秋から冬のマラソンに向けてのトレーニング戦略
- 池上秀志
- 3月23日
- 読了時間: 12分
あなたは秋から冬のマラソンのスケジュールはどのように組まれているでしょうか?
誰が言いだしたか分からないマラソンシーズンという言葉、本来はプロ野球のように年間の試合のスケジュールが決まっていないので開幕も閉幕もないはずなのですが、日本では秋から冬がマラソンシーズンということで定着しています。
そんなマラソンシーズンにおいてフルマラソンには数本出場するという方が多いのではないでしょうか?
今回はそんなマラソンシーズンの中でマラソンを数本走るという方のための大雑把なトレーニングガイドをお届けさせて頂きたいと思います。
大前提
そもそも論ですが、だいたいきちんと自分の力を確実に伸ばして、自己ベストを目指すということになると、3か月から半年くらいを見積もるのが普通です。3か月から半年をトレーニングの一単位と考えるのです。この一番大きな一単位をトレーニング学の用語ではマクロサイクルという言葉で表します。マクロという言葉は言うまでもなく、ミクロに対する言葉であり、大きな周期と考えて頂くと良いでしょう。
一年間の中に12カ月あり、1か月の中にだいたい4週間あるというのと同じで、1つのマクロサイクルの中にいくつかのミクロサイクルがあり、1つのミクロサイクルの中にいくつかのメゾサイクルがあるという考え方をトレーニング学ではします。
そして、その考え方は非常に実情に即しています。人間の身体能力を向上させようと思ったら、最小の単位は3か月から半年くらいで考えるのが上手くいくものなのです。
場合によっては、3か月から最長は1年くらいで考えても良いと思いますが、5年単位で考えるとちょっと長すぎるし、1カ月しかなかったらなかなか走力の向上を狙うのは難しいです。ほぼ無理と言っても良いでしょう。多少の記録の向上は望めても本当にレベルが1段階、2段階上がったなというところまではいけません。
ですから、これは何の理論に基づいてとか、誰々の理論だからとか、何とか教のなんとか宗派だからという話ではなく、全人類だいたい3か月から半年くらいのスパンで考えると上手くいきやすいという話です。
そうすると、そもそも論ですが、一つのレースと一つのレースが3か月以上ある場合は、難しく考える必要はありません。オーソドックスに練習を組むのが良いのです。つまり、複数のレースに出場するからと言って、特別な考え方が必要になる訳ではないのです。
問題はレースとレースの間隔が3か月未満の場合です。その中でも、レースとレースの間が6週間未満と6週間以上12週間未満の二パターンに分けて考える必要があります。
その根拠はこうです。だいたいフルマラソンのレース1本からしっかりと回復するのに2週間はかかります。そして、調整に2週間かかります。そうすると、これで合計4週間です。つまり、4週間以内であれば、疲労の回復と調整しか出来ず、練習らしい練習をすることが出来ません。
では、6週間あれば練習がしっかりと出来るのかということですが、疲労の回復に2週間、調整に2週間ということは間は2週間しかありません。非常に選択肢は限られてくるのが6週間以内のスケジュールです。
それでも、細かく分けるのであれば、6週間あるのと4週間以内では全然やれることは違いますし、ピート・フィッツィンジャーというアメリカの元マラソンランナーの方も著書の「4週間以内に2本のレースに出る場合」という項目の中に「そもそも、なぜ自分が4週間以内にフルマラソンを走ろうとしているのか考えなければならない」という半分冗談半分本気の一文を書かれております。
そのくらい、4週間以内であればスケジュールを組むのは難しいということです。
また、間が6週間しかないのと11週間あるのとではまた練習の組みやすさは随分変わってきます。
ですが、本記事内では便宜上6週間未満と6週間以上12週間未満ということで話を進めさせて頂きます。
6週間以上12週間未満
6週間以上12週間未満の場合は、疲労の回復に2週間、調整に2週間、合計の4週間を差し引いた数字が練習出来る期間となります。6週間なら2週間、11週間なら7週間が練習出来る期間となります。
では、この練習できる期間に何をやれば良いのかということですが、基本的には前に出場したマラソン前にやっていた練習と同じような内容を同じようなタイムで繰り返すことです。
例えばですが、間が8週間だとすると疲労の回復に2週間使うので残りは6週間です。そうすると、前のフルマラソンの6週間前からレースまでの練習とほぼ同じ内容を繰り返すのです。
ここで絶対にやってはいけないことは一個上のレベルの練習をやろうとすることです。よくあるのは前回のフルマラソンで3時間10分切りをして、次はサブ3を目指そうということで、一気にサブ3用の練習をするというようなパターンです。これはやりがちなのですが、絶対にやってはいけないことなのです。
アニメを見る時の「テレビから離れて部屋を明るくしてみてください」と同じくらい守って頂きたい決まり事です。
その理由は何なのかということですが、先ず第一に2週間の疲労回復期間を設けたとしても本当に体がしっかりと回復しているかどうかは怪しいところがあるからです。フルマラソン一本の疲労もありますが、そのフルマラソンに向けてやってきた長期の練習による疲労というものもある訳です。
筋疲労は確かに2週間あればしっかりと回復するのですが、免疫系とホルモン系(神経系)の回復には数週間から場合によっては数か月間かかると言われています。
ですから、2週間練習を軽くしてもそれで本当に100%回復しているかどうかは微妙なところもあるのです。本当に回復していない状態で一段上の練習をしようとすると、走力が低下したり、故障するリスクが大きくなってしまいます。
理由の二つ目は、そもそも短期間で新しい刺激に体が適応する可能性が低いということがあります。だいたい、一つのトレーニング刺激に体が適応するのに6週間前後かかります。間の期間が少ない上に、体がまだ疲れていたりすると新しいトレーニング刺激に体が適応するのは難しいです。
理由の三つ目は、同じような練習を繰り返していても、余裕度が上がれば記録は出るからです。だいたい、一段上の記録までは狙えます。場合によっては2段階、3段階上の記録を出す人もいます。
ちょっと例外的なケースではありますが、女子のペースメーカーになってから記録を伸ばす男子選手もいます。厳密にはちょっと自分で+アルファを付け加えたりはしているのですが、基本は女子のペースメーカーしかしていないのに試合では自己ベストを出す人というのは国内にも国外にもプロにもアマにもありとあらゆる領域においてたまに見られる事例です。
女子のペースメーカーをして自己ベストを更新する男子選手というのは確かにちょっと珍しい例ではありますが、練習ではレースペースよりやや遅いペースでしか練習していないのに、試合では練習ではやっていない記録を出す選手はいっぱいいます。体が適応して余裕度が上がれば速く走れるのが長距離走、マラソンというスポーツなのです。
以上を考慮に入れて、利点不利点を天秤にかけて考えると、前回のマラソン前にやっていた練習をほぼほぼそのまま反復するというのが最適解になってくるものなのです。
ちなみにですが、先ほどから私が一段上と申し上げているのはだいたいどのレベルなのかということですが、質に関して言えば、1㎞あたり5秒速くなったら1段階上と考えて下さい。
1㎞2,3秒くらいであれば誤差範囲かなと思いますが、1㎞あたり5秒速くなったら完全にペースが速すぎます。
量に関して言えば、先ず第一に一回に走る距離に関しては、前回のマラソン前にやっていた練習よりも距離を伸ばす必要は一切ありません。私は色々なところで40㎞から場合によっては45㎞走までやった方が良いと書いたり言ったりしていますが、それはあくまでも適切な段階を踏んだ上での話であって、誰でも彼でもいつでもどこでも40㎞走をやった方が良いという話ではありません。
距離を伸ばしたいのであれば、次のマラソントレーニング期間に適切な段階を踏みながら距離を伸ばすべきであって、この場合は距離を伸ばすべきではありません。
総走行距離に関しては多少の変化があっても良いと思います。10%くらいまでであれば、誤差範囲内と考えて良いでしょう。
前回のマラソン前にやっていた最も多い時の週間走行距離が100㎞であれば、110㎞までは誤差範囲内と考えて良いと思います。
6週間未満
6週間未満の場合は何をやれば良いのかということですが、基本的な考え方は疲労抜きと走力維持に徹するということです。先述の通り、6週間以上12週間未満の場合も同じことの練習のくり返しが中心ではあります。ただ、同じことを繰り返して余裕度が上がれば、記録の向上は充分に狙えます。
一方で、6週間未満の場合は、そもそも記録の向上という考えは捨てて、疲労を回復させ、体調を整えて、現状維持に全総力をつぎ込むべきです。もちろん、フルマラソンを走っての30秒なんてほぼ誤差範囲内ですし、気象条件に恵まれれば自己ベストということも有り得るでしょう。
ですが、考え方しては疲労の回復と走力の維持に全総力をつぎ込む、攻めるよりも防戦に徹するという考え方です。最低限これだけやっておけば良いかなくらいの感覚で練習を組むのが良いです。
持久力というのは落ちるのが速いです。1週間何もしなければたちまち大きく走力は低下します。ですから、一応軽く練習はします。軽く練習はするけど、考え方としては鍛えるとか走力向上とかではなくて、現状維持できるだけの最低限の練習をするということです。
そもそもマラソンシーズン1回で何本走るべき?
きちんと記録を狙うのであれば、秋に1本冬に1本が適切かなと思います。つまり、2本です。どんなに多くても3本くらいかなと思います。
ただ、マラソンには色々な楽しみ方があるのが実際のところです。中には、旅行とマラソンレースの比重が半々で1か月に1回くらいは色々なところに行ってレースに出場したいという方もいらっしゃると思います。
記録を狙うことを考えると、なかなか難しいスケジュールではありますが、記録を狙わなくても良いのであれば、私は2週間に1回くらいは全然走れると思います。人間の体というのは短く速く走るよりも長くゆっくり走る方が簡単に出来るようになっているものです。
実際には、体力的な問題よりもお金と時間の問題の方が現実的な問題としてのしかかってくるでしょう。そこまで考えると、記録の向上に重きをおかないのであれば、「レースに出過ぎ」という現象は実質的には存在しないのかもしれません。
よくある過ち
よくある過ちとしましては、「レースを練習として使う」と称して、たくさんレースにエントリーすることです。先述の通り、私は別にレースにたくさん出ること自体を否定はしません。
ただ、それで走力を向上させようというのは間違った考え方です。人間がある刺激に対して適応する際に重要な条件は「充分にその刺激から回復出来ること」と「頻繁に反復出来ること」です。
負荷が大きくなればなるほど「その刺激から回復することが困難であり」なおかつ「頻繁に反復出来ない」ので、フルマラソンのレースにたくさん出場して走力を伸ばすという戦略は得策ではないのです。
もちろん、あまりにも負荷が低い場合には適応することは容易であるけれど、目指す目標に到達出来ないという問題はあります。
ですから、ちょうど良い加減の負荷を見つけていくことは重要なのですが、一つだけ断言できるのはフルマラソンという距離を全力で走ることは負荷が大きすぎます。
ちなみにですが、お箸を使ったり、自転車を乗りこなすのはだいたい誰でも出来ますが、フルマラソンで3時間を切ることは大半の人が出来ないのも、お箸や自転車に乗るのはそこからの回復が非常に容易であり、したがって反復が容易であるのに対し、フルマラソンで3時間を切るためのトレーニングは回復が困難であり、反復が簡単ではないからです。
その中でも特にフルマラソンのレースは回復が困難であり、反復が困難です。もっと端的に言えば、費用対効果が非常に悪いのです。
また、これは面白いことですが、どんなスポーツでもレベルが低ければ低いほど試合の出場数に対する練習の量は少なくなり、レベルが高くなればなるほど試合の出場数に対する練習の量は多くなります。
ゴルフも野球もサッカーもプロの選手ほど試合で良いところを見せるために多くの時間を練習に費やしています。
一方で、趣味でやる人は練習をほとんどせず、場合によっては全くせず、週末にゴルフや草野球や草サッカーやフットサルを楽しみます。
この法則はマラソンでも例外ではなく、良い記録を出したいのであれば、試合の出場数に対する練習の量を増やした方が良いということです。
いかがでしたでしょうか?
マラソンシーズンに複数のレースに出場することは普通である一方で、なかなかその為の情報となると出回っていないのが実情ではないかと思います。
最後に、今回のテーマについてもっと詳しく学んでみたいという方にお知らせです。昨日より3日間限定で弊社副社長の深澤哲也が担当する新講義動画「私の神戸マラソンからびわ湖マラソンまでの14週間のトレーニング」という講義の受講生様を募集しております。
深澤の今年のマラソンシーズンは11月に神戸でマラソン始めて5年目で初の2時間半切りとなる2時間29分を記録、その後2月の別府大分毎日マラソンでは大失速の2時間49分、そしてびわ湖マラソンでは立て直しの2時間31分、惜しむらくはトイレロスの1分半がなければ自己ベスト更新もありえたことです。
こんな感じで成功と失敗が非常に分かりやすいシーズンであり、私も受講しましたが模範として参考になる部分と反面教師として参考になる部分の両方があり、大いに勉強になりました。
この神戸マラソンからびわ湖マラソンまでの14週間の全練習内容、何を考え、実際に何をやり、そしてどこが上手くいったところで、どこがダメだったところか、結果も踏まえて来年はやめておこうと決めたことは何なのかこういったことを本人が約3時間の講義動画の中で徹底解説しております。
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