube版が送られてきました。  早速やってみたところ、 なにこれ、って、ほとんどできません。 V字なんてどうやってできるの??? という感じでした。 しかし、音楽とトレーニングが合っていて、 なぜか、毎日朝ランの前にするのが日課となってしまってきておりました。 そうすると1か月で腹筋がわずかですが、割れてきているのがわかりました。  これはすごい、 本物の体幹トレーニングだ。 と実感して、現在も毎日欠かさずやっています。 レース当日ももちろん行いました。  レースはコーチがずっと引っ張てくれて、 前半は抑えてということで、ゆっくり入っていきました。 ハーフで1;30を超えていたので、 さすがに大丈夫かと思いましたが、信じてついていきました。  そうしたところ、いつも30km前後で脚がつれるのが、 全くその気配がなく、ほっとして走っておりました。 35kmまではそのままでということでついていき、 その後、これはいけると体が感じて、 それ以降ペースアップしました。 おかげで39km以降は1km3分代で走り、ゴール!!! やったー、サブ3達成! 大喜びでコーチと握手。  これもひとえに池上さんの書籍で学んだり、 特にレース2か月前に購入した体幹トレーニングを毎日行った結果だと思います。 コーチにも知らずのうちに、金井さんの足音がよくなっっていたと言われました。 これは体幹トレーニングのおかげと思っています。  おかげさまで還暦サブ3達成できました。 ありがとうございました。 ショーコさんにもよろしくお伝えください。  次回はまたすぐに長野マラソンがあります。 今回の記録はランナーズには載りますが、正式ではないので、 長野マラソンで再度サブ3を達成して、 別府大分毎日マラソンにカテゴリー3で出場したいと思っております。 本当にありがとうございました」


 これ以上の説明はもう必要ないかと思います。長距離走・マラソンが速くなりたい方は、体幹補強を是非継続的に取り組んでください。ただ単に腹筋、背筋を鍛えれば良いというものではありません。腹筋も背筋ももう少し細かく分かれており、それぞれの筋肉群にちゃんと刺激が入り、なおかつお尻周りも鍛えられて、片足立ちでのバランス系種目が入っているものを選んでください。


 私は何をしているかというと、先述のウェルビーイングオンラインスクールの受講生様が実施してくださっているショーコさんの体幹トレーニングを実施しています。こちらのプログラムは上記の要素を全て満たしております。興味のある方はこちらをクリックして詳細をご確認ください。

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筆者紹介

​ウェルビーイング株式会社代表取締役

池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

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