top of page

ロバート・ド・キャステラ選手のトレーニング

「立命館宇治高校には行かない方が良い。立命館宇治高校の選手の多くが2年生までがピークで大学、実業団で活躍できるのはごく一部」

「駒澤大学出身の選手で実業団にいって伸びた選手はほんのわずか」

「名城大学にいった選手でそのあと伸びた選手はほとんどいない」

「日本人選手のトップシェイプは2年しか続かない。彼らの練習は多すぎる」


 それが事実であれ、主観的な偏見であれ、現場ではこの類の声が頻繁に上がっています。上記は私が耳にしたほんの一部であり、他にも同様の意見はいたるところで言われているのでしょう。ここには陸上競技、特に長距離走がもつ重大な問題をはらんでいます。これは私の個人的な意見ですが、スポーツではトップに立ち続けるのは難しく、その中でも比較的消耗品の種目とそうではない種目があるように感じます。


 例えば、顕著なのは野球の投手と野手の違いでしょう。野手は実力さえあれば、年間100試合以上に出場して、それを何年も続けられる選手は少なくありません。一方で投手の場合は、年間100試合以上9イニング投げられる選手などこれまでおらず、分業制が確立される以前は、年間300イニング、400イニングと投げる投手もいましたが、数年で肩を壊して再起不能となるケースが後を絶ちませんでした。


 長距離走、マラソンもトップレベルの選手ははっきりいって多かれ少なかれ消耗品と言えるような気がします。それはたくさん走るからではありません。たくさん走ることは一般に思われているほど体に負担がかかりません。しかしながら、質の高い練習をたくさんこなすことはホルモン系、内臓系に負担をかけ、なかなか体の状態が上がってこないのです。人間の体というのは、長期にわたって発揮できる力よりも短期にわたって発揮できる力の方が大きいです。


 分かりやすく言えば、受験勉強もそうでしょう。勉強したら、受験に合格する率は上がる、そんなことは誰だって分かります。しかしそうであれば、受験勉強なんかせずに入学したその日から勉強を頑張れば良い話です。しかし、実際にはなかなかそれが出来ないのが人間で、やはり3年間通して頑張れる勉強量よりも、数か月間だけ頑張れる勉強量の方が高くなります。


 スポーツの場合は、これに物理的な制約が加わるのでなおさらです。筋肉、靱帯、腱、骨、神経系統、心臓、肺、などは全て物質です。人間の場合は気持ちの問題で良くもなれば、悪くもなりますが、やはり物理的な制約=限界があるのも事実です。本来は良い状態というのは長続きするものではないので、適度に緩めることも必要です。しかしながら、その加減が難しいのも事実です。


 冒頭で3つ挙げた強豪校の中で、筆者にとって一番身近なのは立命館宇治高校です。立命館宇治高校を一から育て上げた荻野先生には色々なお話をして頂きました。そして、客観的に言えば、立命館宇治高校は高校時代においてはかなり強いにもかかわらず大学、実業団で活躍する選手が少ないのは事実ではあります。数十年の中で、沼田未知さん、小島一恵さん、竹中理沙さん、青木奈波さん、池内彩乃さん、菅野七虹さんなど限られた選手のみであることは事実です。もう少しさかのぼると千葉真子さんもそうです。


 確かに同じ京都府出身のものとして第一回大会から一度も京都府代表の座を譲らず全国高校駅伝で何度も入賞し、インターハイ選手も何人も出していることを考えると物足りないのかもしれませんし、1年生、2年生で活躍しても3年生になると駄目になる選手が多いのも事実です。一言で言えば、もういっぱいいっぱいなんでしょう。でも、いっぱいいっぱいやるから強くなるのも事実です。他人のことを非難するのは簡単ですが、いざ強い選手を育ててみろと言われてそう簡単に育てられるものではありません。たとえ人生の一時でも輝く瞬間があった選手は幸せなのではないでしょうか?


 しかし、その一方で、高校、大学時代にそれだけの実力があるなら、そのあと更に大きな花を咲かせてほしいというのが周囲の願いであり、多くの場合、本人の願いでもあります。出来れば、長く活躍したいのは当然です。これは無理なのでしょうか?そんな一見無理に思える問題を解決したのがオーストラリアのロバート・ド・キャステラ選手です。キャステラ選手は1979年に2時間13分でオーストラリア選手権に優勝すると、1991年にもサブテンするなど12年間にわたって世界のトップに立ち続けました。その間、2時間8分18秒の世界最高記録を含む11回2時間10分前後の記録をマークしています。


 その秘訣は練習の継続性にあると彼は語ります。キャステラ選手は14歳の時にパット・クロヘッシーに師事すると現役時代を通して、ずっと同じコーチの下で競技を続けました。そのことが、その年齢に応じて段階的にトレーニングを発展させることを可能にしました。またロバート・ド・キャステラ選手は年間を通してほとんど同じトレーニングプログラムを続けました。このことにより、朝起きて今日は何をしようかと悩む必要はなく、また継続的に同じ練習をすることで精神的にも肉体的にも準備が出来ており、また故障のリスクやオーバートレーニングのリスクを限りなく減らすことが出来ました。


 やはり人間が故障やオーバートレーニングのリスクを背負うのは新しい刺激を体にかけることです。これは私がよく色々なところで書いているのですが、マラソンを走るのが速いからと言って日常生活でも体力があるとは限りません。農作業をすれば、おじいさん、おばあさんが平気でこなすことも私がやれば筋肉痛になる可能性は大いにあります。それは私の体にとっては、農作業は新しい刺激だからです。


 新しい刺激をかけていくことで体が強くなっていくというのも事実ですが、故障やオーバートレーニングのリスクが高まるのもまた事実です。しかし、だからといってロバート・ド・キャステラ選手の練習が単調であったわけではありません。寧ろ、様々な刺激を一週間の中にバランスよく組み込んでいました。実はキャステラ選手はニュージーランドの名指導者アーサー・リディア―ドの影響を間接的に受けていました。というのも、コーチのパッとがアーサー・リディア―ドの影響を強く受けていたからです。


 アーサー・リディア―ドがトレーニングの期分けを明確に行ったのに対し、キャステラ選手は期分けを行うのではなく、一週間の中にリディア―ドが期分けすることによって違う時期に行っていた練習を詰め込んだのです。それによって、継続可能な形で期分けを行わなくとも、様々な刺激を体にかけることが出来るようにしました。


「1%の追い込みすぎよりも10%のやり無さすぎの方が良い」


 そのように語るキャステラ選手ですが、初めからそのようなスタイルだったわけではありません。コーチパットのもと週80キロの練習を継続的に取り組んだジュニア期から、大人になるにつれて練習量を徐々に増やし、一時期は週に240キロの練習量まで増やしました。しかしながら、この量は多すぎるという結論になり、最終的に週200キロ前後に落ち着きました。ちなみにこの数字は、私自身の実験結果にも一致します。大学二回生までは週に250キロ、最大で週に300キロの練習量にも取り組んだ結果、最終的に週に200キロ前後が私にとってはベストな練習量でした。市民ランナーとなった現在はもう少し少ないです。


 またキャステラ選手は一度にやる練習も400m40本などの練習もやった結果、もっと少ない練習を継続した方が良いということに気づいたそうです。そのようにして、一回一回の練習の負荷も徐々に下げていき、キャステラ選手にとっての適切なところを見つけることが出来ました。ここで注目していただきたいことは、キャステラ選手も練習量を増やしたり、減らしたり、負荷を上げたり下げたりしながら自分にとっての最適なところを見つけていったことです。実際に、キャステラ選手は「週に200キロ前後の練習量が必要だ」と語っており、徒に少なければ良い、余裕をもってやれば良いとは一言も言っていません。


 キャステラ選手はピーキングという概念をそれほど重視しておらず、年間通して継続的に同じような練習を故障なく続けることにより多くの重点を置いています。これは川内優輝さんにも通ずるところであります。確かに、ある程度のレベルに到達すればあとはコンディショニング的な練習を継続していけば、タイミングがあれば良い記録が出るのは事実です。しかしながら、我々一般人からすると、その「ある程度のレベル」に到達するのに苦労している訳であり、私はやはり鍛える練習とレースで結果を出すための練習を連続的につないでいき、ピーキングを行うことが「私のようないわゆる平均的な選手」には必要だと思います。


 しかし、やはり故障なく練習を続けていくということに勝ることはないので、私のように故障やオーバートレーニングを何度も繰り返している選手はキャステラ選手から学ぶことは多くあります。キャステラ選手によると、キャリアの中で故障で練習が出来なかったのは合計で10日程度だそうです。これはトップレベルの長距離走・マラソン選手の中では突出した数字だと言えるでしょう。


 最後に、キャステラ選手が自身で分析した成功した3つの要素を紹介しましょう。1つ目は、身体が大きくて丈夫なこと(ウェイトトレーニングはしていない)、2つ目に13年間かけて段階的に質と量を徐々に増やしたこと、3つ目に素質がなかったこと、走り始めた時はごくごく普通の選手だったことが練習を継続するモチベーションになったとのことです。そして、故障しない秘訣に関しては、心肺機能を常に上回る骨格筋の強さをもつことだと述べています。要するに、距離を踏むこと、ヒルトレーニングに取り組むことで、接地の衝撃に耐えられる筋力、靱帯、腱をまずは作ることだということです。


 このことは私の経験とも一致しています。まずは走る距離を伸ばした方が体の回復も早く、故障の率も少ないです。やはり距離を踏まずにスピードトレーニングをガンガンやると故障しやすいですし、疲れも抜けにくくなってしまいます。まずは低強度でも良いので、走る距離を増やすことが大切だと経験から感じています。


 最後にロバート・ド・キャステラ選手の具体的な一週間のプログラムを知りたい方へ。ロバート・ド・キャステラ選手の一週間の具体的なトレーニングプログラムをたった500円で販売しています。ご希望の方は、こちらをクリックしてお受け取りください。


 アーサー・リディア―ドのトレーニングシステムについて知りたい方には「アーサー・リディア―ドのトレーニング」という無料ブログをご用意しております。この記事を読んで「非常に分かりやすく、よくまとまっている」とコメントを頂き、ウェル―イングオンラインスクールにお申し込みしてくださった方もいる自信の無料ブログです。こちらをクリックして、お読みください。

閲覧数:256回0件のコメント

Comments


筆者紹介

​ウェルビーイング株式会社代表取締役

池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

bottom of page