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休養期を設ける二つのメリット

執筆者の写真: 池上秀志池上秀志

 突然ですが、あなたは休養期を設けていますか?


 休養日ではありません。休養期です。休養期とは読んで字のごとく休養を取る期間のことです。


 私はウェルビーイングオンラインスクールの受講生様を初め、頻繁にやり取りさせて頂く方にはマラソンのあと2週間くらいの休養を取ることをおススメしております。ただ、この休養期目的が正しく伝わっていないことが多いのではないかと最近思うようにもなりました。


 実はこの休養期別にマラソン1本から回復させるためのものではないのです。マラソンのあと2週間は休養を設けた方が良いというと「いや、自分はそんなには必要ない。一週間も休めば元通り走れるようになるから」と言う人も多いです。


 ですが、それは勘違いです。確かにマラソンのあとの筋肉疲労などは一週間ほど休めば取れるかもしれません。


 でも、休養期を取った方が良い理由はそこにはありません。


 今回は休養期を取る本当のメリットについて解説をさせて頂きます。


 実は私はマラソンだけではなく、それがハーフマラソンであろうと10キロであろうと5キロであろうと、一度ピークを合わせるレースが終われば2週間ほど休養期を設けることをおススメしています。


 それはレースの疲労を取るための休養期ではなく、その前の数か月間にわたるそのレースへの準備に対する休養であり、また次のサイクルを高い集中力とより良い体の状態を維持して迎えるためのものだからです。


 よく休むのも練習のうちなどと言いますが、長距離走の場合は継続が非常に重要なスポーツでまた一度つけた持久力を失うのも早いです。ですから、基本的には多少の強弱をつけながらも継続的に練習していくことになります。ただ、ここには問題点もあり、多少の強弱をつけながら練習を継続するということはある意味ではダラダラと練習を続けることにもなります。基本的にはそれが正しいやり方です。


 ですが、問題点もあり、走れないほどではないけれどどこかに痛みを抱えていたりとか、神経疲労が積み重なったりとか、ホルモン系に負担がかかったりします。休養期間を設けることのメリットはそのままこういった問題点を解決することに繋がります。それでは順番に解説していきましょう。


1. 慢性的な痛み

 野球のデッドボールやラグビーのタックルなどのはっきりとした外傷による怪我の場合は安静にしていた方が治りも早いのが基本ですが、長距離走のように徐々に痛くなるような故障の場合、走るのをやめたからと言って有意に治りが速くなる訳ではないですし、また持久力は落ちるのも早いので程度問題ではありますが、基本的に走れるのであれば走りながら治した方が良いです。


 完全に走らないと筋持久力も靱帯、腱、骨の耐久性も落ちるので、しっかり治してまた治ったら100%頑張れば良いというのは長距離走には当てはまりません。一度休んだら落ちた筋持久力、靱帯、腱、骨などを戻してからじゃないと走ってはいけないのです。


 また毛細血管密度も落ちるし、ミトコンドリアの機能も落ちるしで、疲れやすい体、もしくは疲労の回復が遅い体になります。必然的に練習の負荷はまた数か月かけて徐々に戻していかないと上手くいきません。


 総合的に判断して、走れるならば走りながら治した方が結局は早いし、そもそもどこも痛くない状態が生涯の間にどのくらいあるかというと私の場合はそれほどなかったので、痛みがあっても走れる状態ならば良い状態を維持して記録を狙う方が得策です。


 ただ、この休養期に関してはそういった基礎体力の低下を計算にいれて、体力が落ちても良いから休むことで一度接地の衝撃をなくすのも一つです。繰り返しになりますが、意外と休んだから治るかというとそうでもないのですが、少なくとも一度炎症反応がある程度まで収まるのを待つ期間があった方が良いと思います。


 また、いずれにしても体はある程度は消耗品だと私は思っています。使えば使うほど擦り減るというような単純なものでもないですが、ある程度は金属疲労を取り除く期間があった方が良いと考えています。


2. ホルモン系の回復

 あなたはバーンアウトや燃え尽き症候群という言葉を聞いたことがあるでしょうか?


 もしくは医学用語でアドレナルファティーグとか副腎疲労と呼ぶこともあります。


 人間が頑張る時にはストレスホルモンが分泌されます。ストレスホルモンというのは頑張る時に分泌されるホルモンの総称で、有名なアドレナリンもそのうちの一つです。アドレナリンがきちんと分泌されることで人間は頑張ることが出来ます。


 考えてみると、ストレスホルモンの出ない人生というのは面白くもなんともない人生です。試合になっても気分が高揚せず、インターバルをやっても気分が高揚せず、社内の昇進をかけた商談を迎えても気分が高揚せず、好きな女の子と話しても胸がときめかず、なんにも面白くない人生です。


 ただ、これにも限度があります。ストレスホルモンは副腎で作られるホルモンで、所詮は肉体が生み出す物質なので、ある意味ではこちらも消耗品です。分泌量が過度になるともうそれ以上は分泌されなくなります。そうなると、どうなるかというと本来頑張るべき時にももうやる気が起こらないのです。気力が出ないのです。


 スポーツにおいてはこのことはより大きな意味を持ちます。何故なら、血管の拡張、血圧の上昇、グリコーゲンの分解=血糖値の上昇、心拍数の上昇などはストレスホルモンによって行われているからです。つまり、やる気が起こらないだけではなく、体も反応してくれないので、良いパフォーマンスは望めなくなるのです。


 オーバートレーニングと呼ばれる現象は今言ったような現象が全て出ている状態です。私もオーバートレーニングを何度も経験しましたが、その時の私状況をさらに悪化させていたのは、気力で乗り越えることが出来ると固く信じていたことです。


 確かに気力である程度は乗り越えることが出来ます。また、生きていれば時にはそういった状態でも気力を奮い立たさなければいけない時もあるでしょう。


 しかしながら、基本的には生理現象なので、一時的に気力で乗り越えることが出来ても長期にわたって乗り越えることなど出来ないのです。一時的に睡魔と闘うことが出来ても一生寝ない訳にはいかない、一時的に食べるのを我慢できても一生食べない訳にはいかない、授業中にトイレを我慢できても一生トイレに行かない訳には行かない、そういったことと同じことです。


 またこれは生理現象なので好きとか嫌いというのともあまり関係がありません。嫌々走ってたら故障するのは本当だと思います。ですが、好き好き走っていたらオーバートレーニングにならないかというとそうでもないと思います。


 繰り返しになりますが、あくまでも生理現象なので一度副腎に負担をかけない時期を作った方が最大のパフォーマンスは高くなると思います。ちなみに、これは一般社会でも同じことが言われていて、一年の間に2週間から1か月ほど休暇を取ると生産性が向上するそうです。


 まあ、年中無休の私が言えたもんではないですが・・・


3. 神経筋を回復させる

 私たちが走るのには脳が必要です。走るのは箸の上げ下げ、字を書く、話すなどの全ての運動と同じで脳からの電気信号を運動神経が伝えて筋繊維が収縮することによって行われます。


 ちなみにですが、筋繊維単位でみれば伸ばすということはないことにも着目して下さい。例えば、肘を伸ばすというのは上腕三頭筋が収縮することによって起きますし、筋肉が落ちると姿勢が悪くなるのも背筋を収縮させることが出来なくなり、背中が伸びないから猫背になる現象です。


 補強はあくまでも補強でしかないけれど一応やっておいた方が良いと私が繰り返し主張するのも最低限の体幹の筋力がないと理想の姿勢を維持することが出来ないからです。腹筋割れてると男女ともに魅力的なので人気なのですが、それと同じかそれ以上に重要なのが背筋や肩甲骨周りの筋肉です。



 ここの筋肉がゆるむと俗に腰が落ちているとか腰が引けていると言われる状態になります。また、骨盤を釣り上げているのはお尻の筋肉なのでお尻周りの筋肉も最低限鍛えておく必要があります。


 話がややそれましたが、私達が走っている時、常に筋肉と脳はフィードバックとフィードフォアを繰り返しています。要は筋肉から今三次元空間の中で体がどのように動いているとか、筋肉の疲労状態がどの程度とかの情報が脳に送られて脳はそれに従ってまた筋肉に指令を下していくのです。


 強度の高い練習をする時ほど集中しなければならないのは、この脳と筋肉の間のやり取りがより高度に行われているからです。走ったことがない人は走ることなんてどこでも出来ると思っている人も多いですが、走ったことがある人ならテンポ走やインターバルなどの高強度な練習は場所を選ばないと危ないことは誰しも知っていると思います。


 その理由の一つはこの脳と筋肉のやり取りを高度に行わないといけないからです。


 そして、この脳と運動神経と筋繊維の一連の束を神経筋というのですが、この神経筋が一番疲れるのは速く走る時です。ですから、速く走る練習を繰り返していると徐々に体にキレがなくなってきます。


 ゆっくりばっかり走っていると体にキレがなくなるというのも事実なのですが、逆に速く走ってばかりだと疲れてしまってキレがなくなります。試合前の調整においては、量だけではなく質をコントロールしないといけない理由はここにもあります。


 長距離をやっていると三日くらい走れない状態から走り出すといつもより体が軽く、キレが出るという経験をしたことがある方も多いと思います。いわゆるたまりバネというやつですが、このたまりバネが起こる理由の一つは神経筋が休めるからです。


 とは言え、普通はそれ以上休んでいる期間が長くなると走力の低下の方が大きくなるのですが、休養期間は一時的に走力が落ちても良いから休むことによってまた神経筋が回復します。それが次のシーズンへの大きなアドバンテージになります。


実際の休み方

 では、実際にどのくらいの期間休めば良いのかということですが、別に休みたければ2週間と言わずに、3週間、4週間、6週間と休んでも良いと思います。ただ、そうすると年に二回のピークを作るのは難しくなります。年に二回のピークを作るなら、2週間の休養が年に2回、年に一回のピークを作る場合は一か月程度が適切ではないかと思います。


 で、この期間は全く走らないのかということですが、その必要はありません。本当に炎症反応が強く出ているのであれば、数日間の完全休養も必要だと思いますが、そうでなければジョギング程度走ると良いと思います。


 要は、骨格筋や靱帯、腱、骨、副腎、神経筋に負担がかからなければ良いのですから、軽くジョギングするくらいはなんの問題もありません。走ること=体への負担だと考える人も多いですが、それは普段走っていないからであって、普段走っている人からすれば全くそんなことはありません。


 そもそも、人間の体は太陽が昇っている間は動き回るくらいの感じで作られています。現在、座業従事者の人の健康に様々な問題が出ているのはそのためですし、あとは反論もあるかと思いますが、やっぱり運動をしていない人の外見の衰えは早いです。見た目が老けるのが早いというか、生物的に生気を感じなくなっていきます。


 軽くジョギングや低強度走程度は全く問題がありませんし、休養期の後半にかけて低強度走だけで走行距離を徐々に増やしていって、そのまま基礎構築期に入るのも良いやり方です。


 あとは最大の理由として、私は走ることは基本的にウェルビーイングの為のツールだと思っています。どうせ走るならば、記録を狙いたいという人もたくさんいますし、私もそのうちの一人です。ですが、基本的には先ずはウェルビーイングのツールとして走るというのがあり、そこから競技性も求めていくという方向性で考えています。


 やっぱり走ると気持ちもすっきりするし、頭もよく働くようになるし、なにより軽く走っている時に良いアイディアが浮かぶことも多いです。他の人にとっても走るということはそのようなものであってほしいと願っています。


 最後に長距離走、マラソンが速くなりたい方にお知らせです。


 弊社ウェルビーイング株式会社から拙著『詳説長距離走、マラソンが速くなるためのたった3つのポイント』(1000円)という書籍を販売しているのですが、その原稿データをPDFファイルで無料でプレゼントしています。


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筆者紹介

​ウェルビーイング株式会社代表取締役

池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

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