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成長のコツ

皆さん、こんばんは!

 

 先日からウェルビーイングオンラインスクールの受講生様からたくさんの自己ベスト報告を頂いておりますが、本日は人間の成長というものを考えるヒントとなった書籍からの引用をさせて頂きたいと思います。

 

 あなたは広岡達郎という方をご存知でしょうか?

 

 この方は元々は読売ジャイアンツに遊撃手として入団されるといきなり打率三割をマークして新人王を獲得し、来日する大リーガーたちをして「日本一の遊撃手」と言わしめた方です。

 

 先日吉田義男さんがお亡くなりになられてニュースにもなりましたが、吉田さんが今牛若丸の異名を取り、日本一の遊撃手との呼び声が高い中で、来日する大リーガーたちは広岡さんの名前を多く挙げたそうです。大リーガーが言うから正しいということもないのでしょうけれど、その理由としては広岡さんの方が堅実だからという理由であったそうです。

 

 そんな広岡さんですが、後に読売ジャイアンツを日本選手権九連覇へと導く川上哲治監督との確執を経て、ジャイアンツの指導者の道は絶たれ、広島カープのコーチを皮切りに、ヤクルトスワローズの監督として球団を初優勝へと導かれ、西鉄ライオンズからクラウンライターライオンズから身売りされたばかりでまだ弱小であった西武ライオンズも4年間で3回のリーグ優勝へと導かれています。

 

 そんな卓越した指導力を発揮された広岡さんですが、人を育つということを広島カープのコーチ時代に苑田聡彦さんという方に教えられたそうです。

 

 以下広岡さんの著書『監督論』から引用させて頂きます。

 

「教育は人を育てられるということを私は広島のカープ時代に確信した。

 

 それも選手からヒントをもらい教えられたのである。

 

 選手は内野手の苑田聡彦である。

 

 私は、当時の根本陸夫監督からコーチをやらないかと招聘された。

 

 巨人をやめ、アメリカを廻り、評論家となっていた4年目のことだった。

 

「ヒロよ、この連中を一人前にしてくれ」

 

 根本がそう言って指名したのが苑田や井上弘昭、西本和明、三村敏之だった。手っ取り早く言えば、素人同然の選手をあてがわれたのである。

 

 その時の苑田は、パッティングに見るべきものがあり、肩もよかった。

 

 しかし、フィールディングはとてもプロと呼べるものではなかった。動きは緩慢、打球に対しての入り方は高く低くバラバラ、全体に流れがなく、一言で表せば大雑把な内野手だったのだ。

 

 私とて初めてのコーチである。教える自信があるわけでない。

 

 それでも、まずは柔らかく低く捕球体制に入っていくことから手をつけた。

 

 手でボールを転がした。ノックバットで打球を打つ以前のことだ。

 

 来る日も来る日も同じことの繰り返しである。

 

 彼に浴びせる言葉は「とにかく、やれ」、「手を抜かずにやれ」だった。当時の私はそれぐらいの言葉しか持ち合わせていなかった。苑田は一生懸命についてきた。目に見える結果は出ない。私は何度かサジを投げ出そうと思ったかしれない。

 

 1シーズンが過ぎた頃だ。私は根本監督に申し出た。

 

「どうにもならんですわ」

 

 根本は簡単な言葉を返してきた。

 

「ヒロよ。お前さんとの契約は1年残っている。引き続いてやってくれ」

 

 そのうち、どうにか捕球から送球への流れがスムーズになってきた。それも、ときたまだ。

 

 更に日を重ねるとボールを待つ体勢から捕球へのタイミングを掴んできた。ボールを処理する地点へスーッと入れるようになったのである。あとの動きの流れも途切れない。

 

 ここまでくれば、しめたものだ。

 

 そんな折、私は苑田とそれまでのことを振り返るような会話を交わした。

 

「苑田、今と前とでは変化を感じるか」

 

「感じます」

 

「なんで上手くなったか分かるか」

 

「それが分からないんです。無我夢中で一生懸命やっただけなんです」

 

「そうだよな、これからも理屈はいいから、つまらんことを考えずに繰り返し繰り返しやることだよな」

 

 その後は苑田は内野手のレギュラーポジションを取ることが出来た」

(引用終了)

 

 この本を読んだのは私がまだ高校生の頃です。その時からなんとなく、理屈は良いからとにかくやってみることの重要性というものがスッと私の中に入ってきたのですが、コーチになってから改めて思うに、苑田選手の守備が上達した要因に誰にでも出来ることをひたすら繰り返したということが関係しているのではないかと思います。

 

 手で転がしたボールくらい私だって取れます。私だって取れますが、その誰でも出来ることを誰よりも完璧にするというところに要点があったように私は思います。

 

 簡単には出来ないことに挑戦させるというのも一つかもしれませんが、私の経験上、小さな成功体験でも良いから積み重ねないとなかなか体が新しいことを学習しないんです。

 

 私が小さな成功体験というのは自転車に乗れるようになるとか、一文でも良いから英語が聞き取れるようになるとか、わずか1000字でも良いからパソコンを使ったことが無かった人がパソコンで打てるようになるとかそういうことです。

 

 ここを一個確立してしまわないと、出来ないことをやり続けてもなかなかできるようにはならないと私は思っています。

 

 ちなみに、私自身で言えば、これを英語学習ではっきりと体感しました。聞き取れない英文を繰り返し聞いたっていつまでたっても聞き取れるようになりません。

 

 でも、歌詞が全て分かっている一曲を300回ひたすら聞き続けたら英文が聞き取れるようになってきたのです。

 

 要は、歌詞カードがある訳ですから、初めから一応歌詞は分かる訳です。歌詞は分かるけど、初めからはっきりと聞き取れる訳ではありません。でも、歌詞カードがあるのでなんとかついていけます。これを300回繰り返したら、その聞き取りの度合いがどんどんと上がってきて、初めて聞く英語も少しずつ聞き取れるようになっていったのです。

 

 人の成長はここにあるのではないか、少なくとも野球や語学学習のように身体の動きや感覚器官の発達を伴うものについてはこの要素が大きいように思います。

 

 じゃあ、長距離走・マラソンだとどうなるのかということですが、とりあえず走るということ自体は五体満足であれば、誰でも出来ます。ただ、走ること自体は皆で来てもどのくらいの距離をどのくらいの速さで走れるかは人それぞれです。

 

 そこで私が目をつけたのは、その人にとって反復できる距離と速さはどの程度のものなのかということです。

 

 その人が毎日でも反復できる強度の上限は中強度中量です。ということは、基本的には練習は中強度走と低強度走と低強度から中強度走の3つを軸に組むべきだということです。

 

 実は私、一時期毎日毎日同じ練習をやるという実験をしたことがあるのですが、それだとやっぱりなかなか走力が向上しなかったです。やっぱり、ある程度質の強弱と量の多少をつけることが大切であることも分かりました。毎日同じという訳にはいかないのです。

 

 つまり、さすがに毎日中強度の持久走では走力が向上しませんでした。

 

 適度に低強度な持久走も入れながら、量にも多少をつけることで、走力が向上しました。これはリディア―ドが著書の中で「同じマラソンコンディショントレーニングでも短く速くとゆっくり長くを組み合わせた方が良い」と書いているのと同じことだと思います。

 

 彼も実験した結果としてそうなったのでしょう。

 

 そして、私は苑田選手が上達した要素の二つ目にやはり広岡さんの存在があると思います。手で転がしたボールを取るくらい、繰り返しになりますが、私でも出来ます。プロの選手ならなおさらできます。誰でも出来るが故により正しい動きとそうじゃない動きの違いが分かりづらいです。

 

 それに広岡さんが今のは良かったとかそうじゃないとかフィードバックを与えたことが良かったのではないかと思います。まあ、広岡さんは「今のは良かった」とはいちいち言わなかったようですが、ダメなときはけちょんけちょんにこきおろしたそうですから、選手は「今のは悪い動きだ」というのが分かりやすかったのでしょう。

 

 そういう風にフィードバックを得ながらやることが大切だと思います。

 

 では、長距離走・マラソンにおいては誰がフィードバックをくれるのかということですが、自分の体です。正しい練習が出来ていれば、だいたい4週間から8週間程度で今までと同じ感覚で走っても中強度の持久走の速度が上がるはずです。

 

 あるいは今までと同じ感覚で走れる距離を伸ばせるでしょう。あるいは今までと同じペースで同じ距離を走ると今までよりも楽に走れるようになるはずです。

 

 長距離走・マラソンについては比較的コーチが見ていなくてもやれるスポーツだと私は思っています。技術よりも実際に楽になったか否かの方が大切だからです。

 

 三点目に、選手と指導者の両方が信じたということが大きいと思います。信じるといっても、初めは半信半疑だと思います。ここでいう信じるというのは仮定と言い換えても良いと思います。

 

 とにかく出来るものであると仮定してやってみるのです。とにかく出来るもんだと思い込むんです。これを信じられる人と信じられない人がいる訳です。

 

 じゃあ、信じられない人にはどうすれば良いのかということですが、それが裏付けや根拠を提示するということです。運動生理学はそういう点においては有効です。私は別に運動生理学はいらないと思っています。

 

 でも、ある程度理性が発達して来たら、根拠もないのに信じるなんてことは出来なくなりますし、それは人間として正しい発達の仕方です。こういう時には、運動生理学的な根拠も提示することで信じられるようになると思います。信じてやれば結果が出ます。

 

 苑田選手の例で言えば、1年間成果が目に見えて現れなかったわけですが、最後はそれが目に見えて現れた訳です。

 

 ここで考えて頂きたいのですが、1年間出来もしないことをずっとやり続ける人と少しずつでも良いから成功体験を積み重ねる人の差です。成功体験というのは繰り返しになりますが、レースで良い結果を出す事じゃないです。同じ感覚で走る中強度の持久走のタイムが1㎞あたり5秒速くなったとか、今までの10㎞走の感覚で12㎞走れるようになったとかそういうことです。

 

 この積み重ねでレース結果は大きく伸びるのに対し、レースばっかり出ていたり、レースに近い練習ばっかりやっているとなかなか走力が伸びないのです。もちろん、そういう練習も必要ではあります。

 

 苑田選手だって一年間ボールを手で転がして手で取るという練習ばっかりやっていた訳ではないでしょう。ただ、比率としては人を成長させるのはそういう練習じゃないかということです。

 

 また、そういう練習は迷った時にいつでも戻ってこれる練習としても有効です。

 

 一度体が仕上がり、レースで良い走りができる状態が整えば、あとはジョギングでレース刺激に近い実戦的な練習だけでもある程度の期間は状態を維持できます。ですが、そういった中で状態が落ちてきたり、調子を崩したり、あるいはいくら頑張っても以前にこなせていたようなインターバルが出来なくなって来たりすることがあります。

 

 こういう時にしばらく高強度な練習から遠ざかって中強度の持久走ばかりやっていると体が戻ってきます。こういった使い分けも必要ではないかと私は思います。

 

 参考になりますと幸いです。

 

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筆者紹介

​ウェルビーイング株式会社代表取締役

池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

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