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球数制限とメタメッセージ

更新日:2021年10月16日


少し古い話題ですが、高校野球で大船渡高校の163㎞右腕佐々木投手が前日の試合で129球を投げて完投し、次の日の試合では起用されずに敗退したことが話題になりました。この時佐々木投手は特に故障や違和感はなかったものの将来のことを考えて大事をとって別の投手を起用したとのことです。

賛否両論なのは当然ですが、そのチームのことは監督が決めることなので周りがとやかく言っても仕方ないのですが、本当にこれが本人の将来のためになったのかどうかということに関しては疑問です。もう少し正確に言うと、監督さんとしては佐々木君が故障しないようにとの配慮があって起用しなかったとのことですが、こういう起用の仕方をすると寧ろ、故障しやすくなってしまうのではないかと思ったからです。

というのは何故かと言うと3年間の集大成という大事な試合で前日に129球投げているからという理由で起用されなかったという事実が「100球以上投げて連投すると故障する」という強烈なメタメッセージになってしまうからです。メタメッセージとは非言語的なメッセージのことです。

例えばあなたは、口では「走るのが大好きです。私努力しているんです」と言いながら、肝心なところで自分にまけてしまう選手と、口では「走るのなんか好きじゃない。仕事だから仕方なくやってるだけ」と言いながら、練習では淡々とやるべきことをこなし、日常生活でも節制を欠かさない選手とどちらがやる気があると思いますか?大抵は後者だと判断すると思います。

人間の潜在意識も同じでこういった非言語的なメッセージや情報を敏感に受け取ります。そして、本人も気づかないうちに潜在意識に埋め込まれます。そして潜在意識に埋め込まれたものはかなりの確率で現実になります。自分で「100球以上投げて連投すると故障する」と思い込んでいると本当に故障しやすくなってしまいます。

じゃあ逆に「大丈夫」と思い込めたらいくら投げても大丈夫かといわれるとそんなことはないとは思いますが、今は野球界もそんなに無茶に投げさせられることはありません。高校野球は若干過密日程ですが、試合数自体は優勝チームで都道府県予選と甲子園合わせて12試合程度です。負ければ当然試合数は少なくなります。プロ野球はローテーションシステムと先発、中継ぎ、抑えの分業制が確立しているので年間300イニングとか400イニングみたいな無茶な記録はもう生まれません。

ただ分業制やローテーションシステムで負担を減らしても、それを「投げ過ぎたら故障してしまう」というメタメッセージとして本人が受け取れば故障のリスクは高まります。潜在意識の抵抗に勝つのは本当に難しいです。潜在意識の凄いところは本当に故障を作れることです。気のせいとかではなく、本当に故障するのです。

そして、潜在意識に刷り込まれるのは反復性と情動の強さです。朝鮮戦争やシベリア抑留でソ連が実行したように、強制的にでも毎日共産主義の正しさを主張した文章を繰り返し読ませれば、そのうち本気で共産主義を信じるようになります。特に外部からの情報を遮断した状態ではそうです。

もう一つの情動の強さで言うと、代表的なものは恐怖です。他にも喜びや楽しさなどの正の感情も働きますが、恐怖や痛みなどの負の感情の方が強く潜在意識に残ります。親や学校の先生が怒っとけば手っ取り早く子供に言うこと聞かせられるのも、恐怖を伴わせることで潜在意識に入りやすいからです。

そして、口で言うよりも非言語的なメッセージの方が強く潜在意識に残ります。昔ながらの体罰とか罰として走らせるとかいうのも口で言うよりも強力だということを指導者も経験的に知っていたからだと思います。

もう一度佐々木君のケースに戻ると、メタメッセージとしては「高校三年間の集大成としての試合を落としてでも連投は避けるべき」→「連投するとそれだけ故障しやすい」という内容になります。しかも、負けた悔しさと重なって強烈に潜在意識に刷り込まれてしまいます。結果的にこちらの方が危険なのではないでしょうか?

何らかの理由でトラウマを抱えた児童生徒は登校時間が続くと本当に頭痛や腹痛に悩まされます。そして、登校時間が過ぎ、学校に休みの連絡を入れ、お昼ごはんが過ぎるころには元気になるので周りは仮病だと思う訳ですが、これはトラウマを抱えた児童生徒には本当に登校時間になると頭痛や腹痛が起こるのです。潜在意識にはこのくらいの凄い力があります。

故障しなかったら大成するのか?

今回の主要なテーマはメタメッセージなので、あまり長くは書きませんが、故障しなかったら大成するのかと言うと、これもそうではないと思います。最近はマラソン界も野球界も保護傾向に全体が寄ってきていると思います。全国大会で優勝を目指す学校の練習やマラソンでトップを目指す実業団チームの練習がきついのは当然ですが、今はどこのチームもそんなに無茶なことはしません。勿論、どの選手もオーバートレーニングとか故障のぎりぎりのところで練習するので限界に近いと言えば、そうですがそれでも昔の選手みたいにコンスタントに月間1000㎞走ることも少なくなっています。シーズン30勝とか40勝していた昔の投手や走り込みを思いっきりやっていた昔のマラソンランナーは短命な選手が多いのですが、その中でも猛練習をしていた宗茂さんが「同じ1時間のジョグでも嫌々走ったら疲れるけど、これで疲労が抜けると思って走ると走り終わるころには気持ち良くなる」という趣旨のことを著書で述べておられます。

練習量もレースの量も多かった宗さんご兄弟の競技寿命は割と長いです。きついながらも、自主性を持って試行錯誤をどこかで楽しみながらやっていたから長持ちしたのではないでしょうか?

マラソンではほどほどの練習で勝った選手なんていません。結果を出すための練習をこなせるようになるまで何年もかけてそこに到達しています。しかも、一度結果を出せたからと言って次はほどほどの練習で結果を出せるかというとそんなに甘くありません。次も何か月もかけてしっかりと準備をしてきた選手が勝ちます。

結果を出している選手は高校くらいから実績のある選手がほとんどですが、高校時代に実績のある選手が順調に大成するかと言うとやっぱり消えていく選手の方が多いです。大事に育てれば結果を出せるかと言うとそんなことはないのです。

特に私のようにインターハイにも出ていない選手は、ハードな練習で潰れても、ほどほどの練習で2時間13分で走っても正直どっちもあんまり変わりません。2時間13分みたいなタイムしか出せないなら潰れたのと一緒です。寧ろ、結果を出すための練習をして潰れたらまだ納得できますが、予定通り練習をこなせたのに2時間13分では納得できません。女子で言えば、二時間二十五分くらいが一つのラインになって来るのではないでしょうか?それより上のレベルを目指さないなら初めから競技者としてやらない方がましです。

であれば、別に一回や二回や十回くらい故障してもまたやり直せば良い、やり続ければ大丈夫、そういう方向で考えていった方が良いのではないかと思います。潰れるとか潰れないとかいう言い方自体が少し極端だと思います。事故で右ひざから下がなくなったら、マラソンは無理かもしれませんが疲労骨折とかアキレス腱炎くらいでもう終わりだと思うのは少し極端だと思います。二年、三年と続く故障もありますが、それは治療の仕方が間違っているだけで治らない慢性痛などないというのが私の持論です(残念ながら、高齢者の場合は自然治癒力が落ちているので難しいケースもあります)。

とは言え、マラソンはやればやるほど強くなるというような単純なスポーツでもないので知的な戦略と効率の良いトレーニングプログラムが必要なことに変わりはありません。この辺りのことについてはロンドンオリンピック日本男子マラソン代表の藤原新さんも受講しご好評をいただいている講義動画の中で詳細を語っていますので、詳しく知りたい方は下記のURLをクリックし、無料ブログより詳細をご確認ください。


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筆者紹介

​ウェルビーイング株式会社代表取締役

池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

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