世の中には様々な映画監督がいるが、興行収入が高いということと映画監督の評価は必ずしも一致しない。寧ろ、「映画の良さが分からない素人はハリウッド映画でも見とけ」という言い方をする映画評論家もいるくらいだ。優れた映画監督はジム・ジャームッシュ監督やヴィム・ヴェンダース監督のように日常の中に美しい映像となんとも言えない情感を溶け込ませて、観る人の心を掴む。ほとんどの人は人生の中でも『インディ・ジョーンズ』のような大冒険をしたり、『ウルフ・オブ・ウォール・ストリート』のような破天荒な人生を送ったり、はたまた『ルワンダの涙』や『硫黄島からの手紙』のように歴史的・政治的な急変期に立ち会う訳でもない。
そんな中で、日常生活の中にアクセントをつけられる映画監督が優れた映画監督だ。なぜなら、誰の日常生活の中にもそのようなアクセントは確かに存在するからだ。例えば、家の前の公園に元10000m日本記録保持者が現れて「一緒に走らないか」と誘われたり。
村山絋太さんとジョギングを
こんにちは、池上です!今は競技者としては休養期を取りながら、サイトのリニューアルをしたり、メルマガ登録者に半年間無料ブログが届くようなオートメーションメールを設定したり、本物の「ウルフ・オブ・ウォール・ストリート」のオンライン講座で勉強をしたり、そんな日々を過ごしています。あなたはいかがお過ごしでしょうか?
昨日もパソコン仕事疲れで夕方走りに外に出て、軽く走って家の前の公園でストレッチをしているところに元10000m日本記録保持者の村山絋太さんが現れました。何度かお見かけしていたので、この日も挨拶をさせていただいたのですが、なんと一緒に走らせていただけることになったので、しばらく色々な話をさせて頂きました。
村山鉱太さんのプロフィールは下記のURLよりご覧ください。
そもそもなぜ村山さんが私のことをご存知なのかというのは私もよく分かりません。初めて、村山さんが私のことを知ってくださっているということに気づいたのは、2018年のハイテクハーフマラソンの時です。この日は前半は向かい風がきつく、このレースはサイラス・ジュイさんやその年10000mで29分半のタイムをマークし、このレースの2ヶ月後にも5000mで14分ちょうどの記録をマークする吉里駿君らが出ていたので、私も序盤は前に出るリスクは取りませんでした。
それでもあまりにもペースが遅かったので、7kmから前に出て折り返してからは追い風に乗って後半の10kmは当時の10000mの自己ベストよりも速い29分33秒で上がって優勝したレースです。そのコース上に絋太さんがいらっしゃって、「あっ」と思ったその刹那目が合い、絋太さんが「あっ池上や」とぽつっとこぼされたのが聞こえました。「なんで俺のこと知ってんのやろ」と思いながら、そのまま会釈をして走り続けたのが、最初の接触です。
どこまでブログに書いて良いのかも分からないので、結論だけを書かせていただくのですが、村山さんと色々お話しさせて頂いて、改めて二つのことを思いました。
一つ目は、やっぱり一流選手も結果が出るときと出ない時というのはそう大きな差がある訳ではないんだなということです。やるべきことを積み重ねていかないと結果は出せない、これは間違いありません。やることもやらないで幸運に恵まれることを祈るだけの人間に良い結果は訪れません。
でも、そもそもの話をすると、人間は神様ではないので、その時々で「やるべきこと」がそこまで明確にわかっている訳ではありません。もちろん、実業団の選手ともなれば、素人ではありません。色々なことを知っていますし、経験もあります。そうであっても生身の体に合わせて、ケースバケースで対処していくことを考えれば、これまでの経験が役に立たない時もあります。そうやってやっていくとレースでやってきた以上のことが出せたと思う時もあれば、半分も出せないこともあります。
そうすると、外野から見ていて「あの選手全然ダメじゃないか」と思っていても、本人は好調の時とやっていることはそう大きくは変わっていないので、なおさら悩む原因になっていったりするものです。
私自身の経験から言えば、ハーフマラソンで初めて63分台をマークする前の夏には10000mで31分9秒、5000mで15分16秒というタイムを出しています。もちろん、全力で走った上でのタイムです。マラソンで2時間13分を出す前の夏も10000mで31分22秒という記録を叩き出しています。もちろん、全力で走った上でのタイムです。高校2年生の京都府駅伝4区で区間賞を獲るわずか1ヶ月前には5000mで15分32秒というタイムを出しています。
他の選手で言えば、Lani Rutto選手がフランクフルトマラソンで2時間6分34秒の好タイムで二番に入る5ヶ月前のボルダー・ボウルダーでは10kmで30分50秒もかかっています。いくら標高が1600mとは言え、Laniさんにとっては遅すぎます。そもそもLaniさんは標高3000mの街で育った選手です。
安藤有香さんが初マラソンを2時間21分36秒の好タイムで走る半年前の国体5000mでは確か16分39秒とかそのくらいかかっています。
もちろん、厳密には走れる時と走れない時というのはなんらかの差があるのでしょう。ただ、それはたいていの場合は、何か大きな1つの原因があるのではありません。小さな複数 の原因が大きな差を生み出すので、本人もよく分からないのです。貧血とか故障というのは苦しいけれど、原因がはっきりしている分、その苦しみと向き合えます。そういう意味では楽です。ただ、自分でも何なのか分からないものと対峙する苦しみはまた別の種類の苦しみです。
そして、そういう時に限って、外野からは「気持ちが入ってない」とか「あいつは変わった」とかそういう声が入ってくることになるので、そういうのに慣れていない人はそれも原因で塞ぎ込むようになっていきます。これは有名選手ほどそうでしょう。
ちなみに様々な原因がある中で答えは難しいのですが、結局のところ「しっかりと食べて、しっかりと寝て、有酸素ランニング中心の練習にする」という基礎中の基礎のところに戻っていくとなんとなく状態が良くなっていくことは多いです。ケースバイケースなので、なんとも言えないのですが・・・
ただ、このように原因がよく分からない不調に陥っている時も、選手はやるべきことをやっていないかというと、厳密にはやれていないのでしょうが、少なくとも本人は取り組み方を大きくは変えていません。人間のやることですから、心理的なものもあるでしょうが、だからと言って、著しくモチベーションが落ちていたりするかというとそうとも限らないのです。少なくとも私自身はそうでした。
それで、結果が出ると、また周囲の人間は手のひらを返して賞賛をくれたりもするのですが、別にやってきたことはそう変えていません。不調の時もコツコツと積み重ねてきたことが目に見える結果となって現れただけのことです。もちろん、走れるようになったのには、それなりの理由はあります。ただ、その因果関係の全てが明確にわかっているのかと言われると、神様ではないので、そこまで明確に全てわかっている訳ではありません。そもそも、分かっているのか、わかっていないのかもわかりません。答え合わせのしようがないのです。
ここから言えることは二つです。
1つ目は、例え一時的に結果の出ない時期があっても自分のやってきたことの全てを否定する必要はないし、そこで歩みを止めるともったいないということです。また、リスクとリターンの関係性を理解した上で、自分が求める結果とリスクのバランスみたいなものをある程度頭に入れるべきだとも思います。基本的には成長には自分の現状の少し外側に踏み出すような練習も必要なのですが、それが今までやったことのない練習であればあるほど、結果が出なくなるリスクも大きくなります。一流選手の場合は、個人としての限界がそもそも人間としての限界にどんどん近づいていくので、初心者よりも伸び悩みが大きくなってきます。
ですから、私の集中講義の受講生の方も3時間台よりも4時間台、3時間前半の人よりも3時間後半の人、2時間台よりも3時間台の人の方がタイムを縮めていくのは速いです。ただ、実業団や箱根駅伝に出るレベルと比べるとはるかに低いので、私にとってはサブエガ達成者くらいまでは簡単に出せるなという感覚ではあります。
2つ目は、結果が出ないからといって自分のやってきたことを全否定する必要はないけれど、そうはいってもがむしゃらに努力しても結果に繋がる訳ではないということです。何をもって努力というのかも難しいところですが、肉体的な努力だけでは不十分で、自分のかけた単位コストあたりの成果が最大化するような努力の仕方を考えていかないといけないということです。
ちなみにそう考えた時に、質の高い練習が大切、量より質だという人が出てくるのですが、必ずしもそうとは限りません。そもそも、がむしゃらに質だけを伸ばしていくという考え方自体が、がむしゃらな努力です。もっと複合的な要素が絡み合っているので、全体を整えつつ、個々の要素にもアプローチしていく必要があります。
あとは絋太さんと話していて思ったのは、やっぱり日本の実業団選手ってシーズンオフを設けないんだなということでした。これもいろいろな考え方があるでしょうし、一概にどのやり方が良いとも言えないのですが、ヨーロッパやアフリカの選手と比べると日本の選手は早熟かつ引退が早いという傾向があります。そして、その原因のほとんどはモチベーションの低下と体が動かなくなっていくことです。この二つは連動しているとは思います。
思うように体が動かなくなていくと、大体の選手が「自分ももう若くないな」と思う訳ですが、その年齢がまだ20代だったりする訳です。よほどの不摂生でもしない限りは20代で体が衰えるということはありません。中にはお金も学生時代よりはあるし、色々な実業団の寮もそれなりに都心部にあって、電車を使えば大都市に出られなくもないという状況で覚えなくても良い遊びを覚える人もいるのはいます。ただ、慢性疲労なのではないかという気はしなくもないです。
慢性疲労というのは言い過ぎかもしれませんが、体は常に刺激にさらされると、不適応を引き起こします。例えば、シベリア抑留やアウシュヴィッツのような極限状況でも、死に至るまでに数ヶ月はかかります。要するに、そこまでの極限状況でも体が完全な不適応、つまりは死に至るまでには数ヶ月かかるという訳です。これが意味するところは、「今までは大丈夫だったから、これから先も大丈夫とは限らない」ということです。最近読んでいた本にある経営者が「私はほとんど眠らずに、休みも取らずに働き続けることができた。救急車に運ばれるまでは」という一文がありましたが、まさにそういうことです。これまで自分はそうしてきたからといって、必ずしもそれが正しい判断だとは限りません。
そもそも、長距離走やマラソンのトレーニングは過酷ではありますが、死に至るほどではありません。その一方で、求められるレベルは高くなります。ただ単に死ななければ良いというレベルではないのです。そうやって考えた時に死ぬほどの刺激ではないから本人も気づかないんだけれど、ぬるま湯でカエルを茹でるように気づかないうちに慢性的な疲労状態が普通になっていって走れなくなるというのはあるのではないかなと思います。
市民ランナーの方も休養期と追い込む時期を明確に分けることのメリットは大きいと思います。理由の一つは休む時期を作った方が本当に追い込む時にできる練習の負荷が大きくなるからです。私はよくプロ野球のピッチャーに例えるのですが、なぜ今では全ての球団がローテーションシステムを取り入れて、先発、中継ぎ、抑えと分業制を使うのかというと、中3日よりも中5日、9回を投げるよりも1回の方が発揮できるパフォーマンスが高いからです。人間の体というのは短時間、もしくは短期間の方が発揮できるパフォーマンスは高くなります。長距離走は継続が大切なので、走り続けるメリットは大きいのですが、その中にも強弱をつけた方が良いということです。
さて、今回は絋太さんとの会話の中から私が思ったことを書いてみました。絋太さんもまだ現役の選手なので、どこまで書いて良いかもわからず、鉱太さんの生の声はお届けしていませんが、今回のブログの内容から推察していただけると幸いです。
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