池上秀志

2023年9月16日12 分

マラソンにおける我が闘争2:初心者のためのマラソントレーニング

 先日からメルマガやブログなどでお知らせさせて頂いていますが、現在物語形式で長距離走、マラソントレーニングについて学べる『マラソンにおける我が闘争』という小説を執筆しております。

 あらすじとしてはアドルフ・ヒトラーが1945年からタイムスリップしてきて、2019年にベルリンで合宿をしていた私に出会い、ユーチューバーだと思い込んだ私がヒトラーと一緒に仕事をすることになり、その一環としてランニング初心者56歳男性のアドルフ・ヒトラーを色々指導し、1年後にサブ3を目指すという話です。

 ランニングと社会、経済、歴史、政治、虚構と現実が巧妙に混ざり合う長編小説です。戦争や人種差別を助長するようなものではなく、アドルフ・ヒトラーの登場なしには描けない内容になっているので、そういった設定になっていることを予め申し上げております。

 先日のブログではその中から長距離走、マラソントレーニングの原理原則について説明した部分を無料で公開させて頂いたのですが、もうお読みになられましたか?

 まだお読みになられていない方は先ずはこちらをクリックしてご覧ください。

 本日はその長距離走、マラソントレーニングの原理原則に基づいて2か月ほど練習を続けたアドルフ・ヒトラーに次なる指示を出す場面を公開させて頂きます。初心者だけではなく、次なるレベルを目指す全ての人にとってトレーニングの発展の仕方が参考になるので、是非お読みください。

 私は日本に発つ前に、もう一度ヒトラーとよく話しておくことにした。スマホは買い与えてあるので、連絡を取る分には全く問題がなかったのであるが、やはり直接会って話せるときにもう一度話しておきたかった。

 ヒトラーが走り始めてから約2か月、苦しんでいた私とは違い、見違えるように走れるようになっていた。やはり、0から出発すると、体はどんどん変わっていく。収穫逓減の法則によるものである。

 しかしながら、最も大きいのはこの二か月間で完全に走ることと「ランナーの為の体幹補強DVD」が習慣になったことである。さすがは強い意志の力を持つだけあって、完全にランニングと「ランナーの為の体幹補強DVD」を習慣にしていた。

 一度習慣化すると逆に走りに行かないことの方が変な気持ちになり、走りに行くこと自体は大したことではなくなる。もちろん、気乗りのしない日もあるが、一度走り出すと自然とスーーッと気持ちが走ることに吸い込まれていくのである。

「マインフューラー(我が総統)、最近の練習はどうですか?」

 私はおどけながら尋ねた。

「この2か月間で驚くほど体が変わったよ。体調は以前よりも良く、無駄な脂肪も少しずつ落ちてきた。週を追うごとに走れるようになってきて、まるで毎週若返っていくようだ」

「そりゃそうでしょうね。初めのうちは記録が伸びるとか言う以前に体そのものがどんどん変わっていくことに驚かれるでしょう。何しろ今まで何もやっていなかった人がどんどんランナーの体になっていくのですから」

「まさにその通りだ。本当にありがたいことだ。そろそろ次のステップを教えてくれんかね?」

「今の練習はどんな感じでされているんですか?」

「今は週に2回は15分のジョギングを1日2回、週に2回は1日1回30分ジョギング、週に1回は60分ジョギング、週に2回は「ランナーの為の体幹補強DVD」をしている」

「なるほど、なるほど、かなり順調ですね。うーん、そうですね。ちょっとだけ、5分くらい考える時間をもらえますか?」

「もちろんだ」

 私は腕組みをして目をつぶりながら色々考えた。プロ棋士は盤面を見た瞬間にパッといくつかの手が浮かび、そこからその先を読んでいくのだと聞いたことがある。そして、その無意識のうちにパッと浮かぶいくつかの手は過去の自身の対局や他人の対局を見て、その経験がデータの蓄積となり、無意識のうちに情報処理をしていくつかの手が思い浮かんでいるらしい。

 私の場合も似たようなものである。何万人もの市民ランナーさんの練習をみさせて頂いているので、そのデータの蓄積が頭の中にあり、そのデータの蓄積からパッといくつか思い浮かぶ。

 例えば、このパターンでは、更にこのまま量を増やす方向性で行くのか、あるいは15分のジョギングの強度を上げていくか、それとも流しを付け加えていくのか、あるいは2つ目と3つ目を組み合わせるのか、そのくらいの選択肢の中からどれがベストかを考えていく。

 最終的に市民ランナーの方にとって一番オーソドックスなパターンは平日に30-40分の中強度走とスピード練習と60分程度の低強度走、もしくは低強度から中強度走、休日に距離走、もしくはスピード練習を入れていくというような組み合わせ方がオーソドックスである。

 そう考えると、もう少し量を増やしても良いのかなという気がしなくもないが、質という要素を入れることで、楽に量を増やせるという要素も出てくる。これは単純な話である。

 例えば、今までの練習は全てが1キロ6分半から6分ちょうどのペースだとする。この時に、週に2回15分で良いから1キロ6分から5分半で走るようなペースの練習を入れると徐々に1キロ6分半から6分ペースに余裕を持てるようになっていく、そして、余裕があるから楽に距離を伸ばせるようになる。そういうパターンを作ることも出来る。考えれば考えるほど、どちらでも良いと言える。ここはひとつ本人に聞いてみるか。

「総統は今の練習から更に距離を増やすのとペースを上げるのとどちらの方がやりやすそうですか?」

「それは距離を増やす方だ。練習時間があまりにも短くて退屈していたところだからな。軍事教練はこんなものではなかったよ」

「まあ、それはそうかもしれませんね。練習時間に関して言えば、軍事教練や野球や短距離、投擲選手の練習時間の方がよっぽど長いですからね。ただ、長距離走というのは休憩時間なく走り続けるでしょう?接地の衝撃に耐えられないと故障してしまうというのもあって、そんなには一気に増やせないんですよ。これはお分かり頂けますか?」

「まあ、分からんでもないよ」

 総統はうつむき加減に目も合わせずにそう答えた。

「結局、故障せずに走り続けられる体を作ることが一番の近道なので、初めは慎重に慎重にやった方が良いんですよ。ただ、確かに距離を増やす方が簡単でしょうね。早く次のステップ、次のステップへと進みたい方はいきなりインターバルトレーニングをやってみたいとおっしゃる方も多いのですが、先ずは距離を増やした方が故障しにくく、疲れにくい体は作りやすいでしょう」

「インターバルトレーニングというのはどういうトレーニングかね?」

「まあ、また詳しくは解説しますが、第二次世界大戦が終わってから西ドイツと東ドイツに分割統治されたという話はしましたよね?」

「ああ、連合国の偽善者どもによってな」

「その時に東ドイツの運動生理学者が心拍数160と120のランニングを繰り返すと効果的に走力が向上することを発見し、実際にその理論に基づいてチェコスロバキアのエミール・ザトペック選手にトレーニングをさせたら、オリンピックで5000m、10000m、マラソンの三冠を達成したんです。これが1956年の話です」

「優秀なアーリア人がそんなに素晴らしいトレーニングを考案したのなら今すぐにでも実施すべきではないのかね?何故、もっと早く教えてくれなかったんだ!」

 総統の目は真っ赤な怒りで燃え上がっており、私は苦笑するしかなかった。

「まあまあ、一度落ち着いてください。物事には何事も順序というものがあります。確かに、インターバルトレーニングは有効なトレーニングの一つです。ですが、必ずしも有効ではありませんし、心拍数160と120を繰り返すというのも絶対的に正しい数字ではありません。確かに、1950年代というのはまだまだトレーニング理論が確立されておらず、その中でインターバルトレーニングというトレーニングについて研究し、おおよその目安である心拍数160と120という数字を作り上げたことは素晴らしいです。

 しかしながら、それは絶対的なものではなく、あくまでもマラソントレーニングが確立されていなかったところに、戦前のフィンランドの中長距離での活躍に影響されて、彼らのトレーニングを研究し、更にそれを体系化させたというところに大きな意味があるのです。つまり、今までは多くの選手が取り入れていなかった新しい刺激を取り入れたというところに一番大きな意味があるのです」

「新しい刺激を取り入れたことに意味があるか、そう言えば前にもそんなことを言っていたな。それにしても、フィンランド勢は確かに強かったよ。特に、あのパーヴォ・ヌルミとかいう男はな。筋肉なんてゴムの塊に過ぎない。本当に重要で強さをもたらすのはこの精神にあると言っていた。是非とも、我がドイツ国家社会労働党に欲しい男であったよ。まさに彼のオリンピックでの勝利は意志の勝利だった」

「そうなんですよ。当時の選手は同じように練習に強弱や長短はつけていました。でも、インターバルトレーニングは取り入れていませんでした。そうなるとどうなるのかということですが、例えば、週に1回実施する15キロのテンポ走が一番速くて1キロ3分20秒ペースとかになる訳です。当時のレベルで言えば、確かにそれで充分です。別にそれで悪いことは何もないです。ただ、休憩を挟んで、例えば1キロ10本を90秒休息を挟んで実施すれば、1キロ3分10秒を切るペースや1キロ2分台で出来る訳です。そうすると、今までは1キロ3分20秒までしか練習で走っていなかったところに新しい刺激がかかります。この新しい刺激がかかるということが一番重要なんです」

「それなら、今の私も同じでインターバルを取り入れて、新しい刺激をかけた方が良くないかね?」

「お言葉を返すようですが、今総統は普段どのくらいで走っておられますか?」

「1キロ6分30秒から6分ちょうどくらいだ。今はとにかく走る距離を伸ばすことだけに集中している。あなたがそう言ったのだろう?違うかね?」

「ええ、おっしゃる通りです。そして、今総統のされていることは非常に正しいです。初めに説明しました通り、とりあえず初めは歩きよりも速ければ体には質という面からも新しい刺激がかかっているのです。ですが、ここからもう一つ質問です。ちょっと頑張れば、1キロ6分ペースから5分40秒くらいのペースで走れませんか?」

「今はただただ走る距離を伸ばしているだけだからな。速く走ろうと思えばそのくらいでは走れるぞ」

「その時、間に休憩を挟む必要はありますか?」

「いや、別に休憩はなくても意志の力さえあれば、もっと速く走れる。今はあなたの言うことを聞いて、寧ろ意志の力によってペースを抑えているのだ」

「素晴らしいです、総統。非常に正しい練習をされています。かつてのトップランナー達、つまり1940年代後半から、1950年代のトップランナー達も別に練習に強弱をつけていなかった訳ではありません。ただ、間に休憩を挟んでより速く走るという練習はしていなかったというそれだけのことです。今の総統は練習に長短はつけていますが、強弱はつけていません。だから、インターバルトレーニングは必要がないのです。持久走のペースを上げればそれで新しい質の刺激が入り、次のステップには進めます。それから、もう一つ質問させて下さい。例えば、1000m10本を400mジョギングでつないで練習すれば、合計の距離はいくつになりますか?」

「私を算数が出来ないニガーと同じに考えているのかね?」

「いえ、そういう訳ではありませんが、私が一方的に話し続けるよりも間に質問を挟んだ方が一般的に長時間にわたって話をよく聞いてもらえるものですから」

「構わん、続けたまえ」

「ありがとうございます。1000m10本を400mジョギングでつなげばそれだけで、14キロ、ウォーミングアップとクーリングダウンを4キロずつやれば、合計は22キロになります。これは単純な計算です。次に考えて頂きたいことは、総統は現時点で22キロ走られているのかということですが、まだ走っていませんね?」

「ああ、ここまで一回に走った最長時間は1時間だ。だから、距離にするとせいぜい10キロだ」

「そうでしょう?そもそも、一回にゆっくりと20キロくらい走れない人はそもそもインターバルトレーニングをすることは出来ないんですよ。先ずはゆっくりとその距離を走れるようになって、それからスピードです」

「なるほど、だから、今の私にとっては距離を伸ばすことが大切であるし、一度質を上げるという選択肢もあるが、私自身が距離を伸ばす方が簡単だと感じているから、もう少し距離を増やした方が良いということか」

「まさに、おっしゃる通りです。このあたりで一度質を上げる要素も入れても良いかなと思ったんですけど、とりあえず総統が距離を伸ばす方が簡単だと感じているのであれば、一度距離を伸ばすことにしましょう」

「具体的にはどうすれば良い?」

「そうですね。週に2回は1日2回30分のジョギング、週に2回は1日1回45分間のジョギング、週に1回は75分のジョギング、週2回は走らずに祥子トレーニング、とりあえずこの内容でいってみましょう」

「うむ、どんどん走るのが楽しくなるな。1か月後には更に走れるようになっていると思うとまた一段と楽しみになる」

「それこそが、私が最も願っていることです。多くの人にとっては走ることは罰です。ですが、私にとっては走ることは喜びですし、また総統にとってもそうであってほしいと思っています。ただ、私は綺麗ごとは言うつもりありません。練習してても苦しいだけで全然走れるようにならなかったら、何が面白いのでしょうか?やればやるほど体が変わり、楽に長く速く走れるようになり、体が若返っていく、だからこそ楽しいのではないでしょうか?」

「うむ、それはそうだな。私は一度自分で決めたことは楽しくても楽しくなくてもやり切るう男だ。しかし、どうせやるなら楽しい方が良いに決まっている」

「私も同じです。楽しいからやる、嫌いだからやらないということはありません。ですが、どうせやるなら楽しい方が良いに決まっています」

「その通りだ」

「ええ、その通りです」

 私たちは視線を合わせ、目だけで笑い合った。

続く

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