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執筆者の写真池上秀志

数学好きの人のためのマラソントレーニング

更新日:2021年10月16日


今回は数学好きの人のためのマラソントレーニングというタイトルで、マラソントレーニングを数式化してみたいと思います。私自身は完全な文系人間で数学は一番の苦手科目だったのですが、数式には数式のメリットがあることも認識しています。トレーニング刺激は決してデジタルで表すことは出来ません。0か1の間に無限と言っても良い刺激の領域があります。ですから、コンピュータのように0と1で処理していくことは出来ません。但し、人間の脳もコンピュータと同じでデジタルで情報を処理しています。そのデジタルの最小単位が人によって異なるだけです。走りたての人はきつい、楽、ちょっときつくなってきたかなくらいでしか処理できないことも、長年走っている人はこのままいくとちょっとやばいな集団の後ろに下がろうみたいな微調整をマラソンにおける10㎞地点でも出来るようになるわけです。しかし、どこまで正確に処理できるようになっても、人間の感覚器官がデジタルで情報を処理していることに変わりはありません。


 数式や図形の良いところはアナログで表すことが出来ることです。文字で1と2の間にあるすべての数字を書くことは出来ません。もしそれをやっている人がいれば今も数字を書き続けているはずです。一方で、曲線であれば線の定義上大きさ0の点の集まりなので、1と2の間には無限の数の数が含まれていることになっています。トレーニング刺激もアナログなので、アナログで表されるべきなのです。


 そして簡単かつ美しいというのも数式のメリットです。文章にすれば軽く一冊の本になる内容もその数式の意味が分かる人にはたった一行で表すことが出来ます。では、早速理想のマラソントレーニングを数式で表してみましょう。

理想のマラソントレーニング(Idealisches Marathontraining)をIM、負荷(Belastung)と回復(Erholung)のバランスをBE、質(Intensität)と量(Qualität)のバランスをIQ、一般性(Allgemein)と特異性(Spezificität)のバランスをASで表し、a、b、cを定数とするとき、

IM=aBE+bIQ+cAS  a>c>b

が成立する。この時、IMの値が最も大きな値になるとき、そのトレーニングは理想のマラソントレーニングである。

 過去の記事『マラソントレーニングのアンチノミー』でマラソントレーニングは大雑把に言えば、負荷と回復、質と量、一般性と特殊性という3つの相反するアンチノミーに対する最適解を見つけることだと述べました。これらをそれぞれ第一アンチノミー、第二アンチノミー、第三アンチノミーと名付けましたが、これら3つのアンチノミーでも優先順位はあります。この中で最も大切なのは第一アンチノミー(負荷と回復)です。故障してしまってはスタートラインに立てませんし、オーバートレーニングの状態でスタートラインに立つとやってきたことが無駄になってしまうからです。また第二アンチノミー(質と量)と第三アンチノミー(一般性と特殊性)を比べれば、第3アンチノミーの方が大切です。質と量の組み合わせがどうなっていようと目標とするレースに対して特異的な負荷をかけることが出来、特異的な負荷をかけるだけの基礎練習(一般性)が出来ていれば、それで何の問題もありません。

 3つのアンチノミーにおいて、それぞれ重要度が異なる以上は定数をかけて調整しなければいけません。それが定数a,b,cであり、a>c>bの意味です。ここで、時間という概念が組み込まれていないと考える人が出るかもしれません。3日前に風邪をひくのと、8週間前に風邪をひくのとでは違いますし、トレーニングの原則として一般性から特異性へと進みます。また、レース8週間前くらいは少々疲れていてもハードな練習を優先させる人が多いですが、2週間前を切ると状況は変わります。レース2週間前を切ると、過去に行ったハードな練習からの回復が何よりも優先されるべきです。


 私自身は初めから時間という概念も考慮に入れた上で、バランスを考えればよいと思っています。トレーニング刺激がアナログである以上、初めから客観的に数量化することなど不可能です。であれば、レース8週間前の負荷と回復のバランスにおける最適解とレース2週間前における負荷と回復の最適解は自ずと異なります。レース2週間前の最適解の方がレース8週間前の最適解よりもフレッシュな状態です。同様に、レース12週間前はレース4週間前よりもより一般的な(基礎的な)トレーニングを組み入れることが最適解になります。要するに、新たに時間という概念を数式に組み入れるよりは、初めから時間という概念込みで各アンチノミーをとらえればよい訳です。

 数式で表すことのメリットは迷ったときに、考える材料が一つ増えることです。例えば、私がアキレス腱を痛めていた時は次のように考えていました。


「レースまであと10週間、IMを最大化するためには故障を長引かせることだけは避けなければいけない(定数aはc,bよりも大きいから)。レースまでまだ時間があることを考えるとAS(一般性と特異性)の最適解はレース前よりも一般的トレーニングの優先度合いが高くなる。従って、BE(負荷と回復、ここではアキレス腱を悪化させるリスクと回復にかかる時間)とASの兼ね合いから、アキレス腱を回復させながら一般的刺激を加えることが出来るようにバイクでのインターバルと中強度での持久走を組み合わせよう。」 

 要するに、優先順位が明確になるので迷いが減ります。完全にゼロになることはありませんし、コーチとプログラムについて話している時も「Who knows the best decision? But we should make a smart decision. (何が最善かなんて誰にも分らないが、我々は賢明な判断を下すべきだ)」と言われたことがあります。数学や数学的思考を使えば、自動的に最適解が導かれるわけではありません。私が言いたいのは可能性として、数学的思考を使うことで物事をよりシンプルに見ることが出来る可能性があるということです。これは人によって、違うと思います。私は緻密な言語を使うのが好きですし、人によっては「しっかり走りこんで最後にポンと落とす」みたいな表現の方が分かりやすい人もいるでしょう。数式を見た瞬間全体像が見える人もいれば、グラフにすれば一目でわかるという人もいます。音楽で表すのが好きな人もいるかもしれませんし、抽象画で表す人もいるかもしれません。それは人それぞれで良いと思います。

 ただ、私のように緻密な言語で突き詰めていくのが一番納得して練習に取り組めるという選手でも、別の表現手段を持っていた方が理解が深まることは間違いありませんし、実際に数式化することで迷いは減りました。皆さんも数学的思考をマラソントレーニングに取り入れてみてはいかがでしょうか?

 長距離走、マラソンについてもっと学びたい方はこちらをクリックして、「ランニングって結局素質の問題?」という無料ブログを必ずご覧ください。

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筆者紹介

​ウェルビーイング株式会社代表取締役

池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

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