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中高生達から学んだこと

執筆者の写真: 池上秀志池上秀志

 3,2,1、始め!


 号令とともにメディシンボールを持った中学生たちが全力で体を振る。


 3,2,1、終了!


 すでに中学生たちは汗だくになっている。


 10秒前!


 3,2,1、始め!


 もっと体幹を締めて!


 体を横に振るんじゃなくて、頭から棒が一本出てるイメージでその棒を中心に回転させんねん。


 そうそう、出来てる出来てる、もっと大きく回転させて!横に振るんじゃなくて回転させるんや!


 3,2,1,やめ!


 よし、ウォーミングアップは終了。メディシンボール片づけて集合!


 ゆるんだ空気に少しの張りを加える。必ずしも、厳しいのが良いわけではないし、雰囲気は寧ろ良い、楽しい雰囲気の中にも機敏さと統制があった。そこに少しだけスパイスを加えているだけだ。


「池上!今やってたやつ、こいつらにも教えてやってくれ」


「はい!」


 高校時代の恩師からの指令を受けて、大阪高校の生徒を教える。私の恩師中島道雄先生は洛南高校を定年退職後、まだ長距離が弱かった大阪高校に赴任し、わずか2年で全国高校駅伝に導いた。


 初めは3年で土台を作って辞めると人づてに聞いていた。土台を作るというのは、挨拶が出来て、人の話を聴く姿勢が出来て、そして、全国大会に出場するためのやりたい練習が出来るようになる身体的な土台を作るといった類のことである。


 ところが、わずか2年で全国高校駅伝へと導いた。そして、私たちが教わった時と決定的に違ったのは、怒鳴ったり、殴ったりしないことだったと聴いている。それが本当かどうかは分からない。


 我々の頃の半分程度になったのか、それともほとんどなくなったのか、それは私には分からないが、目の前の大阪高校の生徒はやはり一生懸命こちらの話を聴いていた。


中学生たちは、3セットで死にそうになっていた。私も3セットで結構きつくなっていた。


「じゃあ、今言ったことを40秒間全力20秒休息で3セットやるから」


「10セットくらいやったってくれ」


 笑いながら、そうおっしゃる恩師を目の前にして、私は内心「10セットか、相変わらず自分はやらへんから、適当なこと言うてるで」と思いながらも無表情で「10セットやる」と伝える。


 こちらが準備をしてるのに足をぽりぽり掻いている奴に「おい、何脚かいとんねん。脚の痒さも分からんようになるまで、鍛えたるからな。準備!3,2,1、始め!」


汗だくになりながらも、延々とウォーミングアップが続いていく。


 現在中高生を指導するため、鉢伏で合宿をしております。私も色々と勉強させて頂いている日々なのですが、その中で気づいたことを共有させて頂きたいと思います。


 先ず何からお伝えさせて頂こうかなと思ったのですが、ウェルビーイングオンラインスクールランナーズユニバーシティの受講生様に先日「練習強度」というテーマの1時間の講義動画をお届けさせて頂きましたので、その関連の内容をお伝えさせて頂きたいと思います。


 昨日の夕食中、突如現れた一人の男に私の体は硬直し、反射的に「こんばんは!」とあいさつしていました。その人物こそ私が入学したころの洛南高校陸上競技部の副主将の高橋さんでした。


 高橋さんは高校生の頃から、人望に優れ、「兄さん」とか「兄貴」と呼ばれて慕われていました。高橋さんよりも競技実績のある先輩方がやんちゃをしていても高橋さんが注意すると「おい、俺は悪いとは思ってないけど、兄さんが言うからやめとこうぜ」と言うことを聞くような存在でした。


そんな高橋さんは日体大では主務を務め、箱根駅伝の優勝を陰で支えました。


 そんな高橋さんですから、日体大卒業後も引く手あまた、女子の高校駅伝という種目が始まって以来、未だ京都では負け知らずで毎年全国高校駅伝に駒を進めている立命館宇治高校でもコーチを務め、現在は清風高校でコーチをされています。


 高校時代と変わらず、ダンディな風貌に、耳を澄まさないと聞き取れないような優しい声で、色々と教えて下さったのですが、そこでもああやっぱりかと思った話がありました。

 

「清風高校の生徒も合宿に来てるんですか?」


「いや、生徒は長野で合宿してる」


「富士見高原ですか?」


「いや、また違うところやな。もうちょっと標高の低いところで、じっくりと走り込み中心の練習をやらせてる。14分台の子は5人いるんやけど、そいつらは全員大学の方にお世話になってて、あとの15分台の子はまだ力もないし、ジョグ中心の練習を組ませてる。ジョグって言っても勝手に1キロ4分くらいまで上げていくから。ジョグとペース走がほぼ一緒になってる。他の14分台5人のやつらもそんな練習やらせてへんで。


 インターバルもそんな特別なことはやらせてないし、400mのインターバルも70秒とかやな。70秒はかからないペースやから69秒とか68秒とかかな。それでも一番速い子は14分7秒で走ってるで」


「そういう練習だけで、そこまでタイムが伸びていくっていうのは、どういう要素があるんですか?それは狙って出してるんですか?」


「能力の高い子が入ってきたら、14分10秒台とか14分一桁とか13分台は出るよ。能力があればな。でも、本当に質の高い練習はどうせ大学でやるから、今はまた違うことをやってっていう感じやな」


「ということは、素質のある子が入ってきたら出るけど、狙って出してるわけではないんですよね?狙って出してるタイムはだいたいどのあたりなんですか?」


「14分20秒までやな。今やってることを完璧にこなせればそこまではいける。今はシューズとかもあるし、俺らがやってた頃の14分台が今は14分40秒くらいなんちゃう。だから、俺らが14分台出そうと思ってやってたのと同じで、基本的なことを徹底させて、14分40秒台まで持って行ければってところやな」


「その為にやっぱり基本的なことが大切だと思うんですけど、その最後のポンッと記録が伸びていくところにはどういうきっかけがあるんですか?それはやっぱり上級生の走りを見て、それを下級生も真似をして、良いところを見て感覚を掴んでいくものなんですか?強い選手がいると、それを見て育つという要素は大きいですか?」


「それはどうなんやろうな。そういう部分もあると思うけど、俺もまだ清風に来て二年目やから、それは分からん。それよりもレースでそういう感覚がつかめるかやろうな。やっぱり苦しいところで我慢できる選手は強くなる。


  そこで、我慢して記録を出すことが出来ればそれが自信につながってまた走りが変わってくるし、練習も一段上のが出来るようになってくる。それでまた練習でもレースでも苦しいところで我慢して、結果を出してっていうサイクルが出来ると短期間で、記録が伸びる。俺は苦しいところで我慢が出来んかったからな」


最後はポツンっと寂しそうにつぶやかれたのが、印象的でした。もちろん、高橋さんは我慢が出来なかった選手なんかではありません。でも、指導者になる人は多かれ少なかれ、もっと上に行けたかもしれない。もっと上に行きかったという気持ちを持ちつつもどこかで区切りをつけたり、選手としての闘争心を失って指導者へと自分の活躍の場を見出していく人がほとんどです。


 私はそんなセンチメンタルな気持ちに浸るくらいなら、まだ自分の情熱の炎を燃やし続けたほうが良いと思って性懲りもなく走っていますが、仕事としてはコーチングの比重が圧倒的に大きくなった現在では、指導者の気持ちがふと分かるようになってくる今日この頃ではあります。


 さて、勘の鋭い方はもうお気づきだと思いますが、高橋さんがおっしゃっているジョグとは、私の用語で言えば、中強度の持久走や低強度から中強度の持久走です。最後にペースを上げることもあるようなので、中強度から高強度の持久走も含むでしょう。それも、起伏のある所で取り組むことが非常に多いです。そうやって、脚筋力を養っていくのです。


 そして、最後に速い動きを作っていくのですが、高橋さんは疾走区間のペースを上げるよりもつなぎのペースを上げていくそうです。先ほどおっしゃっていた70秒というのは、あくまでも狙ってタイムを出していく上限の設定です。


 そのレベルに達していない選手は72秒とか74秒とかでやっていくと思うのですが、高橋さんは高校生は上限を70秒に設定して、余裕があるなら200mを55秒、50秒と速いペースで繋いでいくそうです。


 これは個人で練習をやる場合と集団で練習をする場合の大きな違いになってくると思うのですが、やはりこういったつなぎを短くしてレースに近い練習をするのは集団の方がやりやすいですし、集団の方がより普段からレースに近い刺激をかけて、苦しいところで我慢を覚えるというのはやりやすいと思います。


 そういった個人と集団の違いもありつつも、がむしゃらにペースを上げさせずに、つなぎを速くして徐々に苦しくなっていく状態を作ることで、走りのリズムを覚えていき、更に自分よりも強い上級生がいてくれることで、何かを掴み、飛躍的に走りが伸びていくものかもしれません、


 鉢伏というのは面白いことに、各都道府県の上位、もしくはトップを取るけれど、全国ではなかなか戦えないというチームが集まってくることが多いです。このレベルの学校は、基礎的な練習に非常に多くの時間を割くことが多いのですが、そういった走り込みに加えて動きづくりに多くの時間を割くことも一つの特徴としてあると思います。


 私も昨日の午後、今日の朝と見させて頂いただけですが、このわずかな時間の中でもやっぱり強い選手ほど動きづくりも綺麗です。体の使い方をしっかりと覚えることが出来ているという傾向がはっきりと見て取れます。それは何故なのかということですが、全身を使って大きな力を生み出すことが出来るようになっているからです。


 走り方というのは走技術と言いますが、技術というのもやはり小手先の技術ではありません。新しい神経回路を作っていったり、ラダーなどで速く足を動かすということを覚えていったり、色々なことをすることによって成長していきます。


 今日の朝は大阪高校の生徒を3人重点的に指導しました。やっていることは単純で棒を持って歩くだけです。それだけのことなのですが、如実に出来ること出来ない子の差が大きいのです。一体その差はどこから来るのでしょうか?


 それはよく分かりませんが、一つだけ確実に言えることは駄目な子でも根気強く教えれば、わずか30分の間に出来ることが増えていくということです。


 振り返ってみると、私も高校に入学したころは、今と比べると出来ないことが多かったです。その頃私は運動神経は生まれつき決まっているものだと思っていました。私は人よりも不器用だったので、先日の夏場の練習に関するユーチューブ動画で紹介させて頂いた大野先生から教わった走り方をひたすら反復して、自分のものにしました。


 自分が不器用なことを自覚していたので、他のことは捨てても良いからひたすら大野先生の動きだけをものにできるようにしたのです。


 でも、それから時が経ち、色々な人の話を聴いて、自分もやってみて、色々なトレーニングをしているうちに、今まで出来なかったことが出来るようになったことに気づきました。体の感覚が鋭くなっているのです。それは何故かというと、様々な動きづくりや筋トレをすることによって、筋肉と脳のコミュニケーションが円滑に行われるようになったからです。


 大きく分けると、筋肉からの指令を受けて自分の体がこの三次元空間の中でどのように動いているのかということを把握する能力とそれを受けて、自分の思い通りに体を動かしていくということの2つの能力があります。


 で、動きづくりや補強の特徴ですが、それは要素を分解して、単一の、あるいは数少ない筋肉群に重点的に意識を置くことによって、各筋肉群と脳との神経回路を発達させることです。


 例えば、夜道に包丁を持った男に追いかけられている時、考えられることはたった一つ「如何にこの男よりも速く走って、逃げ切るか」です。この時、いちいち「接地のタイミングはどうで」とか「腕の振りはこうで」とか考えられません。


 ちょっと待てよ。接地のタイミングがずれているから、一度ペースを落として作り直そうと考えている間に刺されるでしょう。


 一方で、動きづくりというのはこの動きにおいては、この動きだけを意識する、この動きではこの動きだけを意識すると一つの動きだけを意識するのです。


 そして、筋トレでは、この種目ではこの筋肉を鍛える、この種目ではこの筋肉を鍛えるとそれぞれ単一の筋肉や筋肉群を鍛えます。そうやって動きを分解することによって、一生懸命走っている時には、意識できなかったことが意識できるようになります。そして、最終的に無意識のうちに出来るようになるまで反復します。

 

 そうすることによって、走りが変わっていくのです。走るというのはどんなに苦しくても勝手にその動きになるまで反復しなければ意味がありません。


 私の場合、高校卒業して10年たちますが、その10年間色々なトレーニングをとにかくやってみることで、知らないうちに高校生の頃よりも色々な動きが出来るようになり、また人の動きを見て自信を持って指導できるようにもなりました。これは自分でも改めて考えると大きな変化です。今日この場に来るまで気づきませんでした。


 とは言え、じゃあ今の私が完璧なのかというと決してそうではありません。これからも色々な練習を取り入れることで変わっていくのでしょう。


 さて、最後に市民ランナーの方の為はこういった基礎的な動きづくりや補強運動の為に何が出来るのかを紹介させて頂きたいと思います。


 初めに一つお伝えさせて頂きたいのは、無理に取り入れないということです。何をさておいても重要なのは走ることです。そして、ただでさえ時間的な制約が大きく、練習頻度を増やせない方が多い中で、わざわざ動きづくりを取り入れるメリットは私はかなり少ないと考えています。


 走る時間を減らして、動きづくりに時間を割くのは本末転倒です。ですが、時間的な問題ではなく、体力的な問題で今以上に走ることは出来ないけれど、速くなるために何かできることがあるなら、やってみたいという方は動きづくりや体幹補強を取り入れることをおススメします。


 そこで、二つの選択肢を紹介させて頂きたいと思います。


 1つ目は、元3000m障害の日本学生記録保持者でインカレチャンピオンの池上真悠子さん(旧姓中村真悠子)が動きづくりやサーキットトレーニングなどを実演しながら解説して頂いている約70分の講義動画です。池上さんは元々中距離選手ということもあり、走行距離自体はそれほど多くはありませんでしたが、こういった動きづくりやサーキットトレーニングを多く取り入れることによって日本一に輝いた選手です。


 その日本一の奥義がたった9800円の自己投資で学べ、徹底すれば全国高校駅伝出場者や箱根ランナーと同じくらい綺麗な走りになります。これは誇張表現ではありません。実際に、池上真悠子さんの半分程度のスムーズな走りでも周りからカッコいい、キレイと呼ばれる走りになりますサンプル動画はこちらをクリックして、ご確認ください。


 そして、二つ目にレッスンはいつもキャンセル待ちじゃないと受けられず某実業団長距離チームからもトレーニングコーチの要請を受けたこともあるカリスマインストラクター小谷祥子さんとコラボして作成した「ブレない走りと綺麗な体を手に入れよう!ランナー他の為の体幹補強DVD」という約二時間分のトレーニングが収録されているDVDです。


 こちらのDVDの良いところはランニングに必要な筋肉が満遍なく鍛えられるとともに、多くの筋肉群を鍛えるトレーニングが入っているので、それぞれの筋肉を意識できるようになり、運動神経も改善されることです。実際に、小谷さんに動きづくりをしてもらうとびっくりするくらい綺麗です。


 現在はインストラクターとして主婦の方、学生の方、サラリーマンの方と幅広く色々な方の美ボディを作っておられるのですが、元々陸上競技の100mハードル、七種競技、やり投げで全国大会に出場され、今は市民ランナーとしても走っておられます。そんな色々な経験を活かして、練り上げたトレーニングをたった4000円の自己投資でご利用いただけます。


 それから言い忘れていましたが、このトレーニングを実施すると勝手に腹筋が割れて綺麗な体になってしまいます。予めご了承ください。


 ブレない走りと綺麗な体を手に入れよう!ランナーの為の体幹補強DVDはこちらからサンプル動画をご覧いただけます。

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筆者紹介

​ウェルビーイング株式会社代表取締役

池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

© 2020 by ウェルビーイング株式会社

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