あなたは非アフリカ系で初めて5000m12分台をたたき出したボブ・ケネディという男をご存知でしょうか。
3000mは7分31秒で走り、我がKimbia Athleticsの大先輩でもあります。そんなボブ・ケネディ選手は生涯に1か月ほどしか高地トレーニングを実施したことがない稀有な存在の選手でもあります。
そんなボブ・ケネディ選手の活躍を支えたもの、それは基礎練習です。縁の下の力持ちという言葉がありますが、まさにこの基礎練習が目立ちはしないけれど、大きくボブ・ケネディ選手の活躍を支えていました。
本人曰はく「トレーニングで最も大切なのは回復能力であり、回復能力が高ければ高いほど、トレーニングによく適応し、強く、速くなることが出来る。そして、この回復能力を決定づけるものこそが基礎練習であり、基礎練習の出来次第でそこそこのシーズンになるか、素晴らしいシーズンになるかが決まる」とのコメントを残しています。
この基礎練習は伝統的にアーサー・リディアード氏が言うようにただただマラソンコンディショニングトレーニングを週に100マイル実施するものでもなければ、伝統的な強豪高校が夏合宿で実施するようなひたすら起伏のあるコースを走り込むようなものでもありません。
今回はそんなボブ・ケネディ選手基礎練習を紹介させて頂きます。
ボブ・ケネディ選手の基礎練習
ボブ・ケネディ選手の基礎練習は単純ではあるが、楽ではないものであり、いくつかの簡単な原理原則から構成されています。
・総走行距離が第一義的に重要である
後述するように、ただ単にゆっくりたくさん走れば良いというものではないが、先ずは総走行距離を増やすことが鍵である。週に100マイル(160キロ)の練習がボブ・ケネディ選手にとって役立ったからと言って、誰もが週に100マイル走るべきではありません。あくまでも段階的に次のステップへと少しずつ総走行距離を増やしていくことが鍵です。
・第二に高強度走をおろそかにしてはいけない
基礎練習期においても高強度走が大切です。年間を通して、基礎持久、テンポ走、スピードがバランスよく入っていることが大切で、この3つの要素のどれか一つだけをやるという時期はあってはいけません。もちろん、期分けに応じてそれぞれ重点をおいていくトレーニングは変わります。ただし、それはあくまでも程度問題であってどれか一つだけしか重視しないという時期はありません。基礎練習期においても基礎持久、テンポ走、スピード練習がバランスよく入っていることが大切です。
・週に一回の距離走を大切に
距離走は決して楽なペースでたらたらと長く走るのではなく、ある程度良いペースで走ることが大切であり、そうでなければ基礎を構築することは出来ない。
・最後に週に何回かは低強度走の後に流しをいれる
流しという言葉が分からない市民ランナーの方もたくさんいらっしゃいます。流すという言葉は手抜きする、手を抜くという意味の言葉です。短距離選手が予選や準決勝でゴール手前でスピードを落とすのを見たことがないでしょうか。あるいは中距離走の予選でゴール手前でスピードを落としている選手をみたことがないでしょうか。あれを「流す」と俗語で言います。要するに、全力で走らずに手を抜くのが流しです。
流すと言っても前提にあるのは全力で走ることですから、長距離ランナーからすれば速いスピードです。100-200mを3-10本程度完全休息を挟んで流すのが一般的なやり方です。特に歳をとるとスピードが落ちがちなのと、低強度走ばかりしていると接地時間が長く、腰が落ちた走りになりがちなので、最後に腰の位置が高く、足の返しが速い動きをもう一度確認しておくことが大切です。
返しというのは一度後ろにいった足が前に返ってくる動作のことです。基本的に力を入れるのは体重が乗り込むまでの間で、一度体重が乗り込んで重心が中心を越えたら、そのあと筋肉は最大限に弛緩し、そのあとスムーズに足が前に戻ってこないといけません。
スピードを出そうと足が地面についてから力を入れて、地面を押したり蹴ったりしている市民ランナーの方が多いのですが、これでは遅いです。イメージ的には足が接地する直前に力を入れて体重が乗った瞬間にはもう力を抜くイメージです。
これらの原則を踏まえて大体の週間スケジュールは以下のようになります。
月曜日:低強度走と流し
火曜日:ファルトレク3分速く1分ゆっくりを5セット、10キロの主観的強度で
水曜日:15-25キロの中強度走
木曜日:テンポ走20分、ハーフマラソンの強度で
金曜日:クロストレーニングもしくは低強度走と流しと補強
土曜日:距離走 25-30キロ
日曜日:オフもしくは低強度走
シーズンが進むにつれて火曜日と木曜日の練習量が増えたり、強度が上がったりするとともに水曜日と土曜日の練習の重要性は下がります。ただ、この場合でも必ずしも強度を落とすとは限りません。何故なら、体が出来ていくにつれて同じ練習をしても疲れなくなっていくからです。外在的な負荷はそのままで内在的な負荷が下がっていくのが理想です。
同様に、火曜日と木曜日の練習は外在的な負荷は上がっていくけれど、内在的な負荷は同じままであるかほぼ同じままであるのが理想です。また、火曜日のファルトレクは隔週で登板走を行うパターンもよく用いられます。
種目は違いますが、2004年から8年間中日ドラゴンズを率いて、リーグ優勝8回、8年連続Aクラスの成績を残された落合監督が春のキャンプでは選手に猛練習を課すことで有名でした。もちろん、守備練習、打撃練習、走り込みなどバランスよく練習があったと思いますが、基本は野球をする基礎体力は野球でしかつかないという考え方で、ひたすらノックを受けさせる、ひたすら打たせるというシンプルな練習を繰り返したそうです。
そして、その目的は1シーズン闘うだけの基礎体力をつけるためだそうです。要は、同じでひたすら野球をやる時期を作ることによって、シーズン中の疲労が軽減するのではないでしょうか。
考え方は同じで、5000mを速く走るための基礎体力づくりですから、ある程度の強度は重要になってくる、ただし、この時期は量により重点をおいて取り組むとそういうことなのだと思います。
私自身の経験から言っても、一か月以上ひたすら起伏のある所で中強度走を中心に練習を組んで、全く高強度な練習を入れないとその後の移行がスムーズにいきません。一回目のテンポ走やインターバル走ではあまり走れないだけではなく、ダメージが大きいので、その後の練習を組むのが難しいです。
また、このファルトレクやテンポ走もゆっくり長くから、少なく速くに移行している訳ではなく、先ずは徐々に量を増やしていって、充分なところまで量を増やしたらそれから強度を上げていくことにも着目して下さい。
全体のバランスを考えた時に、全く高強度な練習を入れない訳ではないけれど、初期の段階ではとにかく総走行距離を増やすことに重点をおき、高強度な練習の量は少しずつ増やしていくのがコツです。
その後移行期に入ると典型的な一週間のプログラムは以下のようになります。ちなみに、1マイルは1.609キロ、1マイル6分ペースは1キロ3分43秒ペースで、ボブ・ケネディ選手からすれば、5000mのレースペースより1キロ当たり1分10秒ほど遅いペースとなります。ご自身の練習にも当てはめて考えてみてください。
最終的にはショートインターバルやセット練習で速いスピードに体を慣れさせつつ、1200mや1600mなどのロングインターバルを使ってレースをイメージできるような練習となっているのかなと思います。
あとは個人的には地味に5000mのオリンピック選考会も良い練習になっているのかなと思います。というのも、ボブ・ケネディ選手の本来の力よりもペースが遅いので、ある程度速いペースでリラックスして淡々と刻んでいく感覚がこういうところで掴めているのも大きいのかなと思います。
やはり、5000mも持久系種目です。がむしゃらに速く走るだけではなく、リラックスして速いペースでおしていく感覚を掴むことが大切なので、レースも使ってそういった5000mのレースペースよりも速いペース、5000mのレースペース、5000mのレースペースよりやや遅いペースが満遍なく入っているのかなと思います。
また6月8日の1600mは変化走的に実施しています。こういうところも含めて5000mというレースを練習で何度もシュミレーションしているのが伺えます。
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