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長距離走・マラソンが劇的に速くなる4つの実践的観点

更新日:2022年7月4日

 あなたはトレーニング理論について学ぶことが好きでしょうか?私はトレーニング理論について学ぶことが大好きです。理由は2つあります。


 1つ目は、そもそも勉強するのが好きだからです。


 2つ目は、とんでもない時短を実現することが出来るからです。この時短は歴史の流れの中から来ます。例えば、オリンピックで5000m、10000m、マラソンで三冠を達成したエミール・ザトペックという選手がいます。そして驚くことなかれ、自己ベストだけで比べれば私の方が彼よりもマラソンが速いのです。


 ここで質問です。エミール・ザトペックよりも私の方が偉大な選手なのでしょうか?もちろん、答えはノーです。


 ではもう一つ質問です。何故私の方が彼よりも速く走ることが出来るのでしょうか?答えはいくつかありますが、最も大きな違いは生まれた時代が違うからです。エミール・ザトペック選手と私はざっと60年ほど生きた時代が違います。彼もまた、ソ連からの弾圧を受け、時代の波に翻弄された人です。そして、同時に冷戦の恩恵を受けて、東ドイツの運動生理学者が開発した最先端のトレーニング理論を実践して、強くなりました。


 私はと言えば、グローバル化の恩恵を恐らく陸上界で最も大きく受けた人間でしょう。ソ連崩壊後は西側、東側の隔たりもなく、本や動画や人が行き来して、その中から膨大な知識を手に入れることが出来ました。日本人に生まれたことも幸いしました。日本人が英語やドイツ語を話すことはそれほど、難しいことではありませんが、私のコーチであるディーター・ホーゲン曰く「日本人がアルファベットになれるのは1,2年だが、ドイツ人が漢字を習得するのには100年かかる」とのことです。


 勿論、これは冗談交じりの話ですが、私が情報の恩恵を受けたことは間違いありません。ランナーの大半は、身体的な素質に恵まれた屈強な人間たちの集まりですが、私は幸か不幸か身体的な素質よりも、勉強をする方が向いている人間として生まれてしまいました。これは私のランニング人生にプラスにもマイナスにも影響しているのですが、一つ言えることは私がもしエミール・ザトペックと同じ年に生まれていたら、ここまで速くならなかっただろうということです。だって、いくら勉強しても、そのころはまだ日本のレジェンドたちはもちろんのこと、フランク・ショーターもビル・ロジャースもアーサー・リディアードもまだ現役生活が始まってもいなかったのですから。


 コーチホーゲンは1953年生まれ、エミール・ザトペック選手が大活躍した1956年はまだ乳離れして間もないころです。



 長距離走・マラソントレーニングに関する理論というと運動生理学だと勘違いされがちなのですが、運動生理学とイコールではありません。運動生理学も含むトレーニング理論です。何度も書いていることなのですが、ここで科学という言葉の定義を改めてお伝えしておきますと、科学とは実験と観察によって心理を探求する営みのことを言います。


 要するに、「こういう練習をしたら、こうなった。じゃあ次はこれをこうやったら、どうなるか試してみよう。あぁ、そうかこれをこうやったら、こうなるのか、じゃあこれをこうやったらどうなるんだ?」という試行錯誤を歴代の選手やコーチが延々とやってきたわけです。そして、それを勉強すれば、控えめに言っても半世紀の時短が実現します。


 私が販売している集中講義のいくつかのプレゼン動画には「もしも信じられないほどの時短を実現するなら、例えば通常なら5年かかるようなところに1年で到達出来たり」という言葉があります。これは私がかなり控えめに言っているところです。「通常半世紀かかるようなところに、たった1年で到達できるとしたら・・・」とか言ったら、誰にも信じてもらえませんし、「こいつとうとう頭がおかしくなったか」と思われてしまうので、かなり控えめに言っている訳です。


 そんな訳で、私はトレーニング理論を学ぶのが大好きです。理論というと無機質な感じがしますが、実際には選手や指導者が人生をかけて試行錯誤してきたその歴史が詰まっている訳ですから、トレーニング理論というのは同時にその人間ドラマの歴史でもある訳です。そして、当然その理論に基づいて私自身が競技者として走り、年間数百人の市民ランナーの方の指導をする中で、私なりのトレーニング理論が形成されます。


 これはご存じの方もいらっしゃるかもしれませんが、「池上式線形アルゴリズム」というやつです。3つのアンチノミーとストレートラインシステムから形成される理論なのですが、ここでは詳細は割愛させて頂きます。


 さて、ここで一つの問題点があります。それは、「池上式線形アルゴリズム」を使えば、誰でも走るのが速くなるのかということです。そこまで言うのなら、速くなるんだろうと思われるでしょう?答えはノーです。


 何故なら、この世の全ての物事がそうであるように、理論と実践的観点の両方が必要だからです。要するに、こういうことです。あなたは慣性の法則というのを習ったのを覚えているでしょうか?慣性の法則というのは、外部から力がかからない限り物体は永遠に同じ運動を続けるという法則です。要するに、静止しているものは永遠に静止しているし、初速150kmで放たれたプロ野球のピッチャーの速球は永遠に時速150kmで真っすぐ飛び続けるということです。


 ですが、考えてみてください。この世の中に外部からの力が永遠にかからないものなどあるでしょうか?何か一つでもあるでしょうか?空気抵抗あるし、重力働いてるし、風も吹くし、外部からの力がかからないものなど何一つありません。これが理論と実践の違いです。理論的には慣性の法則というのは、正しいのでしょう。でも、この世の中には厳密に慣性の法則が働くことなどないのです。


 そして、これが最も大切なことですが、野球の投手は慣性の法則やベルヌーイの定理や重力加速度や空気抵抗や本来物理学的に言えば、考えるべきことを一切考えなくても、狙ったところに思い通りのボールが投げられれば一流投手になれるんです。これが理論と実践の関係性です。


 理論を理解することで、とんでもない時短を実現することが可能になる一方で、やっぱり実践的観点が抜け落ちていれば、この現象世界(物理空間)では何もおこならないのです。これが現実です。


 では、トレーニングにおける実践とはどのようなものでしょうか?ここで私の経験談を一つ語らせてください。


 これは去年の話です。すでに私の中では「池上式線形アルゴリズム」を完成させ、トレーニング理論には絶対的な自信を持っていました。実際に、7月に3000m9分ちょうどでしか走れず、しかもその後2,3週間休養を取っていたのですが、その後少しずつ少しずつ状態を上げていき、400m20本を平均65秒で行ったり、1.5km8本を2:59-2:57/kでやった後に1km4本を2分50秒でやったり、40km走を2時間11分でやったり、確実に状態は上がっていました。


 しかしながら、ピークを持ってくるべき防府読売マラソンでは途中棄権という結果に終わりました。これこそが理論的には理解していても実践において、理論を上手く応用できなかったケースです。勿論、ある意味では狙ったレースに向けて徐々に状態を上げてこれていた訳で、その理由は過去のどの時期よりも優れたトレーニング理論を持っているからです。


 でも、やっぱり完ぺきではなかったということです。あなたも同じような経験がないでしょうか?これをこうやれば上手くいくはずなのになと思っているのに上手くいかなかったことはありませんか?本を読んで理論を学んだのに上手くいかなかったことはないでしょうか?そういう時には4つの実践的な観点が必要です。


長距離走・マラソンが速くなるために必要な4つの実践的観点


観点1:全てのトレーニングはあなたが狙ったレースにおいて、狙ったペースで走り切れるようにデザインされていなければいけない。


 これが理論を学んだ人間が最も陥りがちな過ちなのですが、理論に基づいてトレーニングをするあまり、自分が今何のためにやっているのか分からなくなるということです。例えばですが、6月14日の5000mで14分10秒で走りたいのであれば、おおざっぱに言って3つの要素が必要です。


 1つ目は、6月14日に最高の状態を持ってくること、2つ目は1キロ2分50秒で5000m走れるだけのスピード的な(動き的な)余裕を持つこと、3つ目は1キロ2分50秒で5000m走り切れるだけの持久力をつけることです。この3つの目標に向かってトレーニングを組まなければいけないのですが、本を読んで勉強したことを実践しようとすると「リディア―ドは本にこう書いているからこうやろう」「ジャック・ダニエルズ博士は本にこう書いているからこうやろう」というそっちの方がメインになってしまうのです。


 重ねて書きますが、理論を学ぶことはとても大切なことであり、私自身もトレーニング理論が大好きです。でもそれは上記の3つの目標を達成するための手段であり、目的そのものではないのです。


 そうすると、誰が何と言おうが、自分はこの目標を達成するためにはこれをやらないといけない、という時があるのです。例えば、6月14日のレースに最高の状態をもっていかないといけないのに、すでにレースの3週間前に思ったよりも疲れていたり、トレーニングに対する不適応を感じるのであれば、残りの3週間の練習は事前に立てた計画がどうであろうと、本になんて書いてあろうと、余裕を持たせた練習で疲労を取り去ってレース当日を迎えないといけません。


 これはしばしば指導者と選手との間で起こる対立でもあります。指導者は過去の経験から、こういうトレーニングを組めばピークが合うと思っているのだけど、選手の方は「そんな練習したら、上手くいかない」と感じているケースです。実はこのケースではそれほど大きな問題ではありません。何故なら、選手が「このままでは上手くいかない」と感じているからです。事前に感じているだけましです。


 ところが、ほとんどのケースにおいては、選手は予定していた練習を変えるのは嫌なのです。そして、往々にして予定通りの練習をこなすことが、目的を上回ることになります。


観点2:全てのトレーニングは個々の目標、夢、ニーズ、長所、短所に応じて組まれなければいけない。


 トレーニング理論というものは、この全世界の全ての人に共通する理論です。これは慣性の法則と同じです。あなただけ慣性の法則が働かないということはありえません。一方で、トレーニングにおいては、やはり個々の違いを考慮する必要があります。


 大雑把に分けると、先ず違うレースに向けて準備している二人の選手が同じ練習をすることは難しいです。ピークを持ってくる日が違うので、同じ練習をすると上手くいかないのです。


 2つ目にスピード型なのか持久型なのかという違いがあります。そして、このスピード型か持久型かという違いから導き出される結論はその時々で違います。持久型だから、スピードに重点を置いたプログラムを組もうという結論にもなりえますし、持久型だから得意な練習に重点を置いたプログラムを組んでみようという結論にもなります。


 そこから導き出される結論がどうなるかは分かりませんが、違いを考慮に入れる必要があるということは間違いありません。


 3つ目に、これは言葉で伝えるのは難しいのですが、トレーニングを全体的に見たときに(例えば2週間の練習を考えてみて下さい)、このくらいの練習が出来ていれば、5000mで14分台は出せるなと感じる人と、この練習では14分台は出せないなと感じる選手の両方がいます。全く同じ練習で違う感覚です。この違いがどこから来るのかは、正直私にもよくわかりません。そして、どちらが間違っているというのもどちらが正しいというのもありません。

 

 ある特定のレース結果を出すためにこのくらいの練習をこのくらいの余裕度でやる必要があるというのは、経験を積んでくると分かってくるのですが、それは人によって若干違うんです。ですので、その辺の違いをある程度考慮に入れながら練習を進めていく必要があります。


観点3:トレーニングは個々の感覚や体の反応に応じて進められなければいけない


 これもよくあるあるあるなのですが、自分の体の反応や感覚に関わらず、本にこう書いてあったから、こう練習するとか誰それはこう言っているから、こうやるとか、そっちを優先させてしまってトレーニングを進めるにあたっての自分の感覚とかを無視して進めてしまうケースがよくあります。私も昔はそういうことをしていました。


 ですが、一つ考えてみてください。本には感覚が書いてありません。また本には昨日の練習をやってみて、あなたがどう感じたのかということは分かりません。ハリー・ポッターに出てくる本のように、あなたの日々のトレーニング状況によって、本に書いてあることも変われば良いのですが、残念ながらそういうことにはなりません。


 ちなみに言うまでもないとは思うのですが、AI(人工知能)にも無理です。詳細は割愛しますが、世間一般でいわれているAIはいわゆるAIであって、本当のAIではありません。そして、人間であっても他人の体のことはよくわからないのに、何故人工知能に分かるのですか?


 これは自分の体の反応や感覚に従って進めいていくしかない部分なんです。おおざっぱな目安でいえば、二週間ごとくらいに練習の進捗状況を確認することだと思います。二週間前よりも似たような練習が楽にこなせているかどうか、あるいは同じ感覚で走ってもタイムが上がっているかどうか、これを確認しながら練習を決めていく必要があります。


 長距離走・マラソンの場合は今日よりも明日の方が速くなっているということはあり得ないのですが、二週間くらいの中で小さな変化が表れてきます。何よりも大切なことは同じ練習をしていて、二週間前よりもきつく感じていないか、あるいは二週間前と同じ感覚で走っているのに、ペースが著しく遅くなっていないかということです。


 路面や風向、風力が変われば、タイムも変わるので、このあたりも自分の感覚を考慮に入れながら判断していく必要があります。



観点4:シーズンごとに、或いは一年ごとにトレーニング刺激に対して適応していくのを確認する


 これも大切なことです。トレーニングをやっていて、一つの大切なことはトレーニングを遂行することではなく、トレーニング刺激に対して適応するということです。そして、それをトレーニング全体ではなく、個々のトレーニング刺激においてチェックしていく必要があるということです。例えば、全体的にタイムが上がったとしても、10kmのテンポ走とショートインターバルを比べたら、ショートインターバルにはよく適応したけど、10kmのテンポ走にはあまり適応しなかったとか、あるいはロングランはかなり楽にこなせるようになったけど、インターバルにはあまり体が適応しなかったとか、色々なパターンが出来ています。


 その一つ一つのトレーニングの反応を見ながら、翌年以降のシーズンや一年ごとのトレーニングを立てていく必要があります。この作業を何度も繰り返していけば、決して本を読んだようにはいきません。何故なら、あなたという人間はこの世に一人しかいないからです。


 そして、この適応はレースの結果と結び付けて考える部分と切り離して考える部分の両方が必要です。全ての練習は厳密にはレース結果に結びついているはずです。個々のワークアウトだけではなく、練習全体の密度や総走行距離もレース結果に結びつきます。そして、どの練習がどの程度レースに影響を及ぼしたのかを悪い面と良い面の両方で考える必要があります。


 これをやらないとショートインターバルだけがどんどん速くなって、レースの結果は良くならないということにもなりかねません。


 その一方で、私は他人を指導する時はレース結果と練習を切り離して考える部分も持つようにします。何故なら、レース結果が良かったとしても、どこかに改善点はあるのが普通だからです。


 そして、例えレース結果が悪くても、部分的な改善があることも普通だからです。今までできなかった練習ができるようになるということは、例えレースで結果が出なかったとしても大きな改善であり、褒められるべきことです。他人がほめるか、自分で自分をほめるかは別にして、大きな改善点だと思います。


 勿論、競技者は結果が全てです。しかも、勝たないと評価されない世界なので、練習が良くなろうが、悪くなろうがそんなことは関係ありません。結果を出したらそれでOKでそれ以外はダメです。そういった世界で走ることは、それはそれで一つの誇りを持って走れば良いと思います。指導者もスポンサーも偉そうなことを言ってても、自分がやったらできるとは限らないのです。それでも結果が出なかったら、非難されたり、仕事を失うという状況を受け入れて走るということは、一つの矜持です。


 でもこれが市民ランナーにまで当てはまるのかというと私はそうは思いません。学生スポーツにおいても同じです。学生スポーツもレベルが上がれば、上がるほど結果がすべての世界になります。洛南高校在籍の3年間はまさにそうでしたし、箱根駅伝なんかも大学からすればビジネスです。選手はそのビジネスの片棒担いでるから、良い待遇が得られるのです。


 でも、本当に趣味として走っている方や将来のある学生に対しては、レース結果がどうであれ、全ての進歩は進歩としてとらえるべきだと思います。そのようにして、一年一年出来ることが増えていけば、レースでの結果も良くなるはずですし、仮にならなかったとしても、やはり出来る練習が増えていくということ自体が進歩だと捉えられるべきだと私は考えています。


 私はレースでの結果が悪かったからやってきたことの全てが悪かったとは思ってほしくないです。


長距離走・マラソンがもっと速くなりたい方、長距離走・マラソンについてもっと学びたい方へ

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筆者紹介

​ウェルビーイング株式会社代表取締役

池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

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