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持久系競技者と鉄分補給

更新日:2020年12月22日


持久性競技者はしばしば貧血に悩まされる。女性アスリートは特にそうであり、年間を通して定期的に貧血を繰り返し貧血時とそれ以外で別人のようなパフォーマンスを見せる選手もいる。今回は持久性競技者の鉄分補給について述べてみたい。

偽貧血

 体内に取り入れられた酸素は肺の中で赤血球の中に存在するヘモグロビンと結びつき、血液と共に全身に運ばれ、筋肉の中に存在するミオグロビンという酵素に結び付いた後各筋肉内のミトコンドリアという器官でエネルギーに変換される。有酸素エネルギーを主なエネルギーとして用いる持久系競技者にとっては赤血球やヘモグロビンの量はとても大切である。持久性競技者がドーピングを行う際には瞬発系競技者のように筋肉増強剤を用いるのではなく、赤血球やヘモグロビンの数を増やすホルモンを用いるのもそのためである。

血液検査によって示される赤血球やヘモグロビン値は血液量に対する相対値である。例えば、ヘモグロビン値は1デシリットル当たり何グラムのヘモグロビンが存在するかで表され、赤血球は1ミリリットル当たりの数字で表される。従って、体内に存在する全ヘモグロビンや赤血球の量が同じでも血漿量(体内の血液量)が多ければ血液検査での値は低めに表示される。

 持久性トレーニングによって、アルドステロン、バソプレシンなどのホルモンの分泌が増加し、それがナトリウムや水の貯留を引き起こす。体内の血液量が増加し、血液検査のヘモグロビンや赤血球の値が低くなる。これが偽貧血と呼ばれる現象である。

 但し、この偽貧血によって低くなる値はあくまでも若干であり、赤血球で言えば0,5から多くても1程度である。

フェリチン

赤血球やヘモグロビンの他に大切な指標はフェリチンである。フェリチンは骨髄に貯蔵されている鉄のことで、疲れやすい持久系競技者はしばしばフェリチンの値が低くなっている。血中に存在するヘモグロビンや赤血球は骨髄に貯蔵されているフェリチンから生成される。従って、フェリチンの値が低いと現在の赤血球やヘモグロビン値が低くてもその後調子が悪くなっていくことが予想される。逆に完全に貧血が改善されていない状態であってもフェリチン値が回復していれば、前途は明るい。フェリチンの値は最低でも20ng/mlは必要である。

赤血球、ヘモグロビンと競技能力の関連性

一般的に赤血球やヘモグロビン値は多いほど良いとされており、高地トレーニングの第一目的もヘモグロビンや赤血球の増加にあるとされている。私は一度ドイツ陸連のコーチであるヴォルフガング・ハイニッヒコーチにこの点に関して尋ねたことがある。ハイニッヒコーチは1980年から1990年代に活躍され、日本でも9回の優勝を飾ったカトリン・ドーレさんの元コーチであり、現在はドイツ女子3000M障害記録保持者であるゲザ・クラウザさんの指導をされている。私の「本当に高地トレーニングによる赤血球やヘモグロビン数の増加が競技力向上に直接的な影響を与えるのか」という質問に対しハイニッヒコーチの回答は「高地トレーニングの最も大きなメリットは赤血球やヘモグロビン数の増加である」というものであった。

現在最も成功しているコーチの一人であるレナト・カノーヴァコーチの回答は「高地トレーニングのメリットはヘモグロビンや赤血球の数の増加ではなく、サイズの増大である」とのことであった。

私自身の経験では貧血でない限り、赤血球やヘモグロビン値と競技能力に相関関係はない。一度約半年間準高地(標高1300M)と高地(標高2300M)に滞在し、ヘモグロビン値が17まで増加したことがあるが(正常値は13,0から16,0)特に競技能力に著しい向上は見られなかった。ただこの期間において、高地への順化は確認された。高地への順化と平地での競技能力にどの程度相関関係があるのかも疑問であるが、簡単に私自身の見解を述べておくと、高地トレーニングに魔法のようなトレーニング効果はないが、数年というスパンにおける長期的な時間をかけて血液や酵素が適応していき、競技能力の向上に好影響を与えるというものである。

鉄の流出経路

 持久性競技者が鉄分摂取に注意を払う必要があるのは、血液性状が競技力に大きな影響を及ぼすからのみではなく、持久性競技者は鉄を失いやすい環境にあるからである。ランナーの場合は特にそうである。ランナーの鉄の流出経路は主に以下の3つである。

・接地による衝撃

 一歩ごとに足に体重の2倍から3倍の衝撃がかかると言われており、この衝撃によって足裏の赤血球が破壊される。その為ランナーは水泳やロードバイクなどの他の持久系競技者と比べても、鉄を失いやすい環境にある。

・発汗による鉄の流出

 トレーニングによる多量の発汗によっても鉄が失われる。トレーニング中の汗にはサウナでかく汗に比べて、鉄が多く含まれていることが確認されておりこれも鉄を多く失う理由になり、夏場は特に鉄分摂取に気を使う必要がある。

・消化器系からの流出

 ハードなトレーニングを行うと活動筋に多くの血液が流れ込むので、消化器系に送られる血液の量が減少する。その為、消化器系に負担がかかり腸管からの出血が生じる。ハードなトレーニングの翌日に便が黒くなることがしばしばありますが、これは腸管から出血した血液が便に混じるためである。

 どれほど効率よく走るランナーでも多少の上下動が生じるので消化器系が揺さぶられ、負担は大きくなる。これは競技中の給水や給食を考えてもすぐに理解できる。ロードバイクの選手は走行中に給水や給食を頻繁に行っても腹痛の原因になることはあまりないが、ランニング中の給水や給食は簡単ではなく、しばしば腹痛の原因になる。その為、ロードバイクのように上下動のない他の持久系競技者と比べてこの点でも鉄分を失いやすい環境にある。

鉄分の摂取戦略

 次に鉄分の摂取戦略について考えてみたい。鉄は非常に吸収率が悪く10分の1程度しか吸収されないと言われている。持久系競技者に必要な鉄分の量は一日2㎎程度だと言われているが吸収率が悪いため、20㎎の鉄を摂取する必要があると言われている。

 鉄には赤身の肉などの動物性食品に含まれるヘム鉄と植物性食品に含まれる非ヘム鉄があり、ヘム鉄の方が吸収が良い。その為一口に鉄と言ってもヘム鉄と非ヘム鉄では異なる。

 また鉄と一緒に何を摂取するのかということも考慮に入れなければいけない。鉄の吸収を良くするのはビタミンc とアミノ酸である。逆に鉄の吸収を阻害するのはカフェインである。その為、鉄の摂取量は同じであっても朝食時の飲み物をコーヒーからオレンジジュースに変えただけで貧血が改善した例もある。私自身は食事前後30分のコーヒーの摂取は基本的に避けている。

 道徳的理由からベジタリアンである私には少々書きにくいが、客観的事実を述べれば貧血の改善に一番適しているのは黒豚のレバーである。

 また調理器具に鉄製品を使うだけでも違いはある。1993年の大阪国際女子マラソンで当時の日本記録で2位に入った藤村(現姓比護)信子さんから現役時代は鉄瓶でお茶を沸かしていたと伺ったことがある。同様にフライパンや鍋を鉄製のものにするだけでも多少の違いが生じる。

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筆者紹介

​ウェルビーイング株式会社代表取締役

池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

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