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パレオダイエット=反糖質摂取ではない理由

 突然ですが、あなたはパレオダイエットという言葉を聞いたことがありますか?


 パレオダイエットというのは、原始時代の食生活が正しいとする一つの考え方で、10年くらい前から少しずつ流行っている食事法です。


 パレオダイエットという言葉を聞いたことがない方も、炭水化物を食べると太るということは聞いたことがある方は多いのではないでしょうか?


 このあたりを全て一括りにするわけにはいかず、様々な主張がある中でということにはなってしまうのですが、炭水化物制限と言えばパレオダイエット、パレオダイエットと言えば炭水化物制限という印象は強いです。


 私の中で一番印象に残っているのは、沖縄マラソンに仕事で行った時に、原始人のコスプレをした団体さんがいらっしゃって、しかもその時私と一緒にいた人と親しく話し始めたので、聞いてみたらパレオダイエットの団体さんだったことでした。


 パレオダイエットの主張の根拠は人類はその歴史の大半を狩猟採集の生活をしており、農耕生活が始まったのはせいぜいこの1万年だということです。先日リリースさせて頂いた拙著『長距離走・マラソンの為の栄養学』の中では、人類の歴史は約400万年と書かせて頂いているのですが、これはアウストラロピテクスくらいからの人類で、ホモサピエンスとしては約30万年です。


 農耕社会が始まったのがいつ頃なのかということも諸説あり、だいたい一万年前と言われていますが、日本ではだいたい4世紀ごろだと言われています。どの数字を採用するかにもよりますが、ホモサピエンス誕生から約1万年前に米作が始まったと考えても、約29万年間は狩猟採集の生活をしており、炭水化物らしい炭水化物はあまり摂取していませんでした。


 だからこそ、現代社会のような炭水化物中心の生活は体に良くないというのが大まかなパレオダイエットの主張です。まあ、炭水化物中心の生活は体に良くないとまでは言っていないかもしれませんが、パレオダイエットの方が体に良いという主張です。


 ところが、実はパレオダイエットを本当の意味で実践している人はほとんどいません。多くの人がパレオダイエット=反糖質食のことだと思っていますが、実はそんなに単純な話ではないのです。


 このことを説明する前に、ホモサピエンスの時代の人類がどのような生活をしていたのか、文化人類学者たちの意見を紐解いてみましょう。


 先ず、共通して言えるのは、我々人類の祖先はアフリカ大陸で誕生したということです。その頃、人類はアフリカ大陸の平原でコヨーテ、アンテロープ、シマウマ、野牛などの野生動物を捕まえてそれを食べていたそうです。


 しかし、人間よりも走るのが速く、体も大きい獲物をどのようにして捕まえていたのでしょうか?


 言うまでもなく銃火器類の無い時代の話です。


 これも諸説あり、罠を作っていたとか、集団である一つの場所に追い込み、追い込んだら上から大きな石を落として仕留めたなどの説があります。


 しかしながら、何と言っても我々ランナーを興奮させるのは、ダニエル・リーバーマン博士が主張している持久狩猟説です。持久狩猟と言うのは、野生の動物を追い立て、相手が力尽きてしまうまで、追いかける狩猟方法です。


 こうやって、文字にすると非常に簡単なように思えます。特に、現代のような軽量のランニングウェアとミムラボのシューズさえあれば、ものの3時間もしないうちに牛を捕まえることが出来るでしょう。鹿のように山や谷を縦横無尽に駆け回る動物ならともかく、アフリカの平原ならば簡単なように思えます。


 しかし、実際にはそうならないようです。何故ならば、これらの野生動物は群れで生活しており、一頭を追い立てても、上手く群れの中に紛れ込み、個体を識別することが出来なくなるからです。


 敵もなかなかのもので、こちらの戦略を見抜き、交代で逃げ回り、一頭が疲れ切らないようにするようです。


 それでも、南アフリカのカラハリブッシュマンは今でもこの持久狩猟が出来るようです。この一族では高度な狩猟技術を要し、相手の足跡から個体を識別し、足跡から相手の疲労の度合いまで見抜くそうです。また、動物の心が読めるらしく、だいたいこういう時、相手は何を考え、次はどのような行動をするのかということが分かるそうです。


 このように書くと、神秘的に思えるかもしれませんが、文字通り相手の心が読める訳ではなく、スポーツの世界で場数を踏んでいくと、こういう時に相手がどういうことを考えるのか、何を狙っているのか、何をされたら嫌なのかということが分かってくるのと同じです。


 要するに、ここで一気に差を詰めてこられたら嫌なのか、それとも一定の距離を保ちつつ追われ続けるのが嫌なのか、相手はここで休みたがっているのかということが分かるようになるそうです。


 また、相手が苦しい時は、だいたいこちらも苦しい訳ですから、エースは最後まで温存しておくそうです。一番走力のある人は後ろに配置し、前半は後ろについて力を温存し、またドロップアウトしていく人はドロップアウトする時に、水をエースに渡していくそうです。そして、勝負所でエースを投入し、その動物が疲れて立てなくなるまで追い立てるそうです。


 そして、捕獲した獲物はその集落の人全員で分け合います。このように考えると、当時は村全員の食がエースにかかっていた訳ですから、エースはさぞモテたことでしょう。我々も運が良ければ、その頃のDNAの影響で走るのが速いとモテるかもしれません。


 さて、それはさておき、罠を使うにしろ、集団で一つの場所に追い込むにしろ、持久狩猟をするにしろ、この頃から高度な戦術(推論)と協調性が求められるようになりました。つまり、目の前にいる動物に対して反射的に追いかけるとか攻撃するというアプローチでは上手くいかないので、未来のことまで予想して、必要に応じて役割分担もして、戦略的に物事を進める必要が出てきました。


 このことによって、我々の脳は発達したそうです。そのように考えると、私程度の頭脳でもサルよりは賢いのは、ホモサピエンスになってからの約30万年間の人類の進化のおかげかもしれません。


 話を食事に戻すと、当時の人類にとって獲物を捕まえるというのは、このくらいの一大イベントだったのです。


あなたは週に何回くらい高強度な練習をするでしょうか?


 現代社会では、高強度な練習をしなくても安定的に食べるものが供給されます。この前私は米30キロを買いましたが、なんとたったの1万円です。アルバイトでも10時間働けば買える価格です。30キロあれば、どんなに食いしん坊でも1か月はもつでしょう。普通なら3か月くらいはもつのではないでしょうか?


 しかし、当時は我々の高強度な練習くらいの負荷のことをやって、やっと食べ物が手に入ったのです。しかもそこまでしても安定的に食べ物が手に入る訳ではありません。狩りに出かけても食べ物が手に入らないこともあります。また、集落の規模によってはたくさんの女子供、老人を養わないといけません。


 そんな訳で、パレオダイエットというのは、毎日お腹いっぱい焼き肉を食べるような食生活ではなく、狩りに出かけて獲物が手に入れば、それをみんなで分け合って食べて、獲物が手に入らなければ、次の獲物が手に入るまで断食状態で、木の実や野生の植物をすこし食べていたというそういう時代なのです。


 また、忘れてはいけないのは、野生の動物と市販されている安価な肉では全然品質が違うということです。野生の動物は太陽の光をしっかりと浴びて、縦横無尽に山野を駆け巡り、天然水を飲んで、野生の草を食べています。


一方で、スーパーなどで市販されている安価な肉は、生涯太陽の光を浴びることも出来ず、身動きも取れないくらいぎゅうぎゅう詰めにされて、糞尿は一生垂れ流し、しかもそれが自分だけではなく、何万頭の糞尿です。


 エサは、人間が食べないような飼料米、飼料トウモロコシ、飼料大豆、もっと悪い場合は解体された仲間の(つまり牛や豚や鶏の)粉です。商品として出荷できない箇所を粉砕してふりかけのようにするのです。想像してみて下さい。もしも、あなたの一日三食のご飯が人間の骨や肉を細かく砕いたものなら?


 そして、当然そのような飼育環境では、病気が多発しますから、そうならないように抗生物質を投与します。そうして作られた家畜が最終的に私たちの口に入ります。これだけの記述だけでも気分が悪くなられた方もいらっしゃると思いますが、結局最終的にそれが我々の口に入るのです。


 原始時代も一応調理はしていたようです。つまり、火を使っていたそうです。火を使いだしてくどのくらい経つのかということも諸説あります。約50万年前と主張する学者の方もいますし、ハーヴァード大学の文化人類学者リチャード・ラングハムによるとおよそ200万年だそうです。


 しかし、調味料はどうしていたのでしょうか?


 これは私は勉強不足なので分かりません。分かりませんが、一つ確実に言えることは当時はまだ乳化剤や安定剤、PH調整剤などの化学物質はなかったということです。つまり、我々が今日使っている焼肉のたれとは違うということです。


 つまり、厳密なパレオダイエットに従うのであれば、グラスフェッドの牛肉や日本ならシカやイノシシなどのジビエ肉を調理したものを適度に食べながらも(ただし、調味料は使わない、)頻繁に断食し、お腹が減ったら旬の野菜や果物を少々口にする程度の食事をするということになります。


 結構味気ない食生活だと思うのですが、いかがでしょうか?


パレオダイエットの長所と短所

 私が本記事の中で執筆したかったことは、パレオダイエットの否定ではありません。どんなものでも自分に合うようにアレンジすれば良いことは言うまでもないことなので、パレオダイエットも本当に忠実に原始時代の人たちと同じ食生活をする必要はありません。


 その一方で、主張したいのは、パレオダイエットとは反炭水化物で収まるような単純なものではないということです。パレオダイエットで一番重要なことは、原始時代の人間は低品質な肉や乳製品、様々な種類の化学調味料などの反栄養素をほとんど摂取していないということです。


 また、断食には一定の解毒作用があります。つまり、体の中の老廃物などを体外に排出し、体を綺麗にしてくれる作用があるのです。今日、平均的な日本人の食生活をしていれば、体内では絶え間なく炎症反応が起きています。


しかし、断食している間は少なくとも体内で炎症反応を起こす反栄養素は摂取しませんし、また消化吸収していない間は炎症反応の処理が活発になります。


 古来から治らないとされていた病気や関節炎、腰痛などが断食で治ったとするケースが何例も報告されていますが、これも断食が炎症反応の除去に役立つからでしょう。


 また、同時に主張したいのは、原始時代の人は好き好んでそういう食生活をしていた訳ではなく、仕方なくそういう食生活をしていたということです。何故ならば、農耕技術がまだなかったからです。


 農業技術が発達すると食料を保存できるようになりますし、安定供給が可能になりました。だからこそ、人類は農業を発展させてきたのでしょう。つまり、原始時代の人がそうしていたからと言って、必ずしもそれがベストであるとは限らないということです。


 原始時代には、文字通り食べていくのに精いっぱいで今日の我々のように文化や芸術を発展させたり、スポーツを楽しむ余裕はありませんでした。特に長距離走、マラソンというのはその性質上、グリコーゲンの貯蔵量は多い方が有利なスポーツなのです。持久狩猟と長距離走、マラソンはまた別物です。


 原始時代はそれが1500mであれ、フルマラソンであれ、ある決められた距離を全力で走るということはしませんでした。常に余力を残しながら走らないと、晩御飯を捕まえた後に、自分が晩御飯になりかねません。根本的に求められるものが違います。


 やはり、炭水化物を食べたら太るとか炭水化物は悪いと決めつけるのは、少し行き過ぎた考え方ではないかなと思います。実際問題、炭水化物を(一般人の感覚からすれば)大量に摂取しても引き締まった体の人は私の周囲に結構いますし、私もそのうちの一人です。


 また、食生活を考えるうえで、我々が持っている遺伝子に注意を払うべきは当然なのですが、日本人の場合は1500年くらい米中心の食生活でしたから、これに遺伝子も適応していっています。決して、炭水化物だから悪いとは言えず、問われるべきはどのような炭水化物を摂取すれば良いのかということでしょう。


 先日リリースさせて頂いた拙著『長距離走・マラソンの為の栄養学』早速多くの方にご購入いただき、本当に感謝しております。中には一人で10部ご購入して下さり、周りの方に配って下さっている方もいらっしゃいます。


 残り50部となりましたので、まだ詳細をご確認いただいていない方は今すぐこちらをクリックして、詳細をご確認ください。

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筆者紹介

​ウェルビーイング株式会社代表取締役

池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

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