心肺機能にも超回復の考え方は適用され得るか


今回は次のようなテーマについて書いてほしいというリクエストがありましたので、超回復について書いてみたいと思います。

心肺機能にも超回復のようなリズムがあるのか

なかなか自分の中で解が見えてこないテーマです。筋肉の、壊す→休む→強くなる超回復の流れは個人的にも実感しているのですが、心肺機能も同じ仕組みが成り立っているのかをお聞きしたいです。

例えばインターバルトレーニングで心肺機能を追い込んだ後に、数日のリカバリー期間をとった方が心肺機能が高まりやすい、他ですと、AT付近のペース走によりそこそこ心肺機能を追い込んだ場合も数日のリカバリー期間をとった方が心肺機能が高まりやすいのか、という意図の質問となります。ただし、ここで(本来は有り得ませんが)上記トレーニングによる筋力的なダメージはほぼないものと仮定した上でのご質問です。筋力的なダメージがないのであれば、心肺機能は毎日でもフル稼働させてもよいものなのかが気になっております。

先ず、心肺機能とは何かというところから定義しなければいけません。心肺機能とはより効率よく有気的代謝でエネルギーを再合成できるかというふうにここでは定義しますが、より細かく見ていけば以下のような生理的適応によって引き起こされます。

・心筋の向上による一回拍出量の増大

・呼吸筋の向上

・ヘモグロビン及びミオグロビンの酸素結合能力と解離能力の向上

・毛細血管の密度と本数の増大

・ミトコンドリアのサイズと数の増大

・赤血球の数や大きさの増大

・血液の粘性の低下

ざっと挙げてみるとこんなところでしょうか。ここでは心肺機能は呼吸循環器系というふうに捉えており、心臓と肺以外の部分も含めて考えています。そうしなければ、血管やミトコンドリアから独立した心臓と肺だけの機能というものは存在しないからです。

これを見てもらえればわかりますが、心筋も呼吸筋も筋肉です。私は高地や準高地にあまり強い方ではないので、高地で追い込むと肺が痛くなったり、背筋が痛くなったりしますがこれは呼吸筋の筋肉痛でしょう。またミオグロビンは筋中での酸素運搬を行う酵素ですし、ミトコンドリアも活動筋の細胞内に存在する生物学上の呼吸(酸素を用いてアデノシン二リン酸をアデノシン三リン酸に再合成すること)を行う器官です。以上を踏まえると、心肺機能もまた筋肉によるところが大きいのでその他のあらゆる筋肉と同様に超回復します。

 それに加えて、我々はまず大前提から疑ってみなければいけません。超回復理論でよく紹介されるのは負荷をかけた後は48時間から72時間のリカバリーを開けることで、より強くなるという考え方です。しかし、この理論の前提となった実験を知っている人がどれくらいいるでしょうか。私も知りませんが、激しく筋損傷するようなレジスタンストレーニングによる実験結果から導かれた結論のはずです。要するに、特定の筋肉にはっきりとわかるような筋損傷を引き起こす運動による実験結果であるはずだということです。そして、その運動の間は完全休養を取ったと予想されます。そのような分かりやすい実験でなければエビデンスにはなりえません。

 要するに何が述べたいかと言うと、超回復理論とはそもそも「常に負荷をかけ続けるよりも時には休んだ方が良い」ということを証明した理論にすぎません。何だそんなの当り前すぎるくらい当り前じゃないかと思う人が多いと思いますが、科学とはえてしてそういうものです。分かっている人には初めからわかっているのですが、エビデンスがなければ科学とは呼べないので(といういうことはお金を出してもらえないので)他人にもわかるように証明する必要があるのです。それを証明するための実験なのですが、それが独り歩きしてしまい、高負荷トレーニングの後、48時間から72時間の休養が必要というふうに思っている人が多いように感じます。

 超回復理論は体の全ての器官や系(システム)に妥当する考え方だと思います。但し、どのような系(種類)の負荷を、どのくらいの負荷で、どのくらいの頻度でかけて行い、どのくらいの期間、どのような手段で回復を待てば良いのかということは一概には言えません。一般論の一つは様々な種類のトレーニングを組み合わせるのが良いということです。私はトレーニングで一週間に二回以上は同じ高負荷のトレーニングを入れません。ハードな2週間のプログラムであれば一番楽な日の練習が20㎞を楽な強度から中強度ということもあります。そのような負荷をかけても体が適応するのは様々な刺激のトレーニングを入れているからです。つまり、体全体には負荷がかかっているけれど一つの系(システム)に視点を当てると間は空いているということです。もう少し具体的に言えば、ショートインターバルとロングインターバルはどちらもきついけれど体にかかる負荷の刺激は違うということです。

 また超回復は短期的な視点、長期的な視点の両方から見る必要があります。一週間の中でも比較的きつい日と楽な日は必要ですし、一年の中でも楽な月ときつい月が必要だと考えています。これは精神的にも同じことが言えると思います。私のコーチの選手達はマラソンの後、常に2週間から3週間は休養を取りますが、それについてキンビアトレーニングキャンプのケニア人マッサージ師がこのような例え話をしてくれました。

「いつも家にいるとワイフも冷たくなるけど、たまに仕事でナイロビに一週間くらいいて帰ってくると冷たかったワイフもハグしてくれる。たまにはランニングから離れてるとランニングを抱きしめたくなるよ」

質問への回答をまとめておきますが、人間の体の全ての系(システム)は超回復理論に従って刺激に適応していきます。しかしながら、どのくらいの負荷をかければ、どのくらいの期間で回復し、また0か1ではないトレーニング刺激の中で刺激の種類と強さ、頻度をどのように調整すればよいかということに関しては個人差があるので具体的には述べられません。一般論として、様々な刺激の種類の負荷をかけることで超回復しながら、トレーニングを継続することが出来ます。逆に言えば、同じ種類の負荷をかけつづけるとオーバートレーニングのリスクは高まります。

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