ウォールストリートの狼に学ぶ心理学テクニック


今回はスポーツ選手に重要な心理学テクニックをセールスの天才ジョルダン・ベルフォートから学びたいと思います。まず初めに映画『ウォールストリートの狼』を知らない人のために紹介しておくと、ジョルダン・ベルフォートはアメリカのトップ1%の資産家たちに株を売って大金持ちになっただけではなく、多くの若者に彼のセールスのやり方「ストレートラインシステム」を教えて、本人の言葉を借りると、チューインガムを噛みながらではまともに歩くことも出来ない低能な若者を次々と優秀なセールスマンに変え、裕福な若者に変えていきました。映画の中では次々に電話をかけて株を売っていく様子が描かれています。

映画の最後では諸々の罪で収監され、檻から出た後、ニュージーランドでセールスのセミナーをやるところで、映画は終わります。今回の記事はその後彼によって書かれた『Way of the Wolf』を参考に書いています。

アンカーとトリガー

さて、突然ですがあなたはアンカーとトリガーという言葉を聞いたことがありますか?理科や生物の教科書に出てくるパブロフの犬の実験といった方が分かりやすいかもしれません。パブロフの犬の実験は犬に毎回ベルの音を聞かせてからえさを与えると、やがてえさを与えなくてもベルの音を聞かせただけでよだれが出るようになるという、条件反射の存在を確かめた実験です。

この実験ではベルの音がトリガー、よだれが出るという状態がアンカーです。要するに、ある生理学的な状態や心理的な状態を引き起こす引き金(英語でトリガー)となるものがトリガー、それによって引き出されるある状態がアンカーです。

実は多くのスポーツ選手がこのアンカーとトリガーを意識してかせざるか、有効に使っています。スポーツにはそれぞれ、そのスポーツに適した心理状態というものがあります。例えば、ゴルフや野球、射撃の場合、一瞬の一点集中が求められます。生理学的な状態というよりも、心理的な集中が求められます。重量挙げやスプリンターの場合は、短時間で最大限肉体の力を出し切る、一種のトランス状態が求められます。スプリンターが10秒間や20秒間の間に発揮している力というのは、普通の人が考えている以上のものです。例えば、黄金期の広岡達郎監督率いる西武ライオンズでは若手投手はキャンプ中、毎日のように100mを100本やらされたとのことですが、本当に全力でやれば10本もやれません。数時間の休憩を挟んでも一日に5本程度が限度なのではないでしょうか?西武ライオンズの若手選手達だって、手抜きをしているという自覚はないと思います。ただ、スプリンター達は瞬間的にそこまでの集中力まであげて、普段は出せない筋出力を発揮しているので、一日に10本なんてとんでもないということになるのです。

マラソンの場合は、最低でも2時間ちょっともたせる必要があります。そして、マラソンで重要なのは如何に力を使わずに集団につくかということです。これもその人のリズムを刻んで極力体の力を抜くということが大切になります。これはこれで、独特の精神状態に入る必要があります。日本記録保持者といえども、朝起きて歯を磨くようにレースの走りをすることは出来ません。

このようにスポーツ選手はそれぞれ適した心理的な状態や生理学的な状態に持っていく必要があるので、それぞれのルーティンを持っていることがとても多いです。よく言われる平常心というのも、普段のルーティンをこなすことでトリガーとアンカーの関係から、望ましい心理状態、生理学的状態を作るということだと思います。

代表的なもので言うと、イチロー選手がバットをぐるりと回して、軽く右腕の袖に触れる動きや、ラグビーの五郎丸選手がボールをける前にやっていたポーズなどがそうだと思います。

多くの選手はこうしたルーティンはそれほど深く意識せずに、なんとなくやっていることが多いのですが、この原理を意識的に使えば、良い時の状態を出しやすくなります。これは単純な話で、ここではプロ野球選手を例にとりたいと思います。年間500打席あるとすると、そのうちの50打席は最高の集中力が発揮できているとします。そして、50打席は自分でも集中できていなかったなと感じているとします。意識的に最高に集中出来た時の打席をアンカーに、そして何らかの動作(例えば一度大きく息を吐いてバッティンググローブのマジックテープを止めなおす)をトリガーにすることで、最高に集中できた打席が年間100打席に増え、集中できなかった打席が年間5打席に減ったとします。肉体的な能力や技術が同じならこれだけで打率が2-3分上がると思いませんか?

場合によっては、高い集中力を維持することで練習量を減らすことも可能かもしれません。プロ野球の中継ぎ、抑えの投手なんかはいつ来るか分からない登板に備えて、良い状態を維持しないといけないのですが、あるピッチャーは瞬時に高い集中状態に持っていけるように訓練したため、ブルペンで投げる数を減らすことが出来たと語っています。

要するに、アンカーとトリガーの関係を使えば、より高い確率で、自分の好きな時に好きな心理状態や身体状態に持っていけるようになるということです。

ジョルダン・ベルフォートのアンカリング

ここからいよいよ本題のジョルダン・ベルフォートのアンカリング方法について解説していきたいと思いますが、ジョルダン・ベルフォートがアンカーにしたのは「確信」です。彼は主に電話でのセールスだったのですが、電話越しとは言えセールスマンが自分の商品や会社に確信を持っているのか、それとも粗悪な商品を仕事だから売っているのかは何となく伝わりますよね?逆に言えば、自分の確信の度合いを高めれば、より高確率で自分の薦める商品が売れると思いませんか?そこで、ジョルダンはいつでも最高の確信度合いを出せるように、トリガーとアンカーの関係を使いました。ジョルダンのトリガーとアンカーの技術は5ステップです。

ステップ1 アンカーの状態を決める

ここでは自分がアンカリングしたい心理的状態を決めます。長距離ランナーであれば、スタートラインに立った時、レース中どういう心理状態であれば、一番力を発揮できるのかということになります。ここでは仮に自信にあふれ、最も集中している状態としましょう。

ステップ2 ベースとなる記憶を決める

ステップ2では、過去の記憶の中から自分の人生の中で最も自信に満ち溢れ、集中できていたレースを思い出します。目を閉じてそのシーンをありありと思いだします。その時の自分のユニフォーム、シューズ、前を走っていた選手の髪型、ユニフォーム、身長、シューズ、聞こえてきた歓声、応援、コースなどなど全てを可能な限り正確に思い出します。

ステップ3 アンカリングする生理学的状態を決める

ここではアンカリングする生理学的な状態を決めます。生理学的なという言葉が分かりにくければ、身体的なと言っても良いと思います。長距離ランナーであれば、脚が軽く、脚がスムーズに回転し、体の力は抜け、リズムよく、勝手に前に進んでいく感じのような感じです。ある選手は「乗り物に乗って勝手に連れてってくれる感じ」と表現していましたし、「その場で軽くジャンプしてるだけの感じ」と表現していた選手もいます。

ステップ4 ステップ2の記憶を強める

ステップ4ではステップ2で引っ張りだした記憶を五感を使って強めます。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚を使って、記憶の中のシーンをより鮮明に、より大きく、より明るくしてください。一言で言えば、リアリティを高めるということです。インスタグラムで映像を投稿する時に明るさを調整したり、音量を調整したりすると思うのですが、それと同じように明るさ、音量、その時の触感、味、匂いなどを強めたり、弱めたりして自分でしっくりとくるように調整してください。この時必ずしも現実世界とぴったり一致する必要はありません。寧ろ、実際その時見ていた映像よりも明るめにしたり、自分の足音を大きくした方がリアリティが強くなることも多いです。

ステップ5 アンカリング

さて、いよいよトリガーを決めて、望ましいアンカーをセットするのがステップ5です。トリガーを何にするのかということですが、ジョルダンがお薦めするのは嗅覚を利用することです。脳科学的にも嗅覚というのは記憶と深く結びついているので、過去の記憶を引っ張り出すにはもってこいの方法です。ステップ4までをやり、そして特定の匂いをかぐことを何度か繰り返せば、匂いをかぐだけでアンカリングした心理状態や生理学的状態を引き出すことが出来るようになります。では具体的にはどんなにおいを使えばよいのかということですが、次の2つの条件が必要になります。

・特定の記憶と脳内で結びつくだけの強く刺激的な香りでありながら、不快感を引き起こさないかおり。

・持ち運び可能で、いつでもポケットから取り出せて周囲の人に不快感を抱かせない程度の匂いの強さ。

この条件を満たすものでジョルダンが選んだものがBoomboomというスティック型のエッセンシャルオイルです。キャップを取り外して鼻腔に差し込み、息を吸い込むだけなのでいつでもポケットから取り出せて周りの人にはその匂いは伝わりません。本来は気分転換や集中したいときの為に売られている商品で日本のアマゾンにもありました。

ジョルダン・ベルフォート自身のアンカリング経験

ジョルダンはこのアンカリング方法を考え出してから、半年間何度も確信状態のアンカリングを試みました。ところが、何度やっても上手くいきません。以下がその様子です

問題は私が選んだ記憶にあった。私はホワイトボードにストレートラインシステム(彼のセールス方法)を書きながら説明し、劇的に若手セールスマン達を変えたあの火曜日の夜以上に強い確信を持った記憶を探した。そう第二章で話したあの夜のことだ。私の心の目が開かれ、ストレートラインシステムを考え出したあの夜のことだ。しかし、あの夜以上に私が確信を持ったことなどない。

 しかし、ショックなことにアンカーをセットしようとしても上手くいかなかった。何度もやってみたがやはり上手くいかない。何度も何度もやってみたが、何の結果も出なかった。            Jordan Belfort著 『Way of the Wolf』訳筆者

最終的にジョルダンがアンカリングに成功したのは、自分でもタフだと思える契約の取引を成功させた後でした。これは単純ですが、忘れてはいけない事実だと思います。どんな心理的なテクニックを駆使しても、最もリアリティが強いのはこの現実世界です。トリガーとアンカーのテクニックを使ってより良い成果を挙げる、そしてより良い成果を挙げたらそれをベースにより強いアンカリングを行う、この繰り返しが大切だと思います。

心理学的なテクニックが上手くいかない?

心理学的なテクニックが上手くいかない人は、逆説的ですが、心理学的なテクニックに期待し過ぎている傾向があります。心理学的なテクニックもある程度反復練習が必要なのですが、心理学的なテクニックに過剰な期待をしている人はスーパーマンのような力を期待して練習するので、当然全くできません。出来ないから、モチベーションも下がって、反復しない。反復しないから出来ないという悪循環になって最終的に辞めてしまうのです。

残念ながら、心理学的なテクニックを駆使すればいつでも「ボールが止まって見える」訳ではありません。このことは強調し過ぎても強調し過ぎることはないので、もう一度説明しておきます。プロ野球で言えば、年間500打席で最高に集中できた打席が50打席、自分でも集中できなかったと思う打席が50打席あったとすると、心理学的なテクニックを使えば、年間500打席で最高の集中力が発揮できるようになるわけではありません。最高に集中できる打席を年間100打席に増やし、集中できなかった打席を年間5打席に減らすことが心理学的なテクニックです。

しかしながら、懸命な読者諸兄の方々にはこの差が如何に大きなものかお分かりいただけると思います。これだけ集中の度合いが変われば打率2割7分の打者が打率3割になります。打率2割7分が打率3割になれば、給料は数千万円跳ね上がります。

マラソンや駅伝でも同じです。個人的な話ですが、高校時代京都府駅伝は3年連続区間賞で3年連続優勝でしたが、1年生、2年生の時は補欠の先輩とは実力差は無く(寧ろ私の方が大きく劣る面もありました)、他の先輩が走っても区間賞を獲ってチームは優勝していました。私が使ってもらえたのはどんな時でも落ち着いて、だいだい監督の計算通りに走ったからです。この時、他の先輩がアンカリング技術を身につけて、同じようにいつでも落ち着いて集中して走れるのであれば、私はメンバーから外れていたでしょう。区間賞で京都府駅伝の優勝メンバーになるのと補欠の差は進路を決める時には大きな差です。京都府駅伝3年連続区間賞で都大路出場は陸上界では、全くとるに足りない結果ですが、倍率5倍の京都教育大学の推薦入試を通る時には大いに役立ちました。

その分野の人であれば、基礎知識、基礎技術、基礎体力にそこまで差はありません。そんなときにちょっと下駄をはかせてくれるのが、心理学的なテクニックだと思ってもらえれば幸いです。

追伸

今回はジョルダン・ベルフォートのアンカリング方法について書きましたが、文中に出てくるストレートラインシステムに興味を持たれた方も多いかと思います。年収一億円でも充分凄いですが、週に1億円を稼ぎ、高校中退した16歳の若者までミリオネアに変えたのが、ストレートラインシステムです。ジョルダン・ベルフォートは「あなたがセールスマンじゃなかったとしても人生とはセールスだ。自分の考えを売り、自分のコンセプトを売り、自分の商品を売り、親は子供にお風呂に入ることや勉強することの重要性を売り、先生は生徒に教育の重要性を売り、宗教家はイエス・キリストやモハメドや釈迦の実存を売る。我々は全員、人生のある時点で、将来の上司、部下、ビジネスパートナーに自分を売り込み、初めてのデートという契約を勝ち取らなければいけない。要するに、セールスとは人生の全てに応用可能なのだ」と言っています。

さて、私のブログにセールスというテーマを持ち込んだことはないのですが、興味のある方が多ければ、次回はストレートラインシステムについて書いてみようと思います。ストレートラインシステムについてもっと知りたいという方は下記のURLをクリックして問い合わせページに飛び、ストレートラインシステムと書いて送信ボタンを押してください。

https://www.ikegamihideyuki.com/question

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