ここまでLLLTに関する記事を多数執筆してきたのですが、今回はLLLTと関節炎というテーマで記事を書いてみたいと思います。私も膝や肘を痛めたことがあるのですが、あれはもう長く続くとやっぱり辛いですよね。だって、普通に歩いたり、立ったり座ったり、文字を書いたりといった日常生活ですら、辛いんですから。
膝が痛かった時は、好きなランニングも出来ませんでしたし、肘が痛かった時は好きな野球が出来ませんでした。やっぱり、そういう経験というのは辛いものですよね。今回はそんなLLLTと関節炎の関係性です。これを言えば元も子もないのですが、最終的には使ってみないと効くかどうかは分かりません。私自身も使うと一気に良くなったこともあれば、一進一退を繰り返しながら、少しずつ良くなっていったこともあります。
LLLTに関する論文を何本も読んでいて思うのですが、プロトコルが週に2回とか3回の照射で、4週間後、8週間後、12週間後、16週間後に経過観察を行ったみたいなものが多いんです。でも、これって現場の競技者からするとかなり非現実的なんです。現場の選手は故障したら一日も早く復帰して、痛みなく走れるようになりたい、最悪痛みは消えなくても良いからやりたい練習が出来るようになりたいと思っています。当然、効果がある物はなんでも試すので、まず週2回とか3回というプロトコルは有りえませんし、あとは結果的に半年とか2年、3年続く痛みもあるのですが、本当は4週間とか8週間とかそんな悠長なことは言っていられないのが、プロのアスリートです。死活問題ですから。
そんな訳で、どの程度効くのかどうかは使ってみないと最終的には分からないのですが、それを言い出すとキリがありません。ただ私が使用前に知りたいのは、そのメカニズムがどうなっているのかということです。LLLTと関節炎および、その他すべての故障の作用機序は以下の通りです。
消炎
神経ブロック
筋芽細胞と骨芽細胞の成長の促進
今から一つずつそのメカニズムを解説していきます。まずは消炎作用に関してですが、これは細胞の正常なプログラム死=アポトーシスに関わるものです。アポトーシスを引き起こすカギを握っているのがミトコンドリアであることは以前のブログ記事にて述べました。
ミトコンドリアは生物学的な意味での呼吸(酸素を用いてエネルギーを生み出すこと)を司る細胞の中に存在する器官です。エネルギーとはATP(アデノシン三リン酸)のことですがATP(アデノシン三リン酸)を貯蔵することはできません。エネルギーを生み出す時にアデノシン三リン酸からリン酸基を一つ取り出し、ADP(アデノシン二リン酸)とリン酸に分解します。そして体内に貯蔵されているグリコーゲン、脂肪酸そしてわずかに蛋白質を利用してアデノシン二リン酸をアデノシン三リン酸に再合成します。以下に順を追ってより詳しく見ていきます。
ミトコンドリア内膜にある呼吸鎖というメカニズムを電子が通り過ぎることでアデノシン三リン酸を生み出しています。電子=水素イオンが呼吸鎖の中にある複合体Ⅰ、Ⅱ、Ⅳへと流れていき、水素イオンが内膜の外へと汲み出されます。
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ミトコンドリア内膜の外側に水素イオンが次々とたまっていくと、ミトコンドリア内膜の内側と外側に濃度や電位に差が生じます。
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ミトコンドリア内膜にはおよそ数万個のアデノシン三リン酸アーゼというものがあり、その構造はその中を通って水素イオンが内膜側に戻れるトンネル構造になっています。このトンネル(出入り口)は水車のような形をしています。ミトコンドリア内膜の内側と外側に生じた濃度や電位の差によって水素イオンが外側からミトコンドリア内膜の内側に移動するときにこの水車軸が少しずつ回転し始め、3つの水素イオンが通過すると120度ずつ回転し9つの水素イオンが通過すると一回転することになります。このミトコンドリア内膜にはキノコを反対にしたような装置があり、水車軸が回るたびにアデノシン二リン酸をとりこみリン酸基を一つ足してアデノシン三リン酸を生み出します。これがアデノシン二リン酸をアデノシン三リン酸に再合成するメカニズムです。ヒトの場合、この水車軸が一回転することで9つの水素イオンを使い3分子のアデノシン三リン酸を生み出すことになります。
ところが、このミトコンドリア内膜の外側にある水素イオンを内側に運び込めない状態が生じることがあります。ストレスを受けたり、局所貧血を起こしているミトコンドリアの内部では一酸化窒素が発生し、この一酸化窒素が発生すると、呼吸酵素複合体Ⅲから受け取った水素イオンを呼吸酵素複合体Ⅳに手渡す働きをするタンパク質であり、ミトコンドリア内膜に存在するシトクロムCが働かなくなります。
この結果、ミトコンドリア内膜で水素イオンが動かなくなるので、水素イオンはミトコンドリア内膜の内側で滞ってしまいます。水素イオンをミトコンドリア内膜の外側に汲み出す呼吸酵素複合体は電子を受け取りたがり、また次の複合体に電子を渡したがる性質があります。電子を次の複合体に受け渡すためにはシトクロムCが必要ですが、シトクロムCが働かないので電子を次の複合体に渡せなくなります。そうすると、この電子を他の物質に渡す可能性が高くなりますが、この時他の物質として最も考えられ得るのが酸素です。こうして酸素と水素が結びついて過酸化水素というフリーラディカルになり、フリーラディカルを発生させることになります。
こうしてミトコンドリア内部で大量のフリーラディカルが発生した結果、酸化損傷によってDNAに変異が生じると正常な細胞死であるアポトーシスが引き起こされなくなります。正常な細胞死が引き起こされないとネクローシスという炎症を伴う細胞死が引き起こされます。
ミトコンドリア内部のフリーラディカル発生とそれに伴う炎症にはシトクロムCが関与していることを述べてきましたが、LLLTから発生する光線がシトクロムC酸化酵素に吸収されると一酸化窒素を除去してくれ、酸化ストレスを減らし、アデノシン三リン酸の生成量を増加させます。この一連のプロセスによって、炎症の指標となるプログラスタランディンE2、インターロイキン1βと腫瘍ネクローシスファクターαの減少が認められます。
以上がLLLTによる消炎作用のメカニズムです。
神経ブロック
ここからは二番目の神経ブロック効果について述べていきたいと思います。まず痛みのメカニズムについて解説しますが、生理学では、一言で言えばある種の電気信号の伝達にすぎません。私たちの肌、筋肉、骨皮、関節、内臓には侵害性受容器という痛みの受容器が神経線維の末端の神経細胞にあります。もし組織の損傷という危機を感知するとこの侵害性受容器は電気信号としてこの情報を脊髄に送ります。
この時電気信号を送る神経には二種類あり、それがA‐デルタとC繊維です。A‐デルタの方がC繊維よりも速く神経を伝達します。まず初めに脊髄がAデルタの電気信号を受理するわけですが、この時脳は一切関与することが出来ません。熱した鉄板に手を触れた時、反射的に手を引っ込めることが出来るのは(意識しなくても手を引っ込めることが出来るのは)脊髄によって処理されているからです。しかしながら、脊髄で処理される段階では痛覚を生じません。
この後で痛みに関する情報は更に脳へと送られます。まずは意識の扉である視床下部へと送られ、その後3つの異なる領域に神経伝達が送られます。脳内のそれぞれの箇所で異なる方法で処理を施し最終的に痛みとして知覚されます。
LLLTの効果ですが、侵害性受容器における神経線維の移動を中断させることによって警告シグナルを発している組織周辺の神経伝達の量を減らします。上記の作用に基づき、LLLTの照射を繰り返すことで、脳で知覚する痛みを緩和することが出来ます。
筋芽細胞と骨芽細胞の成長の促進
筋芽細胞と骨芽細胞とは読んで字のごとく新しい筋肉と骨を作る働きを持つ細胞のことです。これらの細胞が治癒過程にはものすごく重要になる訳ですが、LLLTの照射はこれらの細胞の成長を促します。これは以下の実験で証明されました。
実験:ネズミの筋芽細胞(C2C12)と骨芽細胞(NIH3T3)をプレートの中で培養する。50%周期で2,5ヘルツ、652nmの波長の光を10分間照射し、コントロール群には照射しない。その後6時間後、24時間後、72時間後に細胞がどうなっているか調べられた。
結果:筋芽細胞の方は6時間後の時点では光線を照射したグループとコントロール群の間に違いは見られなかったが24時間後から光線を照射したグループでは優位に細胞の促進が確認され、72時間後には顕著な細胞の成長の促進が確認された。骨芽細胞の方では6時間後の時点ですでに有意な細胞の成長の促進が確認され、24時間後にはさらにその差は大きくなった。
また同様の実験において、アデノシン三リン酸の生成量とミトコンドリアの呼吸量も調べられました。再三述べているようにミトコンドリアの機能活性は細胞の正常なプログラム死のカギを握り、全ての低度で慢性的な炎症が原因となる疾患及び故障、アンチエイジングのカギを握るものです。結果はアデノシン三リン酸の生成量は両細胞において優位に増加し、ミトコンドリアの呼吸量は筋芽細胞では明らかに増加し、骨芽細胞ではわずかな増加が確認されたという結果になりました。
膝の関節炎とLLLT
膝を痛めたときによく処方される処方箋は減量と非ステロイド系の抗炎症剤です。非ステロイド系の抗炎症剤というのは、商品名でいえばバファリン、イブクイック、ロキソニン、アスピリン、ナロンエースなどなどの商品です。これらの商品は短期的に痛みを抑えてくれるかもしれませんが、長期的には副作用によるマイナス面の方が大きく、痛みや機能制限を助長します。理由は単純で、関節炎の原因となるフリーラディカルをより多く発生させるからです。
場合によっては、パラセタモールという薬が使われることもあります。パラセタモールは痛覚神経過敏を抑える薬でレオナルドディカプリオ主演の映画「ウルフ・オブ・ウォールストリート」の主人公ジョルダン・ベルフォートが腰痛に苦しみ、手術をしても治らなかった時に、パラセタモールを服用して、長年にわたる腰痛を完治させました。しかし、このパラセタモールも長期による服用は副作用の影響が大きくなります。
ちなみにですが、私がドイツに滞在した時は、イブプロフェンやサリチル酸メチルなどの非ステロイド系の抗炎症剤を故障した時に服用するように言われたのですが、その服用量は日本の薬の2倍から3倍の分量でした。ドイツ人は日本人と比べて体が大きいということもあるのですが、ドイツは医学が一番初めに発展した医療先進国で、薬に頼る傾向が強く(薬に対する忌避感が弱く)、薬の投与量が多いです。
その時に私が当時のチームメイトのフィリップ・バール(ドイツマラソン代表)に言われたのは、Hit it hard or take nothingというものでした。要するに、飲むなら三日間多めに飲んでそれ以上は飲むな、何故なら副作用があるから、飲むならしっかりと飲め、そうしないと効かないからということでした。何事も中途半端が一番ダメなのかもしれません。
ちなみにですが、こういった非ステロイド系の抗炎症剤の特徴は即効性があるけれど、長期服用すると副作用が大きくなることで、クルクミン、ブロメライン、MSM、オメガ3などの天然の抗炎症剤の特徴は副作用はないけれど、即効性に欠けることです。ということは、これらを適宜使い分けるのが良いのかもしれません。
LLLTに関しても多数の実験が行われており、800nm台の波長のエネルギーの照射と900nm台の波長のエネルギーの照射がCOX1、COX2、プログラスタランディンなどの発痛物質のレベルを著しく下げ、損傷した滑膜の修復も有意に促進されていたとのことです。滑膜というのは関節同士がスムーズに動くための膜で、からくり仕掛けでいうところの潤滑油の役割を果たします。
歳を取ると軟骨がすり減って膝が痛むと言いますが、軟骨や滑膜はこの潤滑油の役割を果たしているので、そこが損傷していると痛みが出ますし、そこが修復されると痛みは消えます。上記とほぼ同じような結果が手首やリューマチにおいても確認されています。
最後に筆者の経験を書いておきたいと思います。LLLTが有効な治療器具であることは、筆者の経験からも論を待たないと言えます。ただ、全てをLLLTに頼るよりも食生活、サプリメント、トリガーポイントへの治療などの総合的なアプローチで故障の回復はもっとも早くなります。どれが正しい、どれが間違っているという考え方をするよりも使えるものは何でも使うという気持ちを持っていただきたいなと思いますし、決して他の治療方法に対して否定的になったり、視野を閉ざすということのないようにして頂きたいなと思います。
LLLTは他にもたくさんのメリットがある治療器具です。詳しくは詳説LLLTという小冊子に書いていますので、ご希望の方はこちらをクリックして、問い合わせページに入り『詳説LLLT』と入力して、送信してください。筆者が確認次第、お送りさせて頂きます。
参考
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