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ノルウェー式トレーニングの神髄

 突然ですが、あなたはちょっと前に流行ったノルウェー式トレーニングなるものをご存知でしょうか?


 こういう流行ものに関しては皆さまの方が詳しいのではないかと思いますが、私もだいぶ遅れ馳せながら興味を持つに至りました。


 何故かと言いますと、英語で中強度走の説明をしていると、頻りに「それはノルウェー式トレーニングのことか?」と聴かれるようになったからです。


 私は素直にノルウェー式トレーニングについては知らないから答えられないとずっと答えておりましたが、とうとうあまりにも同様の質問が重なったので、自分で勉強してみることにしたのです。


 一言で北欧式とかノルウェー式とか言いますが、日本人にも色々いるように、北欧人はいっぱいいる訳です。


 その中で、なんとなく気になって読んでみたのがマリウス・バッケンという五輪の五千米に二度出場、世界選手権も二度出場、五千米の自己記録は十三分六秒という方の本です。


 これを読んでみたところ、彼のトレーニングに対する考え方は完全に私のトレーニングに対する基本的考え方と同じでした。


 その考え方とは「物凄く高負荷な練習をして回復に時間がかかるよりは、効果的であまり高負荷ではない練習を反復した方が効果的である」というものです。


 その理由は何故なのかということは新講義動画超効率的練習のトレーニングの原理と適応の三条件をご覧いただければお分かり頂けますので、是非そちらをご参照下さい。


 とりあえず今は理由はさておき、中強度中量高頻度が中長距離走、マラソントレーニングの大原則であると主張している私とマリウス・バッケンの基本的な考え方は完全に一致しています。


 そして、彼は「トレーニングの黄金ゾーンはだいたい血中乳酸濃度が2.3ミリモルから3.0ミリモルにある」と主張するのですが、この数字は中強度走の上限よりも1㎞あたりだいたい10秒ほど速いペースです。


 ちなみに、私は基礎構築期における中強度走はやや積極的にペースを上げても良いと色々なところで述べていますが、そうすると、だいたいこの黄金ゾーンに入ります。理想は、基礎構築期に積極的に中強度走のペースを速めるように努め、基礎構築期が終わる頃には、本当にそのペースが完全に中強度走、つまり血中乳酸濃度が2.0ミリモルあるいはそれ以下になっているのが望ましいです。


 ただし、私は彼の主張する黄金ゾーンにはあまり意味がないと考えています。有効な目安であることに変わりはありませんが、そこに拘泥する正当な根拠はありません。


それよりも重要なことは一回に強い負荷を体にかけて、回復に時間がかかるよりも、効果的ではあるが高頻度で反復出来る練習を積み重ねることの方が効果的であるという部分です。


 では、効果的な練習とは一体どんな練習でしょうか?


 実は、これは中強度中量近辺の全ての練習です。中強度中量高頻度と書くと、中量の中強度走を高頻度で実施することであると理解している人が多いですが、それは誤りです。


 厳密に言えば、中強度中量近辺の練習を高頻度で実施することです。


 例えば、あなたが継続的に週に70㎞走られていて、その練習量に体が完全に適応しており、なおかつあなたはレース結果が良くなろうとも、練習量はこれ以上増やす気が無いとしましょう。


 つまり、私にはこの週に70㎞という練習が動かせない前提条件として与えられたとします。


 この条件で私が練習を組むのであれば、10㎞前後の距離の中強度走、低強度走、低強度から中強度走、中強度から高強度走、200-300mの登板走、ショートファルトレク、ショートインターバル、20㎞の中強度走、などのそれなりの負荷ではあるが、それほど負荷の高くない練習を巧妙に組み合わせていきます。


 これでほとんどその人の競技能力は決まります。


 いわゆる、VO2Maxインターバルも入れないし、LT走も入れません。しかし、入れなくても中強度中量近辺の高強度練習でその人の競技能力は大きく上がります。


 理想を言えば、こんなに楽な練習で速くなるのであれば、もうちょっと練習しても良いかなと思ってもらえて、週に100㎞くらいまで練習を増やせて、なおかつ、もしもその人が現在55歳以下の男性であれば、サブエガは楽勝です。


 しかし現実問題、上記の練習だけで最高の結果を出すのは難しいです。ですから、レースが近づくにつれて、少しずつ距離走の距離を伸ばし、スピード練習の量を増やし、高強度な持久走の量を増やしと一回の練習の負荷を上げていきます。


 その代わり、それ以外の練習の負荷は下げざるを得ません。このようにピーキングしていきますが、しかし、これはその人が現在有している基本的な能力をマラソンという距離において最適化する作業であり、その人の基本的な能力を高める作業ではありません。


 もう少し具体的な用語を使うと、基礎構築期まではその人の基本性能を高める時期、それ以降はその能力をある種目と目標とするレースの日に最適化する作業であるということです。


 私が基礎構築期の練習でその人の競技能力は少なくとも7割、おそらく8割は決まると考えているのはこのためです。


 残り2割くらいはその人の基本性能をマラソン(あるいはその他の種目)という距離において最適化する作業と最後の調整で決まりますが、基本性能は基礎構築期で決まります。


 また、この過程において、私は高負荷練習の負荷が上がるにつれて、徐々に中強度走の頻度を減らすか、もしくは中強度走を低強度から中強度走へ、低強度から中強度走を低強度走へと置き換えていきますが、マリウス・バッケン氏も現役時代、レースが近づくにつれて、黄金ゾーンである血中乳酸濃度2.3ミリモルから3.0ミリモルの練習量を減らし、レースペースの練習を増やしていったようです。


 そして、これは本当にそうだなと思ったのは、マリウス・バッケンが色々な選手を観察した結果、強くなるのは練習で全力を出している選手ではなくて、余裕を持ってこなしている選手だという部分です。


 これはね、色々な一流選手がそう言いますし、ケニアでもレースで結果を出すのは常に先頭を走っている選手ではなくて、前から5番目10番目を走っている選手だと言います。


 日本でも色々な指導者が腹八分目くらいがちょうど良いとおっしゃいます。結構強豪校の指導者で腹八分目を薦める指導者は多いのです。元5000m日本記録保持者の松宮隆行さんも「練習は余裕をもって終わった方が良い」とおっしゃっていました(実は私は一度松宮さんと将棋の対局をさせて頂いたのですが、松宮さんの特技は物忘れで、私を覚えてくださっているかは不明)。


 また、これもそうだなと思ったのは、マリウス・バッケン選手は五千米の選手ということもあって、インターバルやファルトレクを多用する人であったようなのですが、インターバルとかの場合は、ペースが速くても疾走時間に対する休息時間が長ければあまり血中乳酸濃度は上昇しないものなのです。


 あるいは疾走時間が長くなければペースが速くてもそれほど血中乳酸濃度は上昇しないものなんです。


 厳密に言えば、その時は上昇するけれども、休息時間に乳酸が除去されるので、全体としてはそれほど上昇しないのです。


 それで思い出したのですが、ケニア人選手のスピード練習は休息時間が長い傾向にあります。


 例えば、600m15本を200mつなぎというような練習においてもこの200mのつなぎを歩くので2分くらい休んでいます。2分くらい休んで、そうすると遅い選手も一応スタートは合わせられるので、皆でスタートは一緒にして練習するというようなやり方をとっていました。


 でもそうすると、600mはだいたい1分40秒以内に走っていたので、1分40秒の疾走に対して休息が2分と、休息の方が長くなっていました。


 で、この考え方がどこで使えるのかと言いますと、夏場の練習です。


 これはずっと創業以来一貫して夏場はレペティショントレーニングを推奨しておりますが、それは何故かと言いますと、休息時間が長いとここで体温が一度下がるので、夏場でも比較的速いペースの練習量が確保できるからです。


 レペティショントレーニングは教科書的には、完全休息を挟んで全力走を繰り返す練習とされていますが、別に必ずしも全力で走る必要はなく、トレーニングに応じて1500-5000mのレースペースで実施すれば良いのです。


 例えばですが、私の家の近くに気持ち良く走れる0.7kmくらいの直線があるので、ここで0.5km10-20本を休息はゴールからスタート地点までをジョギングで繋ぐとかでも良いかなと思っています。


 ただ、これをやると練習量が多くなってしまい、多くの市民ランナーさんが生活に組み込みにくくなるので、実際には400m10本を3000mの主観的レース強度のような短い距離の練習を高強度で実施するのが良いでしょう。


 そうすると、血中乳酸濃度はマリウス・バッケンの言う2.3ミリモルから3ミリモルは大幅に超えることになりますが、重要なところはそこではなくて、一回一回の練習の負荷は高くしないということです。


 400m10本を3000mの主観的レース強度で200mつなぎでつなぐような練習はそこまで負荷が高くなく、基礎構築期にも入れやすいと言えます。


 また、そう言えばですが、ケニア人選手は3分速く走って3分ゆっくりのファルトレクや2分速く走って3分ゆっくりのファルトレクをやっていたなと思い出しました。確かに、こういう練習では全体としては血中乳酸濃度は上昇しないので、理論的には中強度走に近い負荷になります。


 理論的にはというか、少なくとも特異性の高い練習よりははるかに余裕度が高く、継続しやすい練習です。


 また、私の経験上、一つお伝えさせて頂きますと、どれだけ有気的代謝が優れていたとしても、つまり心肺機能が優れていたとしても、速いペースに神経筋(脳と運動神経と感覚神経と筋繊維)がなれていないと、レースでの結果には繋がりません。


 多くの人がインターバル=追い込んで心肺機能を高める練習だと思っておられますが、実際にはそれよりも以前の問題として、目標とするレースペースに対して神経筋が慣れているか慣れていないか問題があります。


 優れた心肺機能(最大酸素摂取量、乳酸性閾値)を有していたとしても、速いペースに神経筋が適応していなければ、人間はレースで速く走ることが出来ないものなのです。


 レースの距離が長くなれば、速さに慣れていることに対して、距離に慣れている必要もあります。つまり、筋持久力の問題です。


 これに関して言えば、30㎞以降大幅に失速すると、グリコーゲンが枯渇したからであると決めつける方が多いですが、実際には筋持久力が足りなかった可能性も大いにありますし、だいたいはどちらか片方ではなく、両方の要素が含まれています。


 つまり、ある程度速いペースを反復する必要はあるが、余裕をもって終わりたいという我儘な欲求に最適解を与えるのが、疾走時間に対する休息時間を長くするということなのです。


 私が基礎構築期にショートファルトレクやショートインターバルを多用するのは、この我儘な欲求を満たすためです。


 ちなみにですが、一回一回の練習で高い負荷をかけるよりも、有効でそこまで負荷の高くない練習を高頻度で反復した方が良いという考え方に私が行きついたのは18歳か19歳の頃です。当時私は京都教育大学の帰宅部生として走っておりました。帰宅部なので、当然河川敷とかで一人で練習する訳ですけれども、やっぱり一人でこなせる練習には限度がありました。


 でも、この状態で速くなるにはどうすれば良いのかと考えた結果がやはり一回一回の練習はさほどきつくはないが効果的な練習を高頻度で実施することと、総走行距離を増やすことの二つです。


 結局一人で手軽にやれるのってこっち方面なんですよ。


 五千米で言えば、よくネットでは1000m5本を1分休息のインターバルさえやっておけば良いみたいにも言われますが、一人でこの練習のレベルを上げるのは困難です。


 また、ハーフマラソンであれば3000m4-5本を2分休息で目標とするハーフマラソンレースペースでとかも言われますが、一人でこの練習ができたことは未だに人生で一度もないです(笑)


 やらないのではなくて、やった結果として出来たことないです(笑)


 でも、レースではそれよりも速く走れている訳なので、別にそれで良い訳です。


 また、仕事との兼ね合いを考えても、一回一回の負荷は大きくない方が継続的に取り組みやすいです。


 私の場合は年中無休が基本なので、あんまり練習の負荷が高いと仕事に支障が出ます。キツイ日の練習もそこまできつく無い代わりに、高頻度で中強度以上の練習を実施出来る方が私的には有難いです。


 このやり方でどこまで速くなったのかというと、ハーフマラソン63分09秒、30㎞1時間31分53秒、フルマラソン2時間13分41秒です。


 まあ、評価の仕方は色々でしょう。2時間10分切ってないからダメだと言われれば、私はそれを甘受します。


 ただ、一人ぼっちの練習で追い込めなかったとしても、そこそこのレベルに到達することは可能である一例にはなると思います。


 福岡国際マラソンで数度優勝された中山竹通さん(2時間8分15秒)がまだ若かった頃、「みてくれは悪くても食べられる餅をまず作ること」を目指されたそうです。


 我々も同じでSNSに映える練習よりも、地道で有効な練習をまずはこなすべきなのです。その後で、体が仕上がってきたら、練習で一人でフルマラソンをレースペースの90%で走るなり、一人でハーフマラソンを目標とするマラソンレースペースで走るなりすれば、SNSに映えるでしょう。


 話を元に戻しますが、ネット上ではノルウェー式トレーニングとは一日に二回の閾値走という部分だけが一人歩きしていますが、本質の部分は「一回の練習で大きな負荷をかけて、回復に時間がかかるよりも、あまり負荷が大きくなくて効果的な練習を高頻度で実施した方が競技力は向上する」という部分です。


 そして、競技能力が向上すればするほど、さらなる記録の向上の為に必要な練習の負荷は上がりますが、典型的な市民ランナーさんの場合(サブ4やサブ3.5やサブ3やサブエガを目指されている方の場合)、如何なる練習も効果的です。


 10㎞の低強度走でさえも効果的な練習です。一番簡単な走力向上の方法は練習頻度を増やすことであるのは経験的にも言えることですが、理論的には上記のように説明できますし、もっと理論的な部分は超効率的練習方法の「トレーニングの原理」と「適応の三条件」の箇所で説明しておりますので、是非改めて復習されてください。


 また、マリウス・バッケンの黄金ゾーンである血中乳酸濃度2.3ミリモルから3ミリモルくらいというのはだいたい主観的に苦しいと感じ始めるくらいの練習です。高強度な練習の中で一番楽な強度、あるいは中強度な練習よりもやや苦しい強度を目指すと良いです。


 あるいは発想としては高強度練習だけど、なるべく中強度に近づけると言えば良いのでしょうか。


ちなみに、マリウス・バッケンと私の考え方の最大の相違は彼は基本的にはインターバルを用いて、血中乳酸濃度2.3-3.0ミリモルの強度の練習を作るのに対し、私はインターバルは原則として週に1回しか使わないことです。


ただし、これは彼が五千米の走者であり、私は自身の主戦場もマラソン、指導している市民ランナーさんもほとんど全員マラソンランナーという違いからくるものです。


「超効率的練習方法」の中距離走者の練習例を見て頂くと基礎構築期にもロングファルトレクを入れているのをお分かり頂けると思います。つまり、高強度な練習が週に2回入っているのです。


これはマラソンレースペースと中距離ペースの違いです。


中距離の方がレースペースが速いので、ファルトレクを入れてより速いペースで走るのです。ただ、基本的な考え方は同じで、その場合においても出来れば負荷が中強度走と近しくなるような練習を設定するのが望ましいです。


ペースはある程度速いかもしれないが、休息時間を長くしたり、あるいは速いといってもかなり余裕が持てるような強度にしたり、なるべく負荷そのものは中強度中量に近づくように設定するのが基本です。


これをおさえればマリウス・バッケン氏自身の練習やインゲグリブト選手の練習にぐっと近づきます。ただし、専門種目の違いには留意すべきです。


つまり、マラソナーやハーフマラソナーはインターバルではなく持久走で中強度走か中強度から高強度走あたりを基礎構築期に入れるのが良いです。これが基本の考えです。


また、これも私の考え方と共通しているのは、必要な質が確保できているのであれば、それより速く走るよりも距離を伸ばした方が良いと考える点です。要は練習量を増やした方が良いと考えるのです。


私がトレーニングの最終ゴールはレースペースの90-110%(あるいはもう少し狭めて95%から105%、あるいはバリエーションを持たせて90-105%)の練習量をなるべく増やし、その練習に体が適応することであると述べていることと共通しています。


基本的には5%以上も一気に走力が向上することはあまりないので(ないことはないが)、際限なく速いペースで走ることを目指すよりも、質の高い練習量を増やすことの方が重要なのです。


ただ、市民ランナーさんの場合は2-3年で平気で20%くらい速くなる方もいらっしゃいますし、夏場は暑いし、平日の練習時間はそれほど確保できない方が多いし、それらを総合的に考慮して練習を決める必要があるので、一番大事なことは具体的な練習方法を学ぶことではなく(そられは参考にはなるが)、「一回に大きな負荷をかけるよりも、効果的な練習を高頻度で実施した方が走力は向上する」というような基本的な考え方を学ぶことの方が重要です。


 いずれにしても、中強度走で充分だと理解されてください。普通に、中強度走とショートファルトレクの反復で速くなります。ただし、体の回復も重要なので、適宜低強度走と組み合わせる必要ではあるし、そして疲労の回復に支障のないペースであるならば、低強度走の頻度や量を増やすことでさらに走力は向上します。


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筆者紹介

​ウェルビーイング株式会社代表取締役

池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

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