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ランナーが侵しがちな二つの大きな過ち

更新日:2021年10月16日


1.やってはいけないことは何故やってしまうのか

 だいぶ間が空いてしまいましたが、前々回の記事で睡眠の重要性について述べ、最後になかなか早く寝られない人のために記事を書くと約束しました。今回は早く寝られない人のために問いの立て方を変えることを提案したいと思います。早く寝ようと思っても寝られないという人は、不眠症の人を除けば、自分で自分の行動が思うようにコントロールできない人です。今日こそ早く寝ようと思ったのに早く寝られない人は、寝る前の2時間で何をやったか振り返ってみてください。最近ではLINEの返信、インスタグラムやフェイスブックのチェック、SNSへの投稿へのコメントの返信、広告メールのチェック等々だと思います。或いは、仕事のメールをチェックしたり、明日着ていく服を決めたり、ニュースや天気予報のチェックかもしれません。物事の優先順位は人によって異なりますが、睡眠よりも優先すべきことがどのくらいあるでしょうか?もちろん、絶対に今日中に返さなければいけない仕事のメールもあるでしょうし、早く返信しないと機嫌が悪くなる友達もいるかもしれません。しかしながら、たいていの場合、早く寝られない人は早く寝るという行為が出来ないのではなく、必要でもない行為をやめられない人です。


 では何故、よくよく考えれば今やらなければいけない訳でもないことをやめられないのでしょうか?答えは単純で習慣だからです。人間はそれが「やってはいけない」と思い込んでいることであれ、「やらなければいけない」と思い込んでいることであれ、吟味してみると単なる習慣に過ぎないということはよくあります。と言うよりほとんどの場合は単なる習慣にすぎません。タバコがやめられないのも、ニコチン依存だけではなく習慣も手伝っています。例えば、仕事終わりの一服が習慣になっている人はニコチンとは関係なくなかなかタバコがやめられません。それは仕事終わりの解放感という快とタバコが結びついているからです。


 習慣がやめられないのはそれが半分無意識の行為だからです。「仕事が終わるとタバコが吸いたくなる」というところまで人間の行為の原因をさかのぼれば、そういった気持ちが出ること自体は100%無意識と言って良いでしょう。無意識の行為は、意識に挙げることによってよりコントロールしやすくなります。より具体的に言えば、「何故私は今これをするのだろうか」と一度自らに問いかけてみるだけで、自分の行動をよりコントロールできるようになります。先述したように、物事の優先順位は人によって異なるので、「何故私は睡眠時間を削ってLINEの返信をするのだろうか」と自問して、「今LINEの返信をすることに睡眠時間を削るだけの価値はないからやっぱり寝よう」という結論になるか、「早く返信しないと友達の機嫌が悪くなるから、今返信しよう」という結論になるかはその人次第です。重要なのはどちらの場合においても、一度意識に挙げて考えることによって後から後悔することがなくなるとともに自分の行為をコントロールしやすくなることです。


 わざわざこのようなことを書くのは、自分の行為を意識に挙げることを癖にしておけばランニングにも役立つからです。

2.ランナーが侵しがちな二つの過ち

 アメリカで多くの指導実績を上げているコーチBrad Hudson氏は著書『Run Faster』の中でランナーが侵しがちな二つの大きな過ちとして1.他人のプログラムをコピーする、2.計画したトレーニングに固執し過ぎる、の二つを挙げています。特にHudson氏自身は二つ目の過ちを頻繁に犯してしまったと、現役時代を振り返って述べています。大学時代からアメリカのトップ選手であったにもかかわらず、プロになってから残した最も良い成績はマラソンで2時間13分という記録でしかありませんでした。トレーニングプランに固執するあまり、頻繁に故障とオーバートレーニングに陥り、トレーニング刺激に対して体が適応することはなかったと述べています。現在では、トレーニングプログラムは鉛筆で書くという大原則を打ち立てている彼ですが、優れたトレーニングプログラムの作成と微調整は言葉にするほど簡単ではありません。


 「無理するな」というのは簡単ですが、どこからが無理でどこまでは適切なトレーニングかを判断することはとても難しいことです。また、上手くいかない時に、早めに修正を試みるのが大切な一方で、結果が出るのは予定した計画を完璧に遂行出来た時であることも間違いありません。私のように優れたコーチがついている場合は、プラン自体が優れているので完璧に計画通りに行けば、まず間違いなく結果が出せます。


 一方で、これまでのところ完璧に計画通りにこなせたことはありません。そうであれば、早め早めに修正したほうがレースでは幾分ましな結果が出せます。プランを変更すべきか、変更するならどのように変更すべきか、コーチに体の不調をどのように伝えるべきか、このような決断を迫られた時に役立つのが、一度意識に挙げて徹底的に吟味するということです。「脚が痛くて予定されたトレーニングがこなせないかもしれない、どうしよう」と悩んでいるとすると解決策は二つしかありません。脚が痛くなくなるような手段をどこかから見つけてくるか、プランを変更するかのどちらかです。通常は同時並行で行いますが、大切なのは一度「なぜ自分は予定されたプランを遂行したいのだろう」と考えてみることです。答えはたいてい「次のレースで最善の結果を出したいから」です。そうすると、脚が痛くない時に立てたプログラムに固執するよりも、脚が痛くなった現状を踏まえたうえで改めてプランを立てたほうが上手くいくのではないかという結論になることが多いです。


 場合によっては、そのような余裕がないときもあります。次のレースまであと5週間しかなく、脚が痛くてハードな練習が出来ないなら、次のマラソンはキャンセルしなければならないというケースもあり得ます。マラソンは周到な準備が必要です。人によって考え方は違いますが、「参加することに意義がある」は我々にはありえません。タイム重視のレースと勝負重視のレースで多少異なりますが、良い結果が望めないならレースはキャンセルします。レースディレクターからの信頼を失わないためにも、マラソンに出るなら常に準備が出来ていないといけません。


 このようなケースでは、脚の痛みに耐えて練習を続けるか、レースを諦めるか選ばなければいけません。勿論、練習を続けても脚が壊れないという確信がなければ、早めに諦めたほうが良いです。痛みは耐え難いけど、マラソンを走る上での機能に支障はないという判断であれば、その状況で最善を尽くすしかありません。大切なのは、結論がどうであれ、一度意識的に吟味してみることで、しなくてもいい故障やオーバートレーニングのリスクを減らすことが出来るということです。誰しも完ぺきではないので失敗がゼロになるかと言えば、そうではないでしょう。しかしながら、一度意識に挙げてみることでより賢明な判断が下せるようになり、たとえ失敗しても後々後悔することはなくなるはずです。


 本来、悩んでいるときというのは解決策のない問いを立てているからです。「レースまであと4週間しかないけど、脚が痛い。どうしよう」と言われても、どうしようもありません。先ずレースを諦めるか、現状で最善を尽くすか決めなければいけません。後者であれば、トレーニングプログラムを変更するのかしないのか、抗炎症剤は何をどれだけ服用するのか、ステロイド使用の申請を国際陸連に出してステロイドを使うのか否か、最も頼れるセラピストは誰なのか、自分で出来る故障個所のためのエクササイズは何なのかなどなど考えることはいくらでもあります。悩むというのは問いの立て方が間違っているからであり、問いそのものを変えることで悩みを前に進むエネルギーに変えることが出来ます。

 長距離走、マラソンについてもっと学びたい方はこちらをクリックして、「ランニングって結局素質の問題?」という無料ブログを必ずご覧ください。



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筆者紹介

​ウェルビーイング株式会社代表取締役

池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

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