トレーニング強度を評価する3つの方法
- 池上秀志
- 6月5日
- 読了時間: 11分
突然ですが、あなたはトレーニングの強度をどのように評価されていますでしょうか?
私が言っているのはあなた自身のトレーニングのみならず他人のトレーニングの評価方法についても申し上げています。何故、他人のトレーニング内容も正しく評価する必要があるのかと言いますと、それが自分自身のトレーニングを考える上で参考になるからです。
個人が経験できる範囲内というのは非常に限られています。ですから、最も自分の記録を伸ばす上で効率が良いのはトップランナー達のトレーニングを分析することです。
トップランナー達は他の人たちよりも優れているからこそトップランナーなのです。そして、他の人よりも優れているのは、他の人よりも優れたやり方を取り入れているからです。
ですから、トップランナー達のトレーニングを分析するのが最も近道なのです。
そして、その中でも最も大雑把な指標となるのが、トレーニングの量と質の関係性でしょう。トップランナー達のトレーニングの質と量はだいたいどのような関係性や割合や比率になっているのか、これを知ることで大いに参考になります。
しかしながら、このトレーニングの強度を分析する手法に関して言えば、大きく分けると3つのやり方があります。本記事内ではその3つの手法の長所と短所を解説させて頂きます。
1厳密に心拍数で管理するやり方
一つ目のやり方はガーミンをお使いの方はすぐにお分かり頂けると思います。走り終わった後に、時計を止めるとゾーン1が何パーセント、ゾーン2が何パーセント、ゾーン3が何パーセント、ゾーン4が何パーセント、ゾーン5が何パーセントと表示されるあれです。
この計測方法の第一の問題点は、ゾーンをいくつに区切るのかということと、それぞれゾーン1は心拍数いくつからいくつで区切るのか、ゾーン2は心拍数いくつからいくつで区切るのか、ゾーン3は心拍数いくつからいくつで区切るのかといったような問題です。
ガーミンの場合は最大心拍数の90%以上をゾーン5、最大心拍数の80%から90%をゾーン4、最大心拍数の80%から70%をゾーン3、最大心拍数の70%から60%をゾーン2、最大心拍数の60%以下をゾーン1と区切っているようです(間違っていたらすみません。私はそのように聞きました)。
とりあえず、この区分で私は問題がないと思います。実情に即していると言えるでしょう。
ただ、いくつかの問題は当然残ります。
最も大きな問題点は心拍数が上昇するまでには時間差を要するということです。例えば、10㎞をハーフマラソンのレースペースで走るようなトレーニングをするとしましょう。
この場合、私の経験上は心拍数が安定するまでに約2㎞を要します。
例えばですが、私の場合で言えば1㎞3分10秒ペースで走るとしましょう。1㎞3分10秒ペースをずっと最初から最後まで維持すると仮定して下さい。この時の平均心拍数はおよそ160です。
私の最大心拍数がおよそ180をやや下回るくらいなので、最初から最後まで最大心拍数の90%あたりを維持することになります。
ところが、心拍数が160に到達するのに2㎞ほどかかるのです。そうすると、初めの1㎞はゾーン3に該当したりします。
また、もう一つの問題は、ハーフマラソンのレースペースや最大心拍数のちょうど90%前後なので、負荷はほとんど変わらないにも関わらず、わずかな違いでゾーン4にいったり、ゾーン5にいったりすることになります。
そうすると、スタートからゴールまでずっと1㎞3分10秒ペースを維持しているにもかかわらず、ゾーン3とゾーン4とゾーン5が混ざることになります。果たして、これが正確な評価と言えるのか否かという問題があります。
一定のペースで走り続ける持久走の場合、確かに同じペースで走り続ければ徐々に苦しくなりますから、それを心拍数が正確に表しているとも言えます。
一方で、インターバルの場合はどうでしょうか?
例えば、1㎞3分ペースで6本、2分休息で実施するとします。そうすると、どうしても心拍数の上昇に1分から1分半ほどはかかります。そうすると、5㎞のレースペースで1km6本を行っても、ゾーン5に到達するのは半分程度ということは普通にあるはずです。
これが果たして適切なトレーニングの評価の仕方なのかという問題が出ます。また、ウォーミングアップやクーリングダウンを入れると、更にゾーン5の割合が少なくなります。このゾーン5の割合が少なくなった状態で、比率を出してしまうのが適切な評価であるのかという問題点があります。
ただ、最も主観が入らずに客観的な評価となるという意味合いにおいては、この1番目の評価方法が最も正確です。ですから、長所としては人間の主観が一切入らない正確な評価方法であるということが出来ます。
2セッションゴール
二つ目のやり方はセッションゴールと呼ばれるものです。セッションとはある一つのトレーニングセッションを指します。例えば、今日は10㎞の低強度走をやると決めたら、それが一つのセッションです。ゴールとは目的や位置づけという風に理解をして下さい。要は、その練習のどのような強度を想定し、どのような位置づけで行うのかということです。
例えばですが、私のコーチであるディーター・ホーゲン氏のトレーニンググループは(もちろん私も含みます)、トレーニングを低強度、中強度、高強度に分類します。低強度、中強度、高強度は私が勝手に翻訳したもので、原語のドイツ語ではlocker, mittler, schnellとなります。直訳するのであれば、ゆるラン、中間、速いということになるでしょう。
このトレーニングで大切なことは、そのトレーニングがきちんと目標とする強度に設定されることです。
例えばですが、10㎞の中強度走をしたとしましょう。この時、心拍数が安定するまでに2㎞ほどかかり、なおかつもしかすると最後の1㎞は気持ち良くペースを上げると心拍数がそれに伴ってやや上昇するかもしれません。
ですが、ここで変わらないのはスタートからゴールまで主観的にはおよそ中強度であり、そのトレーニング全体を通しての強度は中強度であるということです。
インターバルトレーニングについても同様のことが言えるでしょう。ウォーミングアップやクーリングダウンは心拍数が低いですし、つなぎ(休息)の区間では心拍数が一度下がり、疾走区間で心拍数がしっかりと上昇するまでにやや時間を要します。
ですが、間違いなく言えることは、その日の目標とするトレーニングの強度、その日のトレーニングの位置づけは高強度であるということです。
心拍数的に言えば、その日の練習の約5割がゾーン2で約3割がゾーン3で約2割がゾーン5なのかもしれません。しかしながら、やはりその日の練習は2割だけが高強度で後は楽な練習というのは実感に即さないでしょう。
実感に最も一致するのは、インターバルトレーニングの日のトレーニング強度は高強度であるということです。
ちなみに、分類の仕方には何種類かを想定しても構いません。
例えばですが、ジャック・ダニエルズ博士はEasy pace, Marathon pace, Threshold pace, Vo2 max interval pace, Repetition paceの5つに分類します。そして、それぞれを最大心拍数の60%から80%程度の強度、マラソンのレースペース、ハーフマラソンのレースペース、5㎞から10㎞のレースペース、1500mのレースペースという風に分類します。
私のハーフマラソンの直近の記録から考えると、1㎞3分8秒ペースがThreshold Paceということになります。ですが、セッションゴールの考え方をもちうるならば、1㎞3分8秒ペースをめがけて走って、追い風なら3分3秒くらいになるだろうし、向かい風なら3分13秒くらいになるだろうし、それでも位置づけとしてはThreshold Paceだということになります。
位置づけが変わらない以上は、実際のペースに多少の変化が出ても、同じThreshold Paceと言えるのです。実際に、ジャック・ダニエルズ博士も著書の中でそのように説明されています。
ちなみに、弊社副社長の深澤哲也は待ち合わせる時に「3時をめがけて行きます」といいうような言い方をします。3時をめがけて行っても途中で道路が渋滞していれば、3時15分くらいに到着することもあります。それでも、セッションゴールの考え方を使うのであれば、位置づけ的には3時に事務所に到着しており、遅刻していないことになります。
そんな冗談はさておき、このセッションゴールという考え方は様々な人のトレーニングシステムに応用できるでしょう。
例えば、我が母校の洛南高校ではジョグとペース走という二つの言葉があり、暗黙の了解としてペース走という名前がついている時は1㎞4分以内という暗黙の了解がありました。
50分ジョグと書いてあるときはもっとゆっくりと走っても良いのですが、10㎞ペース走と書いてあるときは必ず1㎞4分以下でなければならないのです。特に、設定ペースが言い渡されてある訳ではないですが、1㎞4分ペースです。
ところが、力のある選手や調子の良い選手は勝手に1㎞3分50秒、1㎞3分40秒とペースを上げていきます。
しかしながら、この場合においても5000m16分15秒の選手が1㎞4分ペースで走るのと、5000m14分35秒の選手が1㎞3分40秒ペースで走るのとでは位置づけ的には同じ練習、つまりセッションゴールという考え方をもちうるのであれば、同じ10㎞ペース走であるということが出来るでしょう。
これがセッションゴールという考え方です。最も実情には即しているのですが、最大の問題は主観に左右されてしまうことです。
実際に、自分では中強度走だと思っていたものの強度が低すぎたとかあるいは逆に高すぎたということはよくあることです。
トレーニングを考える上でも様々なレベルで考える必要がありますが、現場レベルで考えるのではなく、学問として考えるのであれば、このセッションゴールという考え方は最も難点の大きい評価方法と言えるでしょう。
3心拍数によるゾーン法とセッションゴール法を混ぜ合わせる方法
ここまで見てきました通り、心拍数によるゾーン法にもセッションゴール法にもそれぞれ欠点があります。ですから、これらの欠点を克服するためにこれらを混ぜ合わせるというやり方が考案されました。
これは言ってみれば、キリの良いところで区切るやり方です。
例えばですが、心拍数によるゾーン法の最大の問題点はペースを変動させても心拍数がそれに適応するまでに時間差があることです。その問題点はインターバルトレーニングにおいてより顕著に出ます。
繰り返しになりますが、5000m15分ちょうどの選手が1㎞3分ペースで1000mを6本やるとして、心拍数が最大心拍数の90%を超えるのにどうしても1分半くらいはかかってしまいます。この時間差が問題なのです。
ですが、だからといって1000m6本やるうちの半分は楽な練習であると言われると、実感に即しないでしょう。5000mのレースペースで走ることは体にとっては結構大きな負担です。
心拍数によるゾーン法とセッションゴール法の混合型は、この1000m6本は全て、ゾーン5とキリよく区切って評価するのです。
その一方で、ウォーミングアップやクーリングダウンも無視せずに、きちんと平均したらゾーン2ならゾーン2として全体の練習に加えます。
そうすると、心拍数によるゾーン法よりは全体の割合におけるゾーン5の割合が増えるものの、セッションゴール法よりは全体の割合におけるゾーン5の割合は減ります。セッションゴール法ではウォーミングアップやクーリングダウンはその日の練習の目的に含まれないので無視するからです。
これはこれで一理ある考え方です。何故ならば、特にランニング初心者においてはウォーミングアップやクーリングダウンでも良いから練習量を増やすことに大きなメリットがあるからです。
また、トップランナーの中にも多少のトレーニング効果を求めてクーリングダウンは60分ジョグというような方もいらっしゃいます。こういったものも評価に入れた方がより正確な記録であると言えるでしょう。
結局どのやり方が一番良いのか?
では、結局どのやり方が一番良いのかということですが、これはどのレベルで、あるいはどの観点からトレーニングを分析するかによって大きく変わります。純粋な学問として、あるいは科学として考えるのであれば、何よりも客観性が大切ですから、一番目の心拍数によるゾーン法が最適でしょう。
現場レベルで考えるならば、2番目のセッションゴール法が最も適していると言えるでしょう。
その二つの混合型は研究者とコーチのかけ橋となる考え方と言えるでしょう。
ですから、一概にどれが最適とは言えません。それでも、私があえて一つだけ選べと言われれば、混合型をおススメします。
やはり、5000m15分ちょうどの選手が1㎞3分ペースで走っているのに心拍数的にはゾーン3だからゾーン3というのは杓子定規すぎるように思います。
一方で、セッションゴール法を用いると、各選手や指導者の思惑、考え方、用語の使い方、主観といったものに左右され過ぎます。古今東西のトップランナー達のトレーニングを分析する、あるいはマラソン2時間10分を切る選手からマラソン4時間のランナーさんのトレーニングを分析するまでが求められる私のような仕事をしていると対応が難しいです。
ですから、人間の主観も部分的に入れながらも客観的な数字を出していく混合型が最も理に適っていると私は思っています。あなたの参考になりますと幸いです。
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