top of page

全国高校駅伝戦評

更新日:2021年12月28日

 本日は高校生の駅伝日本一を決める全国高校駅伝が開催されました。上位八校の顔ぶれは一番から順番に世羅高校、洛南高校、仙台育英高校、大分東明高校、佐久長征高校、倉敷高校、西脇工業高校、学法石川高校ということで終わってみると何十年と顔ぶれの変わらない古豪が上位を占める結果となりました。この中で、個人的な主観になってしまいましたが、学法石川高校だけが少し新しいかなという印象です。


 改めてレースを振り返ってみると、一区では西脇工業高校の長嶋君がスタートからぐいぐいと飛び出し、2キロを5分30秒切って通過し、それ以外の選手は後ろで大集団を形成してという展開でした。確かに長嶋君は5000mで13分46秒の好記録をマークしており、力のある選手ではありますし、結果論になってはしまいますが、やはりこれは判断ミスと言わざるを得ないでしょう。


 大舞台を前にして、自分に負けてしまったのか、それとも元々そういう作戦だったのかは分かりませんが、普通に考えるなら、他の全ての人間と同じようにオーバーペースで飛び出していったら自分の力を出し切れずに終わってしまうというそれだけの結果でしょう。しかし、それでも29分19秒で13位というところにまとめたのは、寧ろ初めの2キロの速さを考えれば、よくまとめたと思いますし、やはり力のある選手です。


 このレースでは長嶋君が集団に吸収された後、7キロ地点で前に出たのは洛南高校溜池選手、1区は2.5キロくらいから7キロまでじわじわと登り、最後の3キロは下り基調のコースです。溜池君も7キロから前に出ており、おそらく風向きもここから追い風なので、勝負をかけたというよりは下りが得意なのかもしれません。私の目にはここで勝負をしかけるというふうには見えませんでした。ただ、並み居る強豪を前にして、8.5キロ地点くらいで後ろの選手に追いつかれると、動きが他の選手よりも鈍くなっていたのは事実です。


 結果的には最後の最後まで後ろでためていた世羅高校の森下君が28分49秒の好タイムで区間賞を獲得しました。ある意味では、何も余計なことをせずに力を集団の中でため、勝負所を見極めて一度だけスパートした古豪らしい落ち着いたレース運びだったと思います。洛南高校溜池君も自分よりも自己ベストが上の選手が何人もいる中で7キロで前に出るという強気のレースを展開し、最終的に先頭と16秒差の5位にまとめたのは素晴らしいと思います。


 二区では、西脇工業高校の山中選手がただ一人の7分台をマークする7分59秒で区間二位に9秒差をつけるぶっちぎりの区間賞。これもたらればにはなってしまいますが、こうなってくると、西脇工業の1区長嶋君が集団の中で走っていれば、1区、2区で西脇工業が先頭争いに加わっていた可能性は大いにあります。「たらは北海道」という言葉もありますが、西脇工業関係者なら、もし一区の長嶋君が初めから集団の中で息をひそめて7キロ以降も落ち着いて溜池君をペースメーカーに使い、ラスト1.5キロあたりから勝負に出ていればと思わずにはいられないでしょう。


 二区の区間2位は洛南高校前田陽向君、インターハイでは800m3位に入るスピードランナー、家の真ん前に大阪高校という素晴らしい高校がありながら、本人たっての希望で洛南高校に入学した青年が大一番で有終の美を飾りました。例年通り、2区終了時点までは混戦の都大路ですが、3区からは留学生を擁する高校が優勝争いを展開します。


 2区終了時点で先頭を走る世羅高校は留学生のコスマス・ムワンギ選手が早くも逃げ切り体制、そして、倉敷高校のイマヌエル・キプチルチル選手がそれを追いかけ、二人の留学生にサンドイッチされるように洛南高校佐藤圭汰君がムワンギ選手をおいかけました。普通こうなったら、留学生の独壇場になるのが例年の都大路なのですが、佐藤君は違いました。中間点までは、ほとんどムワンギ選手と同じペースを刻むと、それを追いかけるキプチルチル選手も佐藤君に追いつけません。後半、ややへばりが見えて、最終的にムワンギ選手から遅れること16秒でタスキをつなぎますが、区間タイムの23分10秒はぶっちぎりの日本人歴代最高記録、実質上の4種目目の高校記録と言って良いでしょう。


 3区終了時点で優勝争いは先頭を行く世羅高校とそれをおいかける洛南高校、倉敷高校の3つにしぼられました。4区は8キロの長丁場といはいえ、16秒はほとんどセーフティリードです。にもかかわらず、追いかける洛南高校、宮本君と倉敷高校桑田君が3キロも行かずに世羅高校吉川君に追いつきました。


 この時も、筆者はペースが速すぎるのではないかという不安を覚えました。追いかける宮本君は中間点を11分20秒で通過しました。これは4キロ換算でおよそ11分11秒、つまり1キロ2分48秒ペースです。実際に、5キロを14分ちょうどの自己ベストで通過しています。追いつかれてからの世羅高校吉川君の走りも見事でした。落ち着いた表情で、宮本君を前に行かせると淡々とその後ろについて、残り二キロになったところで、スパート、区間賞は宮本君に譲ったものの先頭を死守すると区間3位の走りで5区へとタスキをつなぎました。


 なお、区間2位は仙台育英高校の留学生ムテチ君、洛南高校には今大会留学生レベルの選手が二人いたことになります。4区終了時点で世羅高校と洛南高校は8秒差、残り13キロという距離を考えるとまだまだ勝負の行方は分からない秒差です。


 5区、6区は実は最も差が開きやすい区間です。というのも5区、6区は登り基調であるうえに、だいたいどこのチームも6番手、7番手の選手が配置される区間で、層の厚さが出てくる区間だからです。しかも、今年は5区、6区は強烈な向かい風が吹いており、タイムも全体的に良くありません。なおさら、経験や速さよりも強さが問われることとなりました。


 この5区で、先頭世羅高校を追う倉敷高校山田君が8分51秒で区間2位、世羅高校小島君が区間4位の8分55秒、そして洛南高校のルーキー岡田開成君が9分3秒の区間16位、通過順位は先頭世羅高校、16秒遅れて洛南高校、30秒遅れて倉敷高校となりました。残りの距離が10キロしかないことを考えると、この時点で洛南高校と世羅高校の二校に勝負は絞られました。


 ちなみに、この区間のタイムを見て、タイムが遅いと感じられた方も多いと思います。中には「このくらいのタイムなら俺でも走れる」と思われる方もいらっしゃるでしょう。しかし、何度も書くようですが、5区は軽く登り基調であるうえに今年はかなりの向かい風です。勝負とはタイムではなく、同じ条件で走って勝ったものが強いのです。筆者の3キロのシーズンベストは8分25秒ですが、今日5区を走れば区間賞が取れたかというとそうとは限りません。勝負事というのはそういうものです。日本一をかけて、最高のコンディションで臨めるように調整して、走った選手たちの結果が残っているのです。


 6区も同様のことが言えます。先頭を行く世羅高校花岡君が14分41秒で区間2位、洛南高校児島君が14分49秒で区間4位です。花岡君は14分20秒、児島君は14分09秒のタイムをもっていますが、今回はこのようなタイムでした。しかし、他に強い選手がたくさんいる中でのこのタイムなのですから、やはり向かい風がかなりきつかったのでしょう。若干登っているとは言え、今年の6区は例年と比べてもタイムは悪かったです。しかし、5区終了時点で16秒差で追いかける洛南高校が逆転に一縷の望みをかけるなら、ここで10秒以内にしておきたかったところです。


 手薄になる6区に5000m14分09秒のタイムを持つ児島君を配置することで、洛南高校は隙のないオーダーを組んだはずでしたが、結果を見ると世羅高校は全区間穴がなく、つけいる隙のない走りをしました。しかし、テレビの画面越しにみる児島君の走りは普段の児島君ではなく、観ていたものしては区間4位におさまってかなり安心しました。テレビ画面越しに見る児島君は2キロ地点ですでに本来の走りとは程遠く崩れており、最悪3位の倉敷高校にも逆転されるのではないかと思っていましたが、コンディションの良くない中で最低限の仕事を果たし、3年生の意地を見せたというところでしょう。


 6区終了時点で先頭の世羅高校と洛南高校は24秒差、勝負は下駄を履くまで分からないと言いますが、普通に考えればこの時点で勝負は決していました。アクシデントがない限り、5キロという距離ではひっくり返らない秒差です。しかも、そのような状況でもアンカーの世羅高校村上君は14分22秒の区間賞でフィニッシュ、最後の最後まで隙のない走りで世羅高校に11回目の優勝をもたらしました。


 世羅高校は毎年、質の良い留学生を仕入れてくるので、それが一つの議論を呼び起こしているのは事実です。私自身も「強すぎるから不公平」というつもりは全くないのですが、年齢のこととか、日本語も話せない人間が日本に駅伝をやりに来るなら、他の高校がプロの日本人を起用するのはどうなのかとか色々な観点から、留学生にはどちらかと言えば、反対派です。しかし、ここまで他の日本人選手が隙のない走りをすれば、選手たちには最大限の称賛が与えられるべきだと思います。


 敗れた洛南高校も二年連続の日本高校記録を更新し、初の1分台突入となる2時間1分59秒という好タイムでした。これで、100mから5000mまで、4x100mから駅伝までくまなく高校記録を樹立し、名実ともに日本一の陸上競技部となりました。10年に1度の逸材ともいえる佐藤君が抜けた来年以降、留学生と対等に戦える選手が出てこないと優勝への道のりが険しいことは間違いありません。しかしながら、東京オリンピック3000m障害で入賞を果たした三浦龍司君も10年に1度の逸材と言われながら、2つ下にもう佐藤圭汰君が出てきているので、これからも選手は育つでしょう。


 日本人だけのチームでどこまでいけるのか、そんなことも来年以降は注目していきたいと思います。


 最後に、新刊書籍『マラソンサブ3からサブ2.5の為のトレーニング』の在庫が早くも残り10部となりましたので、ここにお知らせします。まだ詳細をご覧になっていない方は今すぐ下記のURLより詳細をご確認ください。




閲覧数:502回0件のコメント

筆者紹介

​ウェルビーイング株式会社代表取締役

池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

bottom of page