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実は乳酸性閾値走(LT走)は意味がない理由と根拠

更新日:2月3日

 突然ですが、あなたは世間一般で言われている乳酸性閾値が存在しないということをご存知でしょうか?


 その一歩前からご質問させて頂きましょう。あなたは乳酸性閾値というものをご存知でしょうか?


 今回の記事は乳酸性閾値という概念を知っており、そしてその乳酸性閾値をトレーニングに活用されている、あるいは活用しようと思っている方の為の記事です。


 なぜならば、世間一般で言われている乳酸閾値は存在しないにも関わらず、多くの方がその存在を盲信しており、それがゆえにトレーニングにおいて損をされている方、あるいは本当はもっと効果的なやり方があるのに、それが盲点になってしまっている方がいらっしゃるからです。


 乳酸性閾値という概念を知っており、さらにそれをトレーニングに活用しているという方、特に乳酸性閾値走やLT走と呼ばれるものを実践されている方は特に、最後までこちらの記事をお読みください。


そもそも乳酸性閾値とは何か?

 先ず初めに簡単に、乳酸性閾値と呼ばれているものを説明させて頂きたいと思います。人間は安静時においては乳酸はほとんど生成されていません。それでも、安静時においても血中に存在しない訳ではないのですが、その値は1ミリモル前後です。そして、そこから運動強度を徐々に上げていっても、血中乳酸濃度の値はほぼ変わりません。


 しかし、運動強度に達するとそこから有意に血中乳酸濃度が上昇し始めます。だいたい、血中乳酸濃度2ミリモルを境に有意に血中乳酸濃度が上昇し始めます。この運動強度のことを乳酸性閾値とか、第一乳酸性閾値とか2ミリモルの点とかLT1と呼んだりします。


 そこからさらに運動強度を上げていくと、さらに指数関数的に血中乳酸濃度が上昇し始める点があり、これがだいたい血中乳酸濃度4ミリモルあたりです。これを乳酸性閾値とか、4ミリモルの点とか第二乳酸性閾値とかLT2と呼んだりする訳です。


 さらに、そこから運動強度を上げていくと、遂にはこれ以上血中乳酸濃度が上がらない、限界点に到達します。この限界点には個人差があり、優れた中距離走者ほどこの限界点は高く、場合によっては25ミリモルを計測することもあります。


 しかし、それは非常に優れた中距離走者の場合の話であって、普通は20ミリモルに到達することすら容易ではありません。だいたい、15ミリモル以上20ミリ未満が最大値です。


 もう少し具体的に、ほんの一例として私の例を出していきましょう。


 例えば、歩いている時は時速6㎞くらいだと思いますが、この時血中乳酸濃度は1ミリモルから1.5ミリモルです。速度を倍にして時速12㎞、すなわち1㎞5分ペースまで上げてもまだ1ミリモルから1.5ミリモルくらいです。さらに速度を上げて、時速16㎞、すなわち1㎞3分45秒ペースまで速度を上げてもまだ1ミリモルから1.5ミリモルくらいです。


 ところが、時速17㎞、およそ1㎞3分32秒ペースに到達すると、2ミリモルを超え始めます。つまり、有意に血中乳酸濃度が上昇し始めるのです。さらに、ペースを上げて時速18㎞、すなわち1㎞3分20秒ペースまでペースを上げると4ミリモル前後まで上昇します。


 そこから、さらにペースを上げて時速19㎞までペースを上げるとだいたい6ミリから7ミリモル、さらに時速20kmまで到達すると、もはや30分以内しかその運動強度を維持できず、15ミリモルあたりまで血中乳酸濃度が上昇し、そして15ミリモルあたりに到達した時点で疲労困憊に陥り、それ以上はそのペースを維持できなくなります。


 もしも、血中乳酸濃度が走行速度に比例して上昇するのであれば、時速12㎞で1ミリモルから1.5ミリモル程度であるならば、時速24㎞まで速度を上げても、つまり1km1000m2分30秒ペースまで上げても血中乳酸濃度は2ミリモルから3ミリモル程度に収まるはずですが、実際にはそうではなくて、時速17㎞から時速20㎞までのわずか時速3㎞程度の間に、10倍近くまで上昇するということです。


 どこから指数関数的に血中乳酸濃度が上昇し始めるかはその人の走力によってだいぶ異なりますが、しかし、この走行速度と血中乳酸濃度の関係性自体は万人に共通するのです。


 問題はここからです。では乳酸性閾値とは一体どこのことを指すのでしょうか?


 インターネットや雑誌などいわゆる巷にあふれる情報を見ていると、1時間程度全力で走る際の運動強度において乳酸性閾値に達すると言われています。そして、その際の血中乳酸濃度はおよそ4ミリモルであると。


 私の場合、1時間全力で走った時の運動強度は20㎞レースのレースペース、あるいはハーフマラソンのレースペースです。しかしながら、私の実験結果によると、ハーフマラソンのレースペースではおよそ6ミリモルから7ミリモル程度まで上昇します。


 また、レースで2時間維持できる強度であろうと、3時間維持できる強度であろうと持久力が充分に発達すれば、この強度においても血中乳酸濃度は安静時よりも有意に上昇します。それこそ、フルマラソンのレースペースで血中乳酸濃度は4.0ミリモル、あるいはそれ以上に上昇します。


 それから、乳酸性閾値と呼ばれる強度が二つあることにも着目してください。一つ目の乳酸性閾値はかなり明確な基準があると言って良いでしょう。


 なぜならば、その点から有意に安静時の血中乳酸濃度よりも血中乳酸濃度が上昇するからです。


 では一方で、二個目の乳酸性閾値は一体何を基準にしているのでしょうか?


 実はこれが極めて曖昧なのです。明確な基準というものがなく、乳酸性閾値と呼んでいるのです。もちろん、定義としてはその点を超えると指数関数的に血中乳酸濃度が上昇する点と決まっていますが、1㎞あたり5秒異なればかなりトレーニングの強度が変わる長距離走、マラソンの世界において、この定義は非常に曖昧であり、実践的観点から言えば、厳密に適用することは不可能です。


 また、以上の情報を照らし合わせてみると、インターネット空間や雑誌などのいわゆる巷にあふれる情報が乳酸性閾値の強度として挙げているのは第二の乳酸性閾値の方であることがお分かり頂けるかと思います。


 ここで何が問題点となるのかと言いますと、そもそも曖昧でしかないものを絶対的に信奉し、何がなんでもそこの数字に当てはめようとしていることです。多くの人が思っているような乳酸性閾値というものは存在しないのに、無理やりある数字に当てはめようとし、それよりもペースが遅ければ練習効果がないかのように思い込んでいる人が非常に多いです。


 その結果として、以下のような問題点が生じています。


・練習強度が高すぎて追い込み過ぎになりがち


・練習前の心理的なプレッシャーが大きくなりがち→走ることが好きになりにくい


・もしもいわゆる「閾値走」の強度で走れなかったとき、過度に落ち込み過ぎ。なんなら、今日の練習は意味がなかったと思いがち。


・上記の理由から「この練習で意味がない」と判断すると、途中でやめがち。本当は練習効果があるにも関わらず


・練習量が増やせない。もしも、全力で走った時、レースで走った時に1時間程度持続できる運動強度であるならば、練習ではその半分の30分程度維持するのが適切な負荷と言えると思うが、これではハーフマラソンやフルマラソンのレースに向けて準備する場合には、持久力が不足する要因にもなる。


 こういった問題点があるのが、巷にあふれる情報のいわゆる「乳酸性閾値」なのです。


そもそも乳酸性閾値など存在しない

 ここで理解していただきたいのは、厳密には乳酸性閾値など存在しないことです。そもそも閾値という言葉が意味することは全か無かの法則に従うものです。


 例えば生理学的に言えば、運動神経に流れる電気信号を徐々に強めていくと、ある点に到達した瞬間にその運動神経に繋がる全ての筋繊維が完全に収縮します。そして、その点に到達した後はそれ以上電気信号を強めてもなんの変化も生じません。


 なぜならば、すでにすべての筋繊維がすでに収縮しているからです。


 逆に、その点よりも電気信号が弱ければ、その運動神経に繋がる全ての筋繊維が全く収縮しません。その点より電気信号が強いか弱いかで全ての違いが表れ、その変化は黒か白、0か1、全か無かになるのが閾値と呼ばれる値なのです。


 生理学の世界は分かりにくいかもしれませんが、結婚を考えてもらうと分かりやすいと思います。ある異性と結婚しても良いなと思う時、徐々に徐々にその人に対する好意というものが上昇していったとしても、結婚しても良いと思えなければ籍を入れることにはなりません。


 そして、いったん「結婚しても良い」と思える好意に到達したら、そのあとはそれ以上好意が上昇したところで結果に差は出ません。同じ人間と二回も三回も四回も結婚することは出来ないし、逆に半分だけ結婚するとか4分の1だけ結婚するとかもできません。結婚は結婚するかしないかの二択であり、全か無かの法則に従うのです。


 もしも本気でその異性と結婚したいのであれば、相手の自分に対する好意を結婚閾値を超えるまで上げなければ意味がありません。まさに、0か1かの法則、全か無かの法則に従うのです。


 この観点から言えば、いくら努力しても相手の自分に対する好意を結婚閾値(Marriage Threshold、通称MT)に達するまであげなければ、その努力は無駄であったと言えます。


 これが多くの人が閾値走や乳酸閾値走やLT走と呼ばれるものに対して抱いている観念なのです。


 あるいは辞書をひいてみると閾値とは「ある反応を起こさせる最低の刺激量」であると出てきます。このある反応が無気的代謝を使い始めることであると定義すると、本来乳酸性閾値とは「指数関数的に血中乳酸濃度が上昇し始める点」ではなく、「安静時よりも血中乳酸濃度が上昇し始める点」であるべきです。


 つまり、レースで1時間しか維持できないような強度においては本来的な意味合いにおける乳酸性閾値をはるかに上回るのです。


 閾値というものがないのに、多くの人が閾値だと思っている、あるいは乳酸性閾値というものを仮に定めるのであれば、乳酸性閾値に到達する強度は巷で言われている強度よりもはるかに低い強度である、ここに誤りがあり、そしてその誤りが練習の幅を非常に狭めています。


 実践的観点から言えば、先ず主観的に苦しいと感じ始める点と血中乳酸濃度が上昇し始める点は一致します。私の定義に従えば、中強度走は主観的にきついと感じずに走れる最も速いペースを上限とします。そして、高強度走は主観的にきついと感じる強度です。


 生理学的に言えば、実はこの中強度走と高強度走の境目こそが第一乳酸性閾値なのです。しかしながら、世の中で言われているいわゆる「乳酸性閾値」の方は第二乳酸性閾値です。しかし、くり返しになりますが、この第二乳酸性閾値には明確な基準と言うものがありません。


 もちろん、4ミリモルを明確な基準にすることも可能ですが、何故3ミリモルでもなく、5ミリモルでもなく4ミリモルなのかと問われると誰も答えられないでしょう。


 そしてさらに強度が上がると、練習で継続的に実施するには、さらに言えば一人で継続的に反復することを考えるとインターバルにしないとこなせないという強度が存在します。これは生理学的な観点ではなく、実践的な観点から見たときの話です。


 生理学の世界の話ではなく、この現実世界で実際にこの私が、あるいはあなた自身が継続的に一人で反復する運動強度というものを考えたときに、これ以上強度が上がるとちょっと間に休息を挟んでインターバルにしないと厳しいという強度があります。


 実践的観点から言えば、主観的にきついと感じ始める強度から間に休息を挟んでインターバルにしないと厳しいという強度までが高強度走の範囲内であり、この範囲内であれば、安静時よりも有意に血中乳酸濃度が上昇しつつも、血中乳酸濃度は比較的安定します。


 そして、この幅は私の場合は1㎞3分30秒から3分10秒までのおよそ20秒の幅があります。


 ところが、多くの方が閾値を想定しているので、点だと思っているのです。


 例えばですが、私のガーミンは私の乳酸性閾値ペースを1㎞3分9秒ペースに見積もっています。多くの人はこの1㎞3分9秒ペースよりもわずかでも遅いと練習の効果がない、少なくとも閾値走としての効果がないと思っています。


 しかし、実際には1㎞3分25秒ペースでも充分に安静時よりも血中乳酸濃度は上昇しており、そういう意味では生理学的に必要な練習の負荷はかかっているのです。


 つまり、生理学的に必要な練習効果が得られているのです。


 これが理解できるだけで、だいぶ練習の幅が出ます。


 例えばですが、ハーフマラソンやフルマラソンに向けて準備する際には、10㎞の閾値走よりも20㎞の閾値走や30㎞の閾値走や40㎞の閾値走を入れた方が実際のレースに対応できるということはよくあることなのです。


 ただし、私は閾値走という言葉は使いません。高強度走という言葉を使います。なぜならば、そもそも安静時よりも有意に血中乳酸濃度が上昇しているか否かは計測してみないと分からないし、「ある反応を起こさせる最低の刺激量」という閾値の本来的な意味合いで言えば、この強度は乳酸性閾値の強度よりも高い強度だからです。文字通り高強度なのです。


 第一に、我々は走りながら血中乳酸濃度を計測するなんていうことは出来ず、ただ、自分がどのくらい苦しいかという強度によって練習を管理します。そちらの方がよほど実践的で効果的です。


 第二に、走り終わった後に計測した血中乳酸濃度の数字と照らし合わせると、「ある反応を起こさせる最低の刺激量」という閾値本来の言葉の意味合いから言えば、この高強度走の強度は乳酸性閾値の強度よりも強度が高いのです。


 私は過去5年間で数百人の市民ランナーさんのサブ3達成、サブエガ達成をお手伝いさせて頂きました。もちろん、そういった方々とのやり取りの中には「LT走」や「閾値走」という言葉を使われる方々がいらっしゃいました。私はその言葉が何を意味するかを知っていますし、相手がそういう言葉を好んで使われているのであれば、それを否定することもしません。


 ただし、絶対に譲れないことはその人がインターネット空間や雑誌などで言われているいわゆる「乳酸性閾値」つまり、「レースで全力で走った時に1時間維持できる強度」を基準にトレーニングされ、それにこだわっておられるのであれば考え方を改めてもらいます。


 何故ならば意味のない観念にとらわれて、練習の幅を失い、練習効果が減ぜられているからです。練習効果が減ぜらるるというのは要するに、コスパが悪いということであり、同じような努力をしていても、試合での最高の結果に繋がらないということです。


 それならば、そんな考え方は捨ててしまった方が良いというものです。


 今回の内容は以上です。あなたの参考になりますと幸いです。最後に、長距離走、マラソンが速くなりたい、長距離走、マラソンが速くなるための真理をもっと探究したいという方にお知らせです。


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筆者紹介

​ウェルビーイング株式会社代表取締役

池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

© 2020 by ウェルビーイング株式会社

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