休養の捉え方
休養が重要であることに対して、誰も異存はないと思いますが休養の捉え方が人によって異なることに気付いている人はどのくらいいますか?休養というと多くの人は何もしないこと、若しくはアクティブリカバリーの日を思い浮かべるかもしれません。
この記事では、楽な練習の日若しくは何もしない日を作るという意味の休養ではなく、普段の日常生活をどのように過ごすかということについて言及したいと思います。
2.休養を重視する選手・コーチ
休養を重視するコーチは数多くいますが、私の中ではレナト・カノーヴァもそのうちの一人です。彼は「走り終わってシャワーを浴びると第一の練習が始まる。何故なら、練習は休養から始まるからだ」と述べています。彼が指導するドイツ人の双子のマラソンランナーであるリザ・ハーナーとアンナ・ハーナーの著書『Time To Run』には次のような記述があります。
「休養はランニングシューズから革靴に履き替えて、職場へと大急ぎで飛び出すことではない。事務作業は運動ではないが、神経が疲れてしまう」
この記述からも彼女たちが休養を単に休養日という意味でのみとらえていないことが分かります。先日の福岡国際マラソンで優勝したソンドレ選手もコーチカノーヴァの指導する選手ですが、彼は故障していた時はフルタイムで、ランニングショップで働きながら練習を続けていました。彼もプロフェッショナルになって一番大きく変わったのは休養だと述べています。仕事は練習には影響しないが、休養に影響するとも語っています。彼と話しているときに一度「君はプロフェッショナルなのか」と聞かれたことがあります。私がハノーファーマラソンに交通費を出してもらってケニアに行き、コーチホーゲンの運営するトレーニングキャンプで練習していた時の話です。
「わからないね。稼いではいないが、この合宿費は払っていない。これがプロかどうかは分からないよ」
「プロフェッショナルであるのに、大金を稼ぐ必要はない。金は大事だし、俺もいくらかは銀行口座にためてるが・・・金だけが人生じゃない」
彼が意味するところはよく分かりました。お金は大切ですが、一日24時間を競技のために使えることこそが、プロフェッショナルの利点です。要するに、休養に多くの時間を使えるということです。当時はまだ実力がありながら、今ほど実績がなく、安宿旅をしていたソンドレ選手ですが、今ではソンドレ選手の銀行口座にはいっぱいお金がたまっているでしょう。
京都の京田辺市にしばらく滞在して立命館大学の男子長距離部員のところによく顔を出していたアドハラナンド・フィンさんが書いた『Running with the Kenyans』という本がありますが、その中にもケニア人との練習と他の地域での練習での最も大きな違いは「休養」だという記述があります。ケニアでは「ランナーになりたい」というと、「ランナーになるのなら、一日のほとんどを休養に費やさないといけないよ」と言われるそうです。
日本の特殊事情は、実業団システムでしょう。これはそもそも一般的に労働時間が欧米諸国と比べて、ダントツ長いから存在するのだと思います。ドイツやスイスではフルタイムで働きながらでも、比較的競技に集中できると思います。ただ、日本ではよほど慎重に選ばないとまず無理でしょう。私の場合も高校の非常勤講師や英会話教室の講師として週30時間くらい働くなどが現実的な選択肢としてありましたが、正社員としての入社や教員として採用されるという選択肢は真っ先に除外しました。
3.コーチホーゲンの考え方
休養を重視するのは私のコーチ、ディーター・ホーゲン氏も同じです。十分な休養なくして、成功はあり得ないと常々語っています。その中でもコーチホーゲンが重視しているのが睡眠と栄養です。そして、免疫系とホルモンバランスを正常に維持することが長距離選手の成功の鍵です。栄養に関しては、詳しくは過去記事にたくさん書いていますが、簡単に書くと精製されていない糖質と炎症を抑える油(酸化していないオメガ3、オメガ9:アヴォカド、ナッツ、オリーブオイル)、抗酸化作用の高い野菜や果物を中心とした食生活です。睡眠もできるだけ多く取るようにしていますし、睡眠の質も大切にしています。大学時代やアルバイトしていた時代は日中休めない分、夜はしっかり寝るようにしていましたし、そのため大学時代は友達とご飯を食べに行くこともほとんどなかったです。
免疫系の維持には亜鉛や生ニンニクの摂取が有効です。ホルモンバランスに関して言えば、私は瞑想を薦めています。コルチゾールなどのストレスホルモンが超越瞑想によって有意に減少することが様々な研究で明らかになっています。詳しくは過去記事の『瞑想とリカバリー』
)を参照してください。
休養とは関係ありませんが、ホルモン系に関して言えば、コーチホーゲンは練習を楽しむことをとても重視しています。練習を楽しむことが自分の能力を引き出すホルモンを分泌させ、リラックスして速く走ることを身につけさせてくれるからです。この点では、私もコーチホーゲンも100%同じ意見です。コーチホーゲン自身も未だに走ることもコーチングも楽しんでいる元気な64歳です。
それ以外ではヨガエクササイズもプログラムの中に取り入れています。コーチホーゲンの奥さんが運営しているtake the magic stepというサイトにたくさんの写真と共に紹介されているので興味のある方はそちらもどうぞ。
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参考
『Es liegt an den Trainern』
https://www.leichtathletik.de/news/news/detail/dieter-hogen-es-liegt-an-den-trainern/
Adharand Finn著 『Running with the Kenyans』
Lisa Hahner・Anna Hahner共著 『Time to run – Das Trainingstagebuch für alle, die das Laufen lieben』