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余裕を持った練習の効用

 本日のテーマは私が選手として、指導者として経験が長くなってくる中で、一つ気づいたというか思ったことなのですが、段々余裕をもって練習させると言っている指導者の言っていることがなんとなくは分かるようになってきました。

 余裕をもって練習させるって考えてみれば変な話というか、結構微妙な話です。

 例えば、京都府高校駅伝で洛南高校に勝って全国高校駅伝に出場しようと思うと並大抵の努力では無理です。

 また、洛南高校に入学したとして、洛南高校の中で試合に出ようと思えば、並大抵の努力ではないです。

 人より良い結果を残したければ、基本的には人よりも努力するしかない、でも余裕をもって練習することの重要性を説く指導者の方の言っていることも段々と分かるようになってきました。

 この微妙な話が分かると、皆様のお役にも立てるのではないかなと思ったので、共有させて頂きます。

 先ずこういう話は前提がどこにあるのかというところから、始めるべきだと思います。

 要は、普段は鬼みたいな上司がたまには息抜きも大切だよというのと、普段からいい加減で、隙さえあれば仕事をさぼっている上司がたまには息抜きは大切だよというのは違いますよね?

 では、余裕をもって練習することが大切ということの前提はどこにあるのかということですが、やっぱり基本的には段階を踏んで練習の負荷を増やしていかないといけません。

 では、その中で余裕をもって練習することにはどういうメリットがあるのかということですが、以下の項目があげられます。

・そもそも理想に向かって練習する以上は、練習で思い描く数字も高くなりがち

・プラスマイナスで考えた時に、若干で良いから余裕を持たせることで故障やオーバートレーニングのリスクは大きく減る一方で、トレーニング効果はあまり変わらない

・一人で練習する人にとっては、試合を基準に考えるとやや余裕をもたせないと再現性に欠ける

・より力を抜いた動きを身につけやすい

・試合の感覚を掴みやすい

 だいたいこの5つかなと思います。順番にもう少し詳しく解説していきましょう。

 先ず1番目ですが、例えば私は現在ハーフマラソンで63分18秒を目標にずっと練習してきました。

 ただ、やっぱり起業してからはプロ時代のように練習と休養に全集中することは出来ていないですし、起業後の自己ベストは66分08秒なので、やはり目標自体が少し高めと言って良いと思います。

 そこを基準に練習を組んでしまうと、どうしてもいっぱいいっぱいになりがちですし、最悪の場合、インターバルの本数を減らさざるを得なくなったりもしますし、あとはインターバルの一回の疾走距離も伸ばしにくいです。

 二つ目は、運動生理学ともかかわりがある話なのですが、中長距離走の基本性能は活動筋(走る時に使われている筋肉)内でどれだけ効率よく酸素を使ってエネルギーを生み出すことが出来るかによって決まります。

 そして、この能力を高めるにあたっては、そもそも普通はインターバルのペースが速いので、そこからやや余裕を持たせたところで、トレーニング効果はそれほど変わらないのです。

 例えば、頭の中でどんどんペースを上げていって、どのあたりからインターバルにしたいかと考えてみて下さい。今の私の場合は1キロ3分10秒くらいが一つの基準になるかなと思います。

 多分中強度走をする時って、1キロあたり10秒とかペースが変わってもそんなに主観的強度って変わらないと思います。低強度走だとなおさらでしょう。

 実際のところ、私の場合は1キロ3分50秒ペースで20キロ走するのも、1キロ3分40秒で20キロ走するのも練習効果はそんなに大きくは変わらないです。そして、主観的強度もそれほど変わりません。

 ただ、それが2分55秒と3分ちょうどだと全然違います。主観的強度も実際にこなせる練習内容も大きく変わるでしょう。

 ただ、私が1キロ2分55秒で走る時と、1キロ3分ペースで走る際に体内で起きている現象には大きな違いはないと思います。酸素を使って活動筋内で生み出しているエネルギーの量はほとんど変わらないでしょう。

 それでも、レースになれば10キロ走ってコンマ差とか数秒差で勝敗が分かれる訳ですから、実際には大きな違いを生みます。

 ただ、練習を積み重ねるということを考えた場合には、着実に積み重ねることは一回だけの素晴らしい練習を上回るので、そこのバランスをどう考えるかです。

 三つ目は、市民ランナーの方は全員分かって頂けると思うのですが、例えばレースで5キロを20分ちょうどで走るとします。この時、練習で1人で同じことをやるのって結構厳しくないですか?

 もちろん、だからインターバルにして休息を挟んでいく訳ですが、それでも同じ感覚ではなかなか1キロ4分ペースで走れないと思います。

 そうすると、自己ベストや目標タイムを基準にトレーニングを組むとどうしても再現性に欠けるということが起こります。練習をしてその刺激に対して、体が適応するかどうかの一つの大きな要素は反復性です。

 同じ練習でも何度も反復するとそれに体が適応する度合いが上がり、走力が向上するということはよくあることです。もちろん、その練習に対して100%適応した後は停滞が起こります。

 四つ目は説明するまでもないでしょう。1キロあたり1秒、2秒にこだわって力んで力を入れるよりは、多少ペースが遅くても良いから力を抜いてスムーズに走る方が正しい走技術を身につけることが出来ます。

 そして、本当に力を上手く抜くことが出来れば、かえってそちらの方が速く走れます。これに関しては、当時の世界歴代2位の2時間9分5秒をマークされた宗茂さんが著書の中にこんなことを書いておられます。

 現役時代から力を抜くことの重要性はとてもご理解されていたようなのですが、現役を引退して、社内の同好会の人たちも走る駅伝大会に出場した時のことです。

 距離は3キロだったのですが、久しぶりの3キロのレースで3キロという距離における力の抜き方を忘れてしまっていたようで、走り出してすぐに「ヤバイ!力んでいる」と思ったそうです。

 しかし、3キロという短い距離の中で修正することが出来ずに、記録は8分50秒。翌年は、前年の反省を活かして、力を抜いて走れるよう準備したところ、しっかりと力を抜くことが出来て、1年のブランクがあるにも関わらず、8分30秒をマークしたとのことでした。

 ちなみに、現役時代のハーフマラソンの自己ベストはマラソンの通過だそうで、距離が長いと思うと余裕をもっていこうと力が抜けたそうですが、ハーフマラソンになると距離が短いから前半から飛ばしていこうとどうしても力が抜けなかったそうです。

 力を抜くというのも突き詰めていくと物凄く難しい技術です。私も17年走っていますが、やっぱり上手く走れる時とそうではない時はあります。疲労を抜くとかたまりバネを作るというのも、力を抜いても前に進む状態を作る状態を作るという意味合いも強いように思います。

 話を元に戻しますが、1キロ当たり3秒くらい遅くても良いから力が抜けている方が良いとは思います。特に、一人で練習している市民ランナーの方はレースになれば、同じ感覚で走っても1キロ3-5秒くらいは速くなります。

 最後の試合の感覚を掴みやすいというのは逆を考えた方が分かりやすいのですが、どうしても一回の疾走区間を短くしたり、休息時間を長く取ってしまうと、試合では使えない体の使い方になりがちです。

 自分が選手として考えれば、試合をイメージしてやれば良いだけの話なのですが、指導者目線で言えば、必ず試合では使えない走りになってしまう選手が一定数出てしまいます。

 要は、距離が短いから力んでしまうんですよ。あるいは力んでいなかったとしても、ギアが変わるんです。

 誰しも1500mのレースでの体の使い方(走り方)と5000mのレースでの体の使い方(走り方)は違うじゃないですか。

 ただ、あまりにも速く走ることに重点を置きすぎると5000mの為のトレーニングなのに、1500mのギアで走るとか、マラソンの為のトレーニングなのに5キロレースのギアで走るとか、そういうことが起きてしまいます。

 それなら、多少ペースは遅くても良いから、試合と同じ感覚(ギア)で走るのも一つじゃないかということです。

 今回私がこのテーマを選んだ理由としては、市民ランナーの方=一人で練習している方ならではの問題点として「出来ないからやらない」をなくした方が良いのではないかと思っているからです。

 仕事もある、家庭もある、一人で練習しないといけない、こういった中でベストを尽くせないのはある意味当然だと私は思っています。

 ただ、その中でも前に進み続けるということを考えた時に、一応やるっていう考え方も必要だと思っています。

 例えば、5キロを17分半で走りたい、その為に1キロ5本を1分休息で3分半でやりたい、でも出来ないとなった時に、とりあえず3分35秒でも良いからやってみるというのも一つだと私は思います。

 レースから遠い時期なら、3分40秒から3分30秒で良いから8本やってみるとか、とりあえずそれっぽいことを継続することも大切だと思うんです。

 最近、東山高校生を指導していて特にそう思います。私が洛南高校にいた時と比較したら、なんにも出来ないです。洛南高校の時は入学してくる一番遅い子で3000mが9分半くらいでした。

 3000m9分半だと初めは練習についていくのがかなり辛いです。というか、基本的についていけないです。それが東山高校だと逆に9分半で走れる選手が一人もいない上に、基本的に3000m10分半とかです。

 でも、とりあえずやってるうちに出来ることがどんどん増えてきています。

 市民ランナーの方も同じで、とりあえずやっているうちにどんどん力がついていくケースが大半です。

 一方で、「出来ないからやらない」人はいつまでたっても出来ないので、ちょっともったいないかなと思ったりします。

 最後に、これも重要なのですが、余裕を持たせるのも一つのやり方ですが、でもやっぱりレースペースでの練習も私は必要だと思います。

 例えば、先述の例で5000mを17分半で走りたいなら、やっぱりどこかに1000m3分30秒ペースの練習は欲しいです。そういう場合は、400m15本を200mつなぎで86秒から82秒、平均84秒みたいな練習で、1000m3分半のペースを体に覚えさせるのです。

 1000mのインターバルは3分35秒とかでも構いません。

 それでレースが近づいてきたら、2,3回1000m5本を1分休息で3分30秒で走れればレースでは17分30秒辺りで走れると思います。


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筆者紹介

​ウェルビーイング株式会社代表取締役

池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

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