突然ですが、あなたは長距離ランナー、マラソンランナーにとっての理想的な炭水化物、たんぱく質、脂質の摂取バランスはどの程度かご存知でしょうか?
私が知っているだけでも、炭水化物を中心とした食生活が良いと主張する人、たんぱく質中心の食事が良いと主張する人、はたまた脂質が中心であるべきだと主張する人がいます。
一体どれが正しいのでしょうか?
正確な比率に関しては、あなたの生活習慣や練習の負荷、体質、DNAなどによって変わってくる話なので、一概にこのくらいの割合が良いとは言えません。言えませんが、これは頭に入れておいた方が良いということを本ブログで解説させて頂きたいと思います。
先ず第一に、たんぱく質の摂取量についてですが、最近はたんぱく質が過大評価されているように、感じます。最近50年くらいの栄養学と言いますか、栄養に対するマスメディアの情報発信によって先ずは脂肪がやり玉にあげられました。脂肪が悪いという論調です。そして、最近は炭水化物が悪いと言われる風潮が多くなりました。では、残る三大栄養素は?
そうです、たんぱく質です。結局のところ、多くの日本人はそこまで栄養に対する知識がありません。物凄く、分かりやすく人々の心を動かして販促につなげるなら、脂肪が悪い、炭水化物が悪い、たんぱく質が良いという論調を作るでしょう。そして、更にたんぱく質が不足すると、筋力が低下する、トレーニングからの回復が遅れるという論調を作るでしょう。
実際に、そうなっていますし、たんぱく質が不足するとトレーニングからの回復が遅れます。ただし、これは炭水化物も脂肪も同様です。水分ですらそうです。塩分もしかりです。何かが不足すると体に悪い、これは当然のことです。
問題はたんぱく質が不足するというのはどのくらいの分量からでしょうか?
昔は持久系アスリートは体重1キロ当たり1.5グラムだと言われてきました。ところが、それを体重1キロ当たり1グラムに下方修正する動きも出てきました。更に、それを下方修正し、1グラム当たり0.8グラムと主張する研究者たちも出てきました。一体どの説が正しいのでしょうか?
私は栄養学者ではないので、どれが正しいのかは分かりません。分かりませんが、自分自身の経験からお話しさせて頂きましょう。私がケニアで合宿をしていたとき、完全に現地の選手たちと同じ生活を送っていました。食べ物も飲み物も基本的には同じものを食べていました。そこでの食事は我々の感覚からすると非常に質素なものでした。
朝ごはんは食パンとミルクティー、お昼ご飯は白米とジャガイモに少しトマトを加えたもの、午後練習の後にミルクティー、夜ごはんはウガリ(トウモロコシの粉を蒸して固めたもの、イメージ的には肉まんの皮の部分をもっとぎゅっと固めた感じ)と葉野菜とミルク、あとは各自間食を取ろうと思えば、市場でバナナやアボカド、マンゴーを買えるという食生活でした。
肉を食べているのを見たのは、マネジメントが変わる際に、選手の送別会をした時だけです。山羊を庭で殺して、殺したての山羊を焼いて食べていました。肉を食べているのは本当にそれだけでした。
それで、皆厳しい練習に耐え、そのキャンプの中にいたメンバーで二時間十分を切れていないのは私だけでした。
また、ニュージーランドで合宿をしていたときは、オーストリア人一人とドイツ人選手三人とともに生活をしていましたが、その時も肉を食べていたことはほとんどありません。魚もあまり食べていませんでした。偶然にも、メンバー5人中3人が道徳的な理由からベジタリアンだったのです。卵をちょくちょく食べるくらいでした。それで、いずれもその国を代表する中長距離選手でした。
それでも問題がないのには二つの理由があります。先ず一つ目の理由は、やはり下方修正されつつある数字が正しいのでしょう。体重1キロ当たりタンパク質1グラムから0.8グラムくらいが正しい数字なのだと思います。
そして、理由のもう一つは一般に思われているよりも穀物はたんぱく質を含むことです。米は1合あたり約10グラム、小麦粉は100グラムあたり約10グラムのたんぱく質を含みます。そうすると、小柄で炭水化物をたくさん摂取する長距離選手はたんぱく質を自然と摂取することになるのでしょう。
では、脂肪はどうでしょうか?
脂肪は体に悪いというイメージがあまりにも流布してしまっていますが、人間のホルモンは良質な脂肪酸から作られます。また、脂肪には消化吸収をゆるやかにし、空腹感を感じにくくする働きがあります。同じ食品でも油と一緒に摂取すると、グリセミック指数が下がるのです。そして、言うまでもなく、食べ物の消化吸収をゆるやかにし、血糖値を安定させ、様々なホルモンを正常化させることが正常な体重管理につながります。
逆の言い方をすれば、肥満と言うのは中枢神経や代謝の異常によって起こるものなのです。人は食べ過ぎという表面的な現象にだけ目を向けて、何故その人は食べ過ぎてしまうのかという原因の方に目を向けません。いささか挑戦的な言い方かもしれませんが、人は本来太るようには出来ていません。人は食べたいだけ食べれば、健康的な体型が維持できるようになっているのです。
唯一の例外として、10代から20代の女性に関してはセルフイメージの問題も出てきます。一般的には、太っている人ほど痩せたいと思う傾向があります。これは正常です。ところが、10代から20代の女性だけは、太っているか痩せているかに関わらず、痩せたいと思っている人が多いのです。これだけは栄養の問題ではなく、セルフイメージの問題になります。
また、長距離走においても是非知っていただきたいのは、軽ければ軽いほど走れるという訳でもないということです。確かに、理論的には余分な重りはない方が良いです。但し、健康的な食生活と適切なトレーニングをしている人はすでに余分な重りはそぎ落とされています。それ以上軽くした方が良いとは限らないのです。
簡単な反例として、体重が軽ければ軽い方が有利なのであれば、男性よりも女性の方が競技能力は高いはずです。でも、実際にはそうなっていないですよね?
それは確かに男性の方が体重は重いですが、それだけ筋力も多いからです。つまり、体も重たいけれど、エンジンの方も大きいので、プラスマイナスで考えれば速く走れるということです。同様のことが、長身のランナーについても言えるでしょう。
長身だと不利だと思い込んでいる人もいますが、それはプラスマイナスあります。ストライドも大きくなりますし、筋力的にも比較的強いです。体重もその分重くなりますが、結局どちらが有利だとは一概には言えません。
いずれにしても、先ずは自分のベスト体重を知ることから始まるでしょう。決して軽ければ軽いほど良い訳ではありません。自分が一番走れる時に、大体どのくらいの体重なのかということを考えることが重要です。
これはもう経験的に知るしかありません。自分の経験の中で、だいたい体重が何キロくらいの所にあれば良いのかということを知ってください。これは毎日体重を測っていれば簡単に分かることです。
もしも、いつもと違う数字が出たら、その原因がなんであるのか、そして、現在の自分は以前と比べて良い感じで走れるのか、あるいはそうではないのかを考えればそれで良いでしょう。
もう一度話を戻すと、脂肪も体に必要な栄養素であるとともに、脂肪の摂取量があまりにも少ないとかえって体は脂肪をため込もうとします。また、飢餓を感じやすくなり、食欲も増します。脂質も全体の10%から20%程度必要となります。
そして、人間の体の中、特に継続的にトレーニングするランナーにとって最もため込むことが出来ず、なおかつリカバリーに必要な栄養素は炭水化物です。ですから、基本的には良質な炭水化物が食事の大半を占めるべきです。
余談になりますが、私のコーチがケニア人アスリートの食生活を一週間にわたっ追跡した時のことです。本人曰はく、皿の最後のひとかけらからコップの中の最後の一滴まで厳密に分析したところ、炭水化物が80%、脂質が10%、たんぱく質が10%という結果になったそうです。
摂取カロリーが約3000キロカロリー、その10%となると300キロカロリーです。そして、たんぱく質は1グラムで4キロカロリーですから、300キロカロリー分のたんぱく質は約75グラムです。たった10%といっても、結構な量のたんぱく質があるのです。また、彼らの主なたんぱく質摂取源はやはり穀物のはずです。ミルクティーと温かい牛乳くらいしか飲みませんから。
脂質は1グラムで9キロカロリーあるので、カロリー計算でたんぱく質や炭水化物と同僚であれば、重さで言えばその約半分の分量になります。
では、炭水化物80%、脂質10%、たんぱく質10%の食生活が誰にとっても正しいのでしょうか?
これは遺伝子や練習量、練習の負荷によっても変わります。正直、プロランナーほどの練習をしているアマチュアの方はほとんどいません。ですので、もう少し炭水化物の割合が少なくても良いとは思います。また、食欲を抑える意味合いも込めてもう少し脂質があっても良いでしょう。
ただ、これらは平均的な日本人の食生活を考えると容易に達成できます。何故なら、おかずに肉や魚を食べるのが一般的だからです。
意識して、何かを摂取する必要はないでしょう。基本は炭水化物中心の食事が適していると言えます。その最大の理由は、炭水化物が最も体内に貯蔵できない栄養素だからです。
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