top of page

故障明けや病気明けすぐに普通に走ると故障する理由と正しい復帰練習のやり方

 突然ですが、あなたは故障明けや病気明けに走り始めてすぐに故障したことはないですか?


 実はこの現象偶然ではなくて必然なんです。実は私が今指導させて頂いている東山高校の生徒にもコロナや語学留学など様々な事情から復帰する段階で故障してしまうという現象が頻発しています。今回は、故障明けや病気明けに故障してしまう理由とその対処法をお伝えさせて頂きます。


脚筋力を心肺機能が上回ると故障する

 先ず、そもそもの話をさせて頂きますと、故障を避ける最も良い方法は段階を踏んで走る距離を増やすことです。


???


 頭の中がはてなだらけになってしまった方も多いと思います。


「練習量を増やすと故障のリスクが下がる?


 書き間違いで練習量を減らすことが故障の予防になるのだろう」と思われた方も多いと思います。


 確かに、練習量を増やしているまさにその時は、故障のリスクが高まるので慎重に慎重に練習量を増やす必要があります。


 しかしながら、いったんある程度総走行距離を増やしてしまったら、ある程度その総走行距離を維持した方が疲れにくく、故障しにくいものなのです。


 その理由は、総走行距離を増やすことによって骨と軟部組織(筋肉、腱、靱帯)の耐久性が高まるからです。


 ランニングは数あるスポーツの中でも、最も内傷が多いスポーツの一つです。スポーツには外傷の多いスポーツと内傷が多いスポーツがあります。


 例えば、野球で見ると野手の方は死球があったり、今はもう事故以外なくなりましたが、本塁上のクロスプレーがあったり、格闘技やラグビーなんかはそもそも接触や暴力が当たり前のスポーツでコンタクトスポーツと呼ばれたりもします。


 こういったスポーツは外傷が多いスポーツです。


 一方で、同じ野球でも野手と違って投手の方は、内傷が多いスポーツで、そもそも年間100試合以上出場する投手というのはおらず、更に先発、中継ぎ、抑えと分かれており、一試合の中でも初めから最後まで出場する人はいません。そもそも、試合に出続けると壊れてしまうというのが前提のスポーツと言えると思います。


 ランニングも接触は基本的にありません。たまにありますが、ないのが前提で、仮にあったとしてもそれは「事故」として扱われるか、「故意」であると判断された場合には失格になるスポーツです。


 ところが、内傷はかなり多いスポーツです。高校でも、大学でも、実業団でも年間通して、故障者がゼロの強豪チームというのはほとんどないと思います。その最も大きな理由は蹴り出しと接地の衝撃です。


 ランニングと歩きの一番の違いはジャンプがあるかないかです。歩きの場合は、必ず片足が地面に着いた状態で体重移動によって移動するので、空中に浮いた状態から着地するという局面がありません。


 一方の、ランニングの方は一歩ごとに体が空中に浮く局面があり、そこから地面へと着地するので接地の衝撃というものがあります。この接地の衝撃が大きな故障の原因となります。


 ですから、競歩や自転車競技も過酷な持久系競技ですが、ランニングと比べると故障の率は非常に低いです。


 そして、もう一つの主たる原因はジャンプの際の負荷です。そもそも、走るとはジャンプがある訳です。走り幅跳びと違い、思いっきり跳ぶ訳ではないですが、小さなジャンプを繰り返すわけですから、その際に筋肉や靱帯、腱に負担がかかります。接地の衝撃にせよ、このジャンプの負荷にせよ、走り幅跳びや三段跳び、短距離走などと比べると微小なものです。


 ただ、それをかなりの数反復することになるので、耐久性が求められるのです。一日に一万歩とか二万歩とか平気で繰り返すわけで、それをほぼ毎日繰り返すとなると耐久性が必要になるのは当然のことです。


 よく、整体師とか治療家の先生から「故障の根本的な原因は姿勢のズレ」とか「骨盤のゆがみ」とか「左右のアンバランス」とか言われますが、それは全体の一部に過ぎません。確かに姿勢のズレ、骨盤のゆがみ、走り方が悪い、こういったことは故障の原因になるので改善が必要です。


 ですが、どんなに均整のとれた車でもそもそもの車軸の強度が時速80キロで3時間走り続けることに耐えられる強度でなければ、途中で折れます。タイヤもその重さと速度に耐えられる強度でなければ、どれだけ均整がとれていてもパンクします。逆に、ちょっとくらい左右均等じゃなくても、強度が耐えられる強度であればなんとかなります。


 そんな訳で、一番重要なのは骨と軟部組織(筋肉、靱帯、腱)の耐久性なのです。それがなければ、どんなに綺麗に走ったところでどうしようもありません。


 だからこそ、段階を踏んで総走行距離を増やすことが故障の一番の予防策なのです。ただ、まさに総走行距離を増やすその時は、故障のリスクが上がるので、練習量を増やしながら同時に質を増やすのは危険です。


 先ずは、練習量を増やして、慣れてきたらその量を増やしながら、練習の質を上げていくのが正しい練習のやり方です。


 例外はほぼありえません。


 逆に、故障しやすいのは実は素質のある子です。


 何故なら、そんなに練習しなくても速いペースで走れてしまうからです。でも、練習していないから骨、筋肉、靱帯、腱の耐久性はそれほど強くありません。耐久性がないのに、エンジンは良いものを持っているからその時は他の人よりも長く、速く走れてしまいます。でも、やっぱり耐久性がないからそれを繰り返していると故障してしまうんです。


 そして、どんなに素質があっても故障を繰り返していると、なかなか上のレベルには到達できないのが長距離走、マラソンです。


 まだ29歳ですが、たかが29歳でも選手時代含めてそんな人たくさん見てきました。それを見ながら、才能がある人は才能がある人で苦労があるもんだなとのんきに思っていました。私は幸か不幸か練習していないのに走れるということはありえないので、そういった苦労はありませんでした。


 故障はたくさんしてきましたが、練習していないのに走れてしまうから故障したというパターンはないです。


 で、本記事の本テーマに戻りますが、この耐久性は一度高めたらその後永続的に続く訳ではなくて、一度休むと落ちるんです。どのくらいで落ちるかというと3日もあれば充分です。だから、病気や故障で3日以上走れない時期があったら、その後は慎重に戻していかないと故障してしまうんです。


 これは病気から体が回復途上にあるからとか、故障がまだ治り切っていないからとかいうそういう話ではなくて、健康体でも3日以上走っていない状態からいきなり練習を戻したら非常に故障しやすい状態になります。


 例えば、最近の私の周りでは語学留学で3週間ほとんど走っていないという子がいました。このケースにおいては、完全な健康体である訳ですが、それでも3週間も走っていないと1から作り上げないといきなりみんなと同じ練習をさせたら故障します。


 故障明けに故障するというのもよくあるパターンでこれを俗に「故障が故障を呼ぶ」という言い方をします。ここには、故障によって走りのバランスが崩れて、他の箇所の故障を誘発してしまうという意味も含まれますが、それだけではなく、単純に骨と軟部組織の耐久性が落ちているので、故障しやすいのです。


 ですから、治療家の先生方や整形外科の先生方なんかが言う「治ったらいくらでも走れるんやから、今は焦らずに完全に治した方が良い」というのは嘘なんです。治った後も慎重に慎重に練習を戻していかないといけません。「嫌だ」と叫びたいのは私も同じなのですが、嫌でもそうしないとまた故障してしまう可能性が高いんです。


 全ての故障は違いますし、トレーニング状況も様々なので一概には言えない部分もありますが、基本的で簡単な方程式として、休んだのと同じ時間をかけるというのが基本的なルールです。


 1日の完全休養はなんの問題もないです。3日からは明らかに修正が必要です。では、2日ならどうなのか?


 これはよく分かりませんが、1日ならなんの問題もない、3日なら明らかに問題がある場合、2日なら気づかないかもしれないけれど、体的には変化があると考えるのが自然なので、私は2日間の完全休養の後はやはり2日は少し軽めの練習で様子を見ます。


 3日なら3日かけて戻す、7日間走らなかったら、7日間かけて戻すというのが基本的なやり方です。


 そして、初めは質を考えずに量だけを戻します。また、一回に長く走るよりもなるべく1日2回に分けるのも一つのポイントです。もちろん、これはお仕事の都合で無理な場合も多いでしょうけれど、1回に走る距離を伸ばすのは危険という考え方だけ覚えておいてください。


 ですから、例えば今の私が何らかの事情で7日間走れなかったとしましょう。その次の7日間の練習は以下のようになります。


1日目

30分低強度走


2日目

40分低強度走


3日目

50分低強度走


4日目

早朝 40分低強度走

午後 40分低強度走


5日目

早朝 50分低強度走

午後 50分低強度走


6日目

早朝 60分低強度走

午後 40分低強度走


7日目

早朝 10キロ低強度から中強度走

午後 30分ジョギング、流し


 上記のような感じで戻していきます。市民ランナーの方も普段の練習量や練習頻度で多少の変化をつけながらも、基本的には上記のような感じになるべきです。7日間休んでいて疲労は抜けているだろうから、2日間だけ軽めに走って、次の日はインターバルをやろう、休んでいた分を速く取り戻そうというのは駄目なのです。


 同じランナーとしてそうしたくなる気持ちは痛いほど分かります。痛いほど分かるのですが、結局時間をかけた方が早いのです。


 そして、私も何度も何度も故障で泣いてきたので、故障を避けるのが時として難しいのはよく分かります。でも、それを分かった上で、1週間休んだら、休んだ1週間+戻すのに1週間で合計2週間かかってしまう、だから、ちょっとおかしいなと思ったら走りながら治せる段階で、早めに練習を勝手に変えて欲しいと東山高校の生徒には言っています。


 これも選手としての経験から、選手は指導者の期待に応えたいし、その期待に応えられないことに対して罪悪感を感じるものだと思っています。選手の気持ちが指導者に向いていれば向いているほど、その傾向は強くなります。


 そういう意味では、選手の方が私のことなんかどうでも良いし、別にいうこと聞く気もないと思っていれば、自分で勝手に練習を変えるんでしょうけど、こちらの期待に応えたいと思えば思うほど、出された練習は全て消化したいと思ってしまうものです。


 今の段階で生徒がどう思ってくれているかは分かりませんが、私の言うことをきいていれば記録がどんどん伸びていくということがこれからも続いていけばいくほど、生徒は出された練習は全て消化したいと思うようになるし、来年入ってくる新入生は先輩からその話を聞かされて、やっぱり私の出した練習を100%消化したいと思うようになるものです。


 でも、やっぱり私も他人の体のことは100%分かりません。100%どころか5%も分かっているかどうか怪しいです。


 ただ、人間の体なんて95%くらいは同じだから原理原則に照らし合わせて、素直に練習を組めば95%は上手くいくというそれだけのことで、本当の意味で他人の体を理解している訳ではありません。


「殴った方は忘れても、殴られた方は決してその痛みを忘れない」という言葉がありますが、私もそう思います。要は所詮「他人の痛みなど分からないし、分かってしまえばその瞬間にそれは自分の痛みになってしまう」ということです。


 学校教育では「他人の痛みが分かる人になりましょう」と教えられましたが、分かる訳がありません。ただ、なんとなくだいたい人間は皆同じだから、こんなことされたら嫌だろうなということが大人になれば分かってくるというそれだけのことです。


 話を元に戻すと、だから東山高校の生徒にも出来れば走りながら治せる段階で、練習を変えて欲しいと言っています。


 これは骨が折れててもアキレス腱が切れていても走りながら治してくれということではなく、一回骨が折れたり、アキレス腱が切れてしまったら、いくら「嫌だ!」と叫んだところで、長期にわたるランオフとランオフからの復帰に必要な日数を受け入れざるを得ないから、そうならないようにしてくれということです。


 この原理は超一流選手も同じで、例えば2011年のボストンマラソンで2時間3分6秒で走り、2位に入ったモーゼス・モソップ選手のボストンマラソンの後の1週間にわたる計画的休養の後の復帰練習は以下の通りです。


1日目

早朝 50分低強度走(11キロ)

午後 50分低強度走(11キロ)


2日目

早朝 1時間低強度走(14キロ)

午後 1時間低強度走(14キロ)


3日目

早朝 70分低強度走(17キロ)

午後 50分中強度走(13キロ)


4日目

早朝 70分加速走(19キロ)

午後 45分低強度走(10キロ)


5日目

早朝 80分中強度走(20キロ)

午後 45分低強度走(10キロ)


 世界のトップ中のトップ選手だけあって基本となる練習の負荷が高いので、正直参考になるかどうか、掲載するかどうかは迷いました。


 ただ、世界のトップオブトップの選手でも1一回に走る距離は短めに二部練習で戻していく、2初めは低強度走で量だけを増やし、次に低強度走から中強度走(加速走)、中強度走へと持っていっているという原理原則は確認出来ると思います。