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ランナーが犯しがちな二つの過ち

更新日:2021年11月19日

 こんにちは、ウェルビーイングの池上です。


 あなたはブラッド・ハドソンというアメリカの有名なコーチをご存じですか?コーチハドソンはデイサン・リッツェンハイン(マラソン2:07:47、オリンピック出場二回)、ジェームス・カーニー(2008年アメリカハーフマラソンチャンピオン)などなど多くのエリートランナーを育て上げたコーチです。私の周りでいえば、2018年に一緒にデュッセルドルフマラソンを一緒に走ったベネズエラ代表のルイスさんがコーチハドソンの指導を受ける現役選手です。


 コーチハドソンは、非常に速い段階からトレーニングに興味を持ち、10歳前後くらいからトレーニングに関するあらゆる本を読みこみ、13歳になるころには大学のほとんどの指導者よりもトレーニングに関する知識を持っていたといういわば、アメリカ版池上秀志です。もしくは、私が和製ブラッド・ハドソンです。年齢的には私が和製ブラッド・ハドソンという方が正しいでしょう。


 まあ、そんな冗談は置いておいて、コーチハドソンの経歴はとてもユニークなものです。彼は早くから頭角を現し、ジュニア期にはアメリカ記録を更新するほどの選手でした。ところが大学を卒業して、10年間のプロ生活で残せた記録はマラソンで2時間13分というものでした。奇しくもこのタイムも私と同じです(このまま終わるつもりはありませんが)。


 ハドソンにとって、この記録は全く満足できるものではありませんでした。コーチハドソンは自分で自分のことを次のように分析していました。



「私はプロ生活で二つの過ちを常に犯していた。1つ目は常にオーバートレーニングと故障を繰り返してしまったことだ。そして、2つ目の過ちは他人のトレーニングプログラムを真似しすぎたことだ。私はこの二つの過ちを継続的に犯してしまい、せっかくの周囲からの良きアドバイスに耳を傾けることが出来なかった」



 そんなハドソンはある日あることに気づきます。それは彼は長距離走・マラソンそのものよりも自分はトレーニングに興味があるということでした。その事実は彼が選手よりも指導者に向いていることを示唆していました。そして、残念ながら私も同じで、この一年間市民ランナーの方々の指導に当たってみて、前から思っていた通り指導者に向いていることが白日の下にさらされました。


 これは私にとって非常に残念なことであり、きっとハドソンにとってもそれは残酷な事実だったに違いありません。しかしながら、私と同様、他の選手の手助けをすることがこの上ない喜びでもあるコーチハドソンは指導者になる道を歩み始めました。その心の中には一つの誓いがありました。


「絶対に自分と同じ過ちを選手にさせまい」と


そんなコーチハドソンの現役時代の経験から導き出された彼のトレーニングに対する原理原則が、「アダプティブランニング」です。アダブティブとはAdaptの形容詞のadaptiveです。Adaptとは適応するという意味です。何のことを言っているかというと、トレーニング刺激に適応するということです。


 トレーニング刺激に適応するというのはどういう意味かというと、例えば、12kmのテンポ走を行うとします。初めは1キロ3分15秒ペースでやっていたのが、同じ感覚で走っているのに3分10秒くらいで走れるようになったとします。これはタイムトライアルという意味ではありません。そうではなく、同じ感覚=主観的強度で走っているのに1キロ当たり5秒速く走れるようになるのです。これをトレーニング刺激に対して適応したと言います。


 同様に、400m20本のインターバルが平均70秒でしか行けなかったのが、68秒でいけるようになれば、これもトレーニング刺激に適応したということです。この際も条件は同様で、同じ感覚で走っていればの話です。


 そして、こういった一回一回のトレーニング刺激に対して、適応することによってレース結果が向上します。これが適応するということです。


 これと似て非なる考えが、練習すれば速くなるという考え方です。練習しても速くなるとは限りません。練習して、それに体が適応して初めて速くなるのです。これがコーチハドソンの重視する点です。要するに、トレーニングについて勉強するのは良いけれど、それをやってトレーニング刺激に対して適応しなければ意味がないということです。


 では、トレーニングをしても意味がないのか?というとそういう話ではありません。練習には意味があるのです。ただ、その練習に適応するかどうかはまた別の話です。よく「これだけ練習したのに結果が出なかった」という声を聞きますが、実はそんなことは日常茶飯事です。そして、最終的にはその練習に適応するかどうかは、やってみないと分かりません。


 勿論、トレーニングの原理原則を学ぶことで、かなり正確に自分に合った練習計画を立てられるようにはなります。ノープランで練習することとは全く違うのです。むしろ、トレーニング刺激に対して適応するために、計画的に練習を遂行していく必要があります。ただし、その上で最終的にはその練習計画の通りにやって体が適応するかどうかはやってみないと分からないということです。


 ここでもう一度コーチハドソンの現役時代の失敗を思い出してみてください。1つ目は、オーバートレーニングと故障を繰り返したということです。そして、2つ目は他人のトレーニングプログラムの真似をしすぎたということです。


 1つ目は、おそらくトレーニング計画に固執しすぎたために起こったことでしょう。トレーニング計画を立てる時、誰もがそれが自分にとってぴったりだと思って立てます。選手を壊そうと思って、練習計画を立てる指導者など、恐らく一人もいません。時にはそのように感じられることもありますが、指導者は指導者で選手に良い結果を出してもらいたいと思って立てる計画です。これは選手自身が自分で計画を立てる時もそうでしょう。


 ただ、その計画通りに練習を進めてみて上手くいくかどうかは、やってみないと分かりません。とはいえ、素人でもなければ全く間違っているということもないでしょう。通常は、おおむねうまくいくんだけど、やっぱり完ぺきではないから、上手くいかない部分も出てきます。その小さなずれが積み重なって故障したり、オーバートレーニングに結びつきます。そして、これは小さなずれの積み重ねによって起こるので、本人も気づかないのです。


 この反省点として、コーチハドソンは体の反応を見ながら、トレーニング計画は柔軟に変更する必要があると説いています。要するに、体がトレーニング刺激に適応するのを確認しながら、トレーニングを進めるべきで、体がトレーニング刺激に対して適応していないのであれば、修正しながら行う必要があるということです。予定していたトレーニングを全て消化することが必ずしもベストだとは限らないのです。


 このトレーニング刺激と適応について考える時に大切なのが、トレーニングの強度と自分の器との関係性です。ここでは、トレーニングの強度を水の量だと考えてください。そして、器とは自分がこれまでやってきたトレーニング歴のことです。例えば、ここでAとBという二人のランナーがいて、二人とも2週間ほど休養を取っており、二人とも同じ日から徐々に練習を始めたとしましょう。


 ところが、Aは一年前に8週間続けてコンスタントに週に約200km走っていました。そして、Bはこれまで走った最大の週間走行距離は150kmです。そして、インターバルはAはすでに過去2年間、コンスタントに1000m10本を2分55秒でやっているのに対し、Bは人生で一番良かった時に一度だけ1000m10本を3分ちょうどでやっただけだとします。


 そうすると、同じタイミングでAとBが少しずつ、トレーニングを積み上げていくとします。基礎練習から徐々に徐々にトレーニングをステップアップしていきます。一見、二人とも無理をせずに、少しずつ少しずつ練習を積み重ねていき、スマートに練習しているように見えます。しかしながら、かなりの確率で、どこかのタイミングでBは不適応を引き起こします。何故なら、Bの方が器が小さいからです。このような理由から、徐々に徐々にトレーニングをステップアップさせたからと言って、不適応を引き起こさないとは限らないのです。


 BがAに追いつくには、かつてのAがそうしたように、シーズンからシーズン、今年よりも来年、来年よりも再来年と長期目線で積み重ねていく必要があります。そして、通常はレベルが上がれば、上がるほどさらなるステップアップするのは難しいので、Bの方が伸びしろは大きくAに近い将来追いつく可能性は大いにあります。


 2つ目の他人のトレーニングプログラムを真似しすぎないことですが、これは一人一人微妙に体は違うからです。勿論、あなたがチンパンジーでない限りは、大体私と体の構造は同じで、従ってトレーニングの原理原則は同じなのですが、やっぱり微妙に違うということです。一番わかりやすいのは、一人として同じ顔の人間はいないということです。双子でさえも微妙に顔は違います。だから、トレーニングに対する反応も微妙に違うのは当たり前のことです。


 その一方で、人間なのにチンパンジーと間違えられるという顔の人もいないでしょう。それと同じで、基本的には全員トレーニング刺激に対して、同じ反応を示すのだけど、恋人の顔と他の女(もしくは男)の顔を間違えたら、ビンタされるでしょう。それと同じで、自分の体と他人の体があるトレーニングプログラムに対して同じ反応を示すと思ったら、陸上の女神にビンタされることになります。


 コーチハドソンはシェイン・カルペッパーとアラン・カルペッパー夫妻の話を挙げていました。シェインさんの方は5000mのランナーで非常に優れたスピードを持っていました。そして、アランさんの方は完全に持久型でマラソンランナーでした。コーチハドソンは初め、シェインさんの方だけを指導していましたが、シェインさんが結果を出すのを見て、アランさんもシェインさんのプログラムを真似し始めました。しばらくして、アランさんの方は思うような結果を残すことが出来なくなり、まもなくして元のプログラムに戻すことになりました。


 アランさんもシェインさんも同じアメリカのトップランナーです。しかしながら、シェインさんとアランさんではタイプが違ったので、上手くいきませんでした。結局のところ、違うタイプの人間に同じトレーニングをさせても同じように適応するとは限らないということです。


 ただし、何度も書きますが、あなたがチンパンジーでない限り、原理原則は同じなのです。したがって、コーチハドソンも微妙にアプローチは変えるのですが、同じ距離において、同じ目標を持つ選手の練習は最終的に全く同じか、ほとんど同じ練習になるべきだと考えています。


 これは究極的には、レースで何をすべきかを考えると分かりやすいです。10000m28分20秒は10000m28分20秒で、それ以外の何かではありません。勿論、その中にもイーブンペースでいく方法もあれば、初めは遅めに入って、後半上げる方法もあれば、前半から突っ込んでいって、後半ペースダウンしながらも粘る方法もあれば、ペースを上げ下げしながら、28分20秒で走る方法もあれば、色々なやり方があるので、若干違うと言えば、若干違います。でも、10000m28分20秒というのは、10000m28分20秒なので、レースが近づけば近づくほど、練習は似通ってくることになります。


 ちなみに、最後にレースに向けて状態を仕上げていくうえでの、コーチハドソンの特徴を挙げておくと、それはシャープニングしないということです。勿論、狙ったレースの日にピークを持っていく努力はするのですが、シャープニングはしません。シャープニングとは通常は走行距離を減らしていく、メインとなる練習でも、短い距離を速く走るような練習を取り入れていく方法です。


 同じアメリカのレジェンドともいえる指導者ジョー・ヴィヒルはシャープニングの大ファンです。しかし、コーチハドソンはマラソンランナーがレース前に400m20本をすることは、400mのランナーがレース前に20マイル走をするようなものだと言っています。後者がばかげたことだということは分かっているのに、何故か前者がばかげたことであることは分かってもらえないとのことでした。


 ちなみに私自身の経験から言えば、レース前に短い距離を速く走ることの全てを否定するつもりはありません。それでうまく言ったパターンもあります。何より、持久型の私にとっては、レース前にレースペースよりも速く走っておくと、心理的なアドバンテージが得られるとともに動き的にも余裕が出ます。


 その一方で、レースペースよりも遅いペースのインターバルで仕上げていったことも同じくらいあります。その両方を試してみた結果、どちらが上手くいくかはケースバイケースですが、レースペースよりも速く走ると上手くタイミングを合わせないとレース当日はバネがなくなり、かえって走れなくなります。


 ちなみにコーチハドソンはレースペースより速くでもなく、遅くでもなく、目標とするレースペースでやるのですが、私はこのやり方は非常に好きです。何故なら、心理的にも技術的にも準備が出来たと感じるからです。


 さて、今回はコーチハドソンのランナーが犯しがちな2つの過ちをお届けしてきましたが、実は私の経験上ランナーがトレーニングにおいて犯しがちな過ちはあと6つあります。コーチハドソンの2つと合わせて、この8つの過ちをほとんどのランナーが犯しています。ほとんどの方がこのことに気づいていません。


 例えていえば、こういうことです。最近調子が悪い、集中できない、疲れがとれない、俺ももう年かなと思っていたけど、睡眠時間を1時間増やすだけで体調や集中力が格段に上がった、自分では普通だと思ってたけど、実は慢性的な睡眠不足だったんだ、調子が悪いのが普通になってしまって、睡眠不足に気づかなかったんだという状態です。


 この私が提唱するトレーニングにおける6つの過ちはほとんどの人が気づいていませんし、ランニングクラブの指導者や先輩ランナーも例えば、実業団上がりでしかも本人は才能で走ってきたわけではないというタイプでもない限り指摘するのは難しいです。この6つの過ちについては、今回のブログではかなり長くなってしまったので、「警告!これを読まずに練習を続けないで!巷のランニング教室では絶対に教えてくれない長距離走・マラソンが速くなるためのたった3つのポイント」という小冊子で解説させて頂きたいと思います。


 今すぐ下記のURLよりダウンロードしてください。完全無料であなたのお手元にお届けさせて頂きます。




筆者紹介

​ウェルビーイング株式会社代表取締役

池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

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