サージのススメ

 今回の記事ではサージという練習を紹介させていただきます。以前メルマガで「最もローリスクハイリターンな練習」について紹介させていただきました。こちらはブログでは公開しておらず、メルマガ登録者限定情報なのですが、下記のURLよりご確認いただけます。

https://www.ikegamihideyuki.com/so/74NVjW2tU?languageTag=en


 今回紹介させていただくサージという練習は私の中では二番目にローリスクハイリターンな練習です。このサージという言葉実は私もあまり聞いたことがありません。そして、サージという言葉を使っていないけれど、私がこのブログ内でサージという言葉で指示している練習をしている選手は多々あります。実はこのサージという練習は中学、高校の強豪校が多く取り入れています。


 私が知っている限りでいえば、現在コニカミノルタの西池和人さん擁する須磨学園や故小出義男監督が見ていたころの市立船橋高校、そして京都にはのちに西脇工業高校、中央大学のエースとしてご活躍された新庄翔太さん(この3月でホンダ陸上競技部を引退)、現コニカミノルタの川端千都、現ダイハツの久馬姉妹を擁した綾部中学もサージを取り入れていたと聞いたことがあります。


 そして、私の故郷亀岡市はだいだい名馬の産地でワコールの樋口紀子さん、積水化学人見麻友さん、佛教大学小川智香さん、JAL難波祐樹さん、コニカミノルタ中井祥太さん、大阪ガス広瀬大貴さん、などなどわずか人口9万人の町からのちに日本選手権入賞者、箱根駅伝区間賞獲得者などなどがたくさん出ている町です。


 当然、田舎町なので中学卒業後は京都の高校に行ったり、大学、実業団では男子は関東方面を中心に色々なところに散らばっていくのですが、中学校の段階での強化段階ではこの亀岡の中学生の長距離の礎を築かれたのは神先宏彰先生です。現在亀岡の中学校の長距離の指導に当たっておられる方もほとんどが神先先生の薫陶を受けた方です。ちなみに私の恩師でもあるのですが、「最もローリスクハイリターンな練習」とともにこのサージが多かったなという印象です。


 都道府県対抗女子駅伝は京都が最も優勝回数が多く、華やかに活躍する京都の女子とは裏腹に全国高校駅伝も都道府県対抗男子駅伝も10番台にしかなれなかった我々男子はいつも肩身の狭い思いをしていたのですが、その京都の女子チームの中学生の強化にもあたり、女子駅伝黎明期を支えたのも神先先生です。今では、亀岡市の教育委員長になられています。


 さて、少々遠回りしましたが、ではこのサージという練習何なのかということですが、そもそもは英語のSurgeという単語から来ており、意味は急上昇です。その名の通り、最後の1キロを一気にペースアップするのがサージです。ビルドアップ走とどう違うのかということですが、厳密な違いはありません。


 ただ、印象としてはビルドアップ走の場合は徐々にペースを上げていき、また練習の位置づけとしてもハードな練習の位置づけとして行うことがほとんどです。一方で、サージという練習の位置づけは普通の練習です。つなぎの練習ということもあるのですが、休養でもなく、ハードな練習でもない練習として使うことが多いです。


 そして、ペースは徐々に上げていくというよりはきつく無いペースでずーと走っていき、本当に最後の1キロだけ一気に上げるのがサージです。多分イメージしてもらいやすい説明でいえば、服装で説明すると分かりやすいと思います。本当にハードな練習としてやるときは、ランパンにTシャツとかでやると思います。場所もトラックにいったり、車の来ない道路に行ったり、ウォーミングアップも3-4キロは走ると思います。

 

 一方で、サージの方はちょっと軽くウォーミングアップをしてスタート、もしくはウォーミングアップがてら走り始めます。服装もちょっと軽めの恰好が多く、この季節であればロングタイツや短パン、軽めのジャージ、上は長そでTシャツか軽めのウインドブレーカーという感じの服装で、練習もいつものコースで最後の1キロだけ、きちんと集中して走れる場所を選ぶというイメージです。勿論、どんな格好で、どんな場所で走っていただいても良いのですが、なんとなくイメージはしやすいと思います。ガチの練習ではないけど、重たいウインドブレーカーを着てやる練習ではありませんし、街中で信号のあるところでやる練習でもありません。


 ちなみにケニアに行った時も、このサージをしょっちゅうやっていました。イージーランとか言われながら、大体サージなんです。だから、本当に気を抜いてちんたらジョギングできる日というのは午後のジョギングか、日曜日の完全休養くらいでした。


 では、何故中学、高校の強豪校が取り入れるのかということですが、いくつか理由があると思います。先ず一つ目は中学、高校までは結構グランドをぐるぐる走ったりとか、学校の周りをグルグル回る方式が多く、またチーム単位での練習なので、競争相手もいて結構面白いです。飽きないんですね。そして、中学、高校までは走る距離もそれほど多くなく、また授業の関係で一回にとれる練習時間も短いです。毎日追い込みすぎても嫌になるけど、ある程度限られた時間の中で負荷をかけていかないと強くはなれない、でもまだまだ体も成長過程にあるので、そんなに強い負荷もかけられない、その辺のバランスを考えたときにサージに落ち着いていくのかなと思っています。


 先述したとおり、毎日毎日サージをやっている訳ではなく、普通は落とし(軽め)の日があって、ハードな練習の日があって、それ以外の日にサージをやるという使い方が多いです。ただ、朝からサージをやって午後もインターバルをやったりするモーレツなチームもあります。ただ、これはこれで利点があって、朝、午後とある程度負荷をかけることで、体の回復能力が速くなります。回復能力が速くなるので、より負荷をかけた練習をしてもオーバートレーニングになりにくくなったりします。


 また、変則版サージということで、持久走の後軽くジョギングを挟んで一キロ一本を取り入れるというやり方のチームもありますし、私自身もこのやり方を取り入れることが多いです。使い方としては、スピード練習の前日に最後の一キロだけ、もしくは追加で一キロ一本しっかりとペースを上げて終わると、次の日の練習につながり、そして気持ちよく終わることが出来ます。


 後は技術面での利点もあるのかなと思います。長距離走というのは厳密にレースと同じ動きをする比率は全体の走行距離の3%-10%程度です。中学生だと全体の走行距離が少ないため、強豪校の子はもう少し割合が多いかもしれませんが、エリートランナーは基本的に5%程度です。そうすると、野球選手が一回一回のバットスイングでほぼゲームと同じスイングをしているのと比べると、だいぶ割合としては少ないわけです。


 これが悪いという訳ではなく、リスクとリターンの関係性から長距離走・マラソントレーニングというのはだいたいこのくらいの割合に落ち着いていきます。これは何故と聞かれても答えられません。多くの指導者や選手が試行錯誤した結果、この辺の数字に落ち着くのです。ですが、サージを取り入れることで、ハードな練習とは別にレースの動きを体で覚えることが出来ます。しかも、例えば中学生の場合は3000mがメインのレースになりますが、そうすると、サージを取り入れると頻繁にレースの3分の1をレースペースに近い動きで走ることになるわけです。このあたりが、中学、高校の強豪校が多く取り入れる理由かなと思います。

 

 大学、実業団となると体もしっかりとしてきて、ハードな練習一回でしっかりと質も量もこなしていくので、それ以外の日はある程度練習を落としてメリハリをつけていく必要もあるのかもしれません。ただ、ケニアではサージを多用していました。人によって練習の仕方が違うのは言うまでもないのですが、全体の印象としては日本の選手はハードな練習かジョギングかの二択しかなくて、そのジョギングで距離を稼いでいるイメージです。


 一方で、ケニアの選手はハードな日以外の練習では12-16kmしか走らず、午後は8km-10kmしか走らず一部練習も多いですが、朝の練習はサージが中心となります。


 話が色々なところに行ったのですが、このサージという練習は市民ランナーの方にはかなりおすすめの練習です。理由はいくつかあるのですが、まず第一に市民ランナーの方もランニングを生活の中心にドンと置くことはできないので、状況としては中学生、高校生と同じで、短期間で、でもあまり負荷をかけずに走力アップを目指すことになります。


 この観点から考えたときに、最後の1キロをペースアップするんだけど、全部ペースアップするわけではなく、またスタートからゴールまで集中して走れる環境、軽い服装で走る必要もなく手軽に取り入れられて、負荷はかけるけど、そこまで疲れるわけではないし、ウォーミングアップがてら走り始めれば、少々疲れていても走りながらリズムをつかんで最後だけペースを上げれば良いので、仕事のある日も取り入れやすい、というメリットがあります。


 ちなみにもう一つ言えば、このサージでの最後の1キロはそこまでタイムにこだわる必要はありません。全中で優勝したり、インターハイで上位に入るような選手でも、時には最後の一キロを全力で行っても3分20秒かかるようなこともあります(女子)。


 また、ケニアでは最後の一キロが全力というよりは最後の一キロからペースが上がって、最後は本当にスプリントという感じで、最後の一キロの中でも最後の最後に向かってペースが上がっていきました。そんな感じで、色々な使い方が出来ますので、是非ご自身の生活リズムや練習の流れに応じて取り入れてみてください。


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