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最大の制限因子は筋肉説

6月8日
読了時間: 9分

 先日お届けさせて頂きました記事「ノルウェー式トレーニングの神髄」はもうお読みになられましたか?


 まだお読みになられていない方は是非こちらをクリックして、お読みください。


 さて、本日お届けさせて頂きたいのは最大の制限因子は筋肉説ということですが、これはどういうことかと言いますと、「ノルウェー式トレーニングの神髄」の中で紹介させて頂いたマリウス・バッケン氏が「多くの人が長距離走で一番重要なのは最大酸素摂取量や乳酸性閾値だと思っているが、そうではなくて筋肉だ。最後に競技能力を妨げているのは筋肉だ」と述べていることです。


 私自身は全面的には賛成という訳ではないです。


 何故ならば、筋持久力というものを考える上で、一つ重要になるのが筋肉を緩めることですが、実はこの筋肉を緩めるのにも一役買うのがミトコンドリアだからです。ミトコンドリアの機能が高かったり、数が多いと、すなわち有気的代謝の最大値が優れていると筋肉は緩みやすいのです。


 必然的に、レース中も筋肉がこわばりにくく、ペースダウンしにくいですし、体の回復(筋肉の回復)も早いです。


 ちなみにですが、貧血になったことがある人は異常なくらい筋肉痛になりやすいとか、筋肉痛が異常なくらい回復しないというようなご経験をされたことがある方もいらっしゃると思いますが、これも実は理由は同じで、貧血だとミトコンドリアが正常に機能しない為です。


 それに関して言えば、老人であちらこちらが痛くなったり、あるいは筋肉の可動範囲が著しく狭くなって、よちよち歩きになっている人、あるいは腰が曲がったままの方などもいらっしゃいますが、これもミトコンドリアの機能の低下が大部分を占めるでしょう。


 そんな訳で、有気的代謝の能力と筋持久力は極めて近しいので、私自身は全面的に賛成という訳ではありません。


 しかしながら、いくつかの点で大きく賛成出来るとともに、この観点は長距離走、マラソントレーニングを理解する上で非常に重要であると思うので、紹介させて頂きます。


 まず第一にですが、3000mや5000mが速い人は800mもフルマラソンも速いです。これが基本です。


 何故ならば、有気的代謝の最大値と最も関連性の高い種目が3000mもしくは5000mだからです。


 市民ランナーさんは基本的に3000mで考えて頂くと良いのですが、3000mは五輪や世界選手権で使われている正式な種目ではないので、3000mのない競技会も多く、そういう意味では5000mかなというところです。


 では、3000m、5000mの記録と800m、1500mや逆にハーフマラソン、フルマラソンの記録は綺麗に相関関係があるのかということですが、そうではないことは皆さまご存知でしょう。


 先ず、距離が短い方になると、神経筋(脳と運動神経と感覚神経と筋繊維)が速いペースに対して適応していなければ、本当に良い記録を出すことは出来ません。


 ちなみに、短距離においてもそうです。短距離走はまさに神経筋だけで競技結果が決まると言って過言ではないです。


 先日お亡くなりになられましたが、由良育英高校を三度の日本一に導き、インターハイチャンピオンやインターハイ入賞者も数多育て上げられた横山隆義先生という方が日本一のスピードを体に覚えさせろということをよくおっしゃっていました。


 200m30秒ペース、1000m2分30秒ペースで走りつづければ1500mが3分45秒、今はもうちょっとレベルが高いかもしれませんが、当時は3分45秒が日本一のラインでした。


 このペースを距離を短くしてでも良いから体に覚えさせろとよくおっしゃっていました。横山先生は平易な言葉を用いて高校生にご説明されておりましたが、要するに、脳と運動神経と感覚神経にその動きを覚えさせるとともに、それに耐えられる筋繊維を作っておけということです。


 横山先生も合宿初日に高校生に42.195㎞を走らせたり、「日本一っちゃあ、簡単になれるけえなぁ」と言って聞かせたり、教員採用試験では「日本一になりたいです。私を採用してくれたら日本一にしてみせる」と言い切ったり、結構無茶苦茶なところもあるのですが、じゃあ根性論かというと、実はそうでもないのです。


 昔の人は理論的に説明出来なかったのか、敢えてしなかったのか、それは分かりませんが、実は昔の人でも優秀な指導者は皆理に適った練習のやり方を持っておられるものです。


 話を元に戻すと、短い距離においては速いペースに体を慣らしておかなければ良い記録は出せません。代謝系だけでは説明できない部分がどうしても出てくるのです。


 ちなみにですが、中強度の持久走と3000mや5000mの相関関係も非常に高く、その人の中強度の持久走でその人の3000mと5000mの記録はほぼほぼ決まります。


 しかし、ここでも同じで必ずしもぴったり相関関係は出ません。その理由の一つはやはり神経筋にあるのでしょう。速いペースに体を慣らしておかないと3000mや5000mを速く走ることは出来ないのです。少なくとも、最高の結果を出すことは出来ません。


 これが私が基礎構築期にも一応ショートファルトレク、ショートインターバル、登板走を入れておく理由です。


 今度は逆にハーフマラソンや30㎞、フルマラソンのように距離が長くなると、大きな問題になるのが筋持久力です。


 多くの人が30㎞以降に失速するとグリコーゲンの枯渇だと決めつけますが、それは決めつけに過ぎません。実際には、筋肉がそれ以上持たなくなったのかもしれないし、あるいはグリコーゲンの枯渇と筋肉がへたるというのが複合的に作用しているのかもしれないし、それは分からないことです。


 しかし、断言できるのは多くのが人がグリコーゲンの枯渇のせいであると決めつけているが、単純に筋肉が持たなくなった可能性が大である人は多々いるということです。


 結局のところ、どれだけ科学が進歩しようとも、接地の衝撃に耐えられる体を作るには接地の衝撃を体に与えるしかありません。


 そして、接地の衝撃は一回あたりの衝撃×接地の回数で決まります。つまり、総走行距離×その平均速度によって決まります。


 つまりはその人にとっての中強度中量中頻度をどこまで高めていけるかによってその人の接地の衝撃への耐性はほぼ決まるのです。これが基礎構築期の練習でその人の競技能力がほぼ決まる理由であり、なおかつ、普段全然走っていないのに、マラソンレースが近づいてきたからちょこちょこっと30㎞走に取り組んでもレースの結果に繋がらない理由なのです。


 細かい議論をしていけば、その人の努力と結果が綺麗に比例の関係にならないのは事実です。それは私もよく知っております。だからこそ、私はトレーニング理論をお伝えさせて頂いているのです。


 それでも、この世の中に数ある分野の中で、マラソンは非常に平等なスポーツだとも思っています。


 何故ならば、先天的な素質に恵まれようが、口先だけの理論を振りかざそうが、どれだけイケメンで女性にモテようが、その人の走歴が3年程度で週に50㎞程度しか走っていないのであれば、結局は10年以上にわたって継続的に週に100㎞以上の練習を継続してきた人間に勝つ可能性は0に近いからです。


 とは言え、多くの市民ランナーさんにとってのスイートスポット、黄金地帯は週に70㎞程度の練習量でサブ3をすることでしょう。週に70㎞程度の練習量であれば、生活の多くを犠牲にする必要もないし、ランナーとしてだけではなくて人間としてのウェルビーイングが実現されるし、なおかつサブ3ランナーという名誉のある称号を手にすることが出来る、このあたりが黄金地帯であることは重々承知しております。


 そうなってくると、実際にはその人にとっての中強度中量中頻度、のうちの中強度の部分が一番大きな変数になってくることは間違いないです。あとは中強度走の頻度ですね。練習全体の頻度も重要ですが、中強度走の頻度も重要です。


 あるいはショートファルトレク、ショートインターバル、登板走、中強度から高強度走なども含めた中強度以上の練習の頻度ということになるでしょう。


 あとは距離走のやり方です。距離走においても段階を踏んで取り組まないと上手くいかない最大の理由はそうしないと筋肉が耐えられないからです。


 確かに、マリウス・バッケン氏の指摘の通り、筋肉が制限因子になり得るという考え方をもっていないと、トレーニングに対していくつかの重要事項を見落とすことになるのは紛れもない事実です。これは間違いありません。


 また、同時に見逃してはならないのが筋肉の張り具合です。筋肉が固まっている状態でスタートラインに立つと、それの所為で記録が出ないということはよくあります。


 ただ、これもじゃあ、どこまでが筋肉の張りの問題で、どこまでが筋肉を含めた全身の疲労の所為なのか、これを正確に分析することは不可能です。


 それでも、私が断言できることは、練習から判断するにサブ3.5やサブ3を達成する力は充分にあるにも関わらず、その力をレース当日に出し切れていない人は少なくないということです。


 そして、その原因の大きなものはこれは筋肉痛とはまた違うということです。最大筋力に近い筋出力を発揮した場合、筋肉痛になるので、本人もはっきりと自覚できます。


 一方で、長距離走、マラソントレーニングの場合は少しずつ少しずつ慢性的な凝り固まりが出来ていって、それが筋肉に制限をかけるということがよくあります。厚底シューズは画期的ではあると思いますが、この慢性的な筋肉の凝り固まりが出来てしまうと、厚底シューズの恩恵なんか一瞬で吹き飛ぶくらいに脚全体の反発力が無くなります。


 こういった観点からも低強度、中強度、高強度、低量、中量、高量という概念は重要なのです。


 一番筋肉がほぐれるのは低強度中量の練習なのです。人間の体というものは面白いもので、何もせずにじっとしていれば一番回復するのかというとそうでもありません。軽く動かしてあげた方が筋肉はほぐれます。


 でも、それがその人にとっての高量の領域に到達すると、逆に筋肉が張ります。だから、一番筋肉がほぐれるのは低強度中量の練習であり、次にほぐれるのが低強度低量の練習なのです。


 逆の言い方をすると、低強度走においては筋肉をほぐすような気持ちで走ることが大切です。


 ということかというと、一日30㎞の練習量に適応しているような人は、一日に30㎞走ってもそれがゆっくりであれば筋肉がほぐれるということです。そして、当たり前ですが、一日に30㎞の練習を継続できれば、競技力の向上にもつながります。


 実際には、競技力の向上というよりは高い競技力を維持できるといった方が正確なのでしょうけれど、いずれにしても、それだけの高いレベルの接地の衝撃に対する耐性をもっているからこそ、質の高い練習の量を増やすことが出来る、つまりスピード練習の量も増やせるし、質の高い距離走に取り組んでも体が適応するのです。


 市民ランナーの方にとって一日30㎞という数字が非現実的であるのは重々承知しておりますが、その数字がいくつであるかは別にして、段階を踏んで総走行距離を増やすことが競技力向上につながるということは筋肉という観点からもみても分かりやすいのではないかと思います。


 また、この観点から考えると、何故トップランナー達の多くがセルフマッサージをしたり、故障している訳でもないのに定期的に治療院の方のお世話になるのかがお分かり頂けるのではないかと思います。


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筆者紹介

​ウェルビーイング株式会社代表取締役

池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

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