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マラソンにおける我が闘争5:インターバルトレーニングの落とし穴

 先日からメルマガやブログなどでお知らせさせて頂いていますが、現在物語形式で長距離走、マラソントレーニングについて学べる『マラソンにおける我が闘争』という小説を執筆しております。


 あらすじとしてはアドルフ・ヒトラーが1945年からタイムスリップしてきて、2019年にベルリンで合宿をしていた私に出会い、ユーチューバーだと思い込んだ私がヒトラーと一緒に仕事をすることになり、その一環としてランニング初心者56歳男性のアドルフ・ヒトラーを色々指導し、1年後にサブ3を目指すという話です。


 ランニングと社会、経済、歴史、政治、虚構と現実が巧妙に混ざり合う長編小説です。戦争や人種差別を助長するようなものではなく、アドルフ・ヒトラーの登場なしには描けない内容になっているので、そういった設定になっていることを予め申し上げております。


 本日はその物語の中から、インターバルトレーニングの落とし穴について解説している箇所を無料で公開させて頂きます。


ある秋晴れの日

 その日は綺麗に晴れ渡った秋晴れの空で、暑くもなく、寒くもなく、とても気持ちの良い秋風が吹く日であった。真夏のように、早朝に起きて走る必要はなく、寧ろ早朝や夜は少し肌寒いくらいで、太陽の光を存分に楽しみながら走ることが出来るようなそんな気候で、日暮れには秋の虫の鳴き声を楽しめるそんな1日であった。


 その頃の私は夜になると、ティラノのらんラボチャンネルとマラソンにおける我が闘争チャンネルとねずみが喋る【野球】チャンネルに新着動画が出ていないかを確認するのが習慣になっていた。その日も確認するとマラソンにおける我が闘争チャンネルに一つ動画があがっていた。タイトルは「インターバルトレーニングにおける嘘」。早速私は再生してみた。


「走者同志の皆様こんばんは。本日は世界にはびこるインターバルトレーニングの嘘について言及させて頂きたい。とりあえず走る距離を伸ばしていく、とりあえず外に出て走るのが好き、とりあえず健康の為に走る、とりあえず痩せるために走る、そういったレベルを通り越して、もっと速く走りたいとそう思った瞬間から色々な情報を集め、一番初めに見つかる情報がインターバルトレーニングであり、これは非常に自然な流れである」


 ヒトラーはいつも通り非常に落ち着いた声でゆっくりと話し始めた。


「しかしながら、この自然な流れに乗じて、これから長距離走、マラソンが速くならんとす、その第一歩を踏み出した純朴な我らが同志を煙にまき、巧妙な罠にはめようとする一群の人々がいるのもまた事実なのである」


 ヒトラーはここで一呼吸おいた。


「だが、これら一群の人々を責めることが出来るだろうか?


 こういった一群の人々はただ純粋に次のステップへと進みたい、すなわちどうせやるからにはもう少し速くなりたいと思い、情報を集めるのは非常に良いことである。しかしながら、こういった一群の人々は同時に情報弱者であることも認めなければいけない。こういった一群の人々をターゲットにし、次にやるべきことは無条件にインターバルであることを信じ込ませようとする国際的なペテン師の一群がまたいるのである。


 かつて、お金がなく貧困に喘ぐ労働者の一群にユダヤ人の高利貸しがハゲワシのようにたかったように、こうした情報弱者の一群にたかるハゲワシのような一群がまたいることは否定できない」


 ここでヒトラーはまた一呼吸置き、そこにいる聴衆を見渡すようにカメラをぐるりと見渡した。


「困窮している人に高利貸しがお金を貸すことは一見合理的な解決策に見えても、長期で見れば、更にその金銭的な困窮から正常な判断を失った労働者の首を絞め続けるように、インターバルトレーニングを導入すれば、短期的にはある程度走力が向上することがあり得ても、長期で見れば、やはり本人の首を絞め続けるようなことが往々にして起こる。


 何故ならば、こういった誠実で純朴な情報弱者たちは長期的な視点を持つだけの知識もなければ、全体から俯瞰する視点も持たず、ただ盲目的にインターバルトレーニングを行い、自分が今本当に何をやっているかを理解しないからである」


 ヒトラーはその鋭い視点でカメラの向こう側にいる聴衆者たちをにらみながら、淡々と静かに語り続けた。しかし、ここで急にトーンを上げた。


「私のインスタグラムは1000m10本を3分25秒から20秒を60秒休息で出来れば、あるいは2000m5本を2分休息で6分50秒から6分40秒で出来れば、10000mは34分台が出ると喧伝する。しかしながら、どうすればその練習が出来るようになるか誰か、説明してくれるものはいるだろうか?


 いや、誰もいないのです。池上秀志を除いては誰もいないのです。その為、多くの善良なランナー達が今日も明日も今やっていることをやり続ければいつかは報われると信じて、インターバルという苦しく見返りの少ないインターバルを続けている。


 しかしながら、中高生のような若く、その大半は純粋で、無知で、特別な才能を持たないランナー達を指導している人たちに聞いてみたい。果たして、そんな苦しいインターバルをひたすら継続するだけで力がついているかね」


 ヒトラーはまたここで沈黙を作り、カメラの向こう側にいる聴衆を見渡すようにぐるりと見渡した。


「ただただ、ひたすらインターバルをやらせ続ければ、力がついてくるのであれば、弱小校を強豪にすることくらい、いや、せめて強豪校とは言わないまでも、男子高校生であれば5000m14分台を7人そろえることくらいは難しいことではないだろう。


 では、何故実際にはそれが出来ないのだろうか?


 あるいはこう考えたことはあるだろうか?インターバルトレーニングはすでに1950年代に考案されている。本当にそんなインターバルさえやっておけば速くなるのであれば、どうしてこんなにも世の中弱小校だらけなのだろうかと」


 後半部分はところどころ声を怒りに震わせ、音が割れているところも度々あった。彼の怒りの矛先は、純朴で無知なランナー達をたぶらかし、ひたすら苦しい思いに耐えさせながらも結果に繋げることが出来ない、彼の言葉を使えば、国際的なペテン師どもに向いているようである。


「真の問題は練習全体を見渡した時に、インターバルトレーニングというのはその一部分であり、目的を達成するための一手段でしかないことである。つまり、インターバルトレーニングそのものに魔法のような力があるのではなく、インターバルトレーニングはその他の練習で補えないものを補う手段であるということである。


 手段でしかないものを目的であると勘違いしたり、他の練習で補えないものを補う手段でしかないものに絶対的な力があると勘違いするのは大いなる勘違いである」


 ヒトラーは大きく右腕のこぶしを振り下ろし、力強く話を遮った。そう、まるで自分で自分の話を遮っているようである。


「そもそも話はこういうことである。人間の体というのは新しい刺激をかけると走力が向上する。そして、新しい刺激をかけ続けると、やがてその刺激は新しい刺激ではなくなる。その時に停滞と呼ばれる現象が起こる。だからこそ、走力の向上には新しい刺激が必須となる。


 そして、この際には新しい刺激というのは質と量の両面から考えられる必要がある。例えば、一回に走る距離を増やすのも新しい刺激であるし、総走行距離を増やすのも新しい刺激であるし、今までよりも速く走ることも新しい刺激である。


 そして、新しい刺激をかける時には、常に慎重に少しずつ段階を踏んで刺激をかけていった方が結局のところ、走力の向上は速くなる。


 つまり、インターバルトレーニングは質という面から新しい刺激をかけるための手段であり、インターバルトレーニングそのものは目的ではない。ということは、逆の言い方をすれば、質という面から新しい刺激をかけるためにインターバルトレーニング以外の方法が有効であるならば、インターバルトレーニングを必ずしも使う必要はないのです」


 ヒトラーはまたここで一拍おいて、カメラの向こう側にいる聴衆の反応をうかがった。もちろん、反応は何も帰ってこない。だが、彼自身はここで聴衆が言葉の続きを待っているのを充分に知っているのだ。従って、そこで沈黙を作り、次の言葉を今かと待たせる。


「例えば、ある全くの初心者が今日から走り出し、少しずつ少しずつ走る距離だけを伸ばしていったとします。質と量の両方を同時に追うのは賢明な判断とは言えないので、先ず初めは量だけを少しずつ少しずつ増やしていきます。


 そして、やがて週に1回90分、週に2回30分、週に2回60分の合計5回ほど走れるようになったとする。そして、この段階ではこの全てのランニングが1キロ6分半ペースであるとしましょう。速く走ろうなどとは思わず、ただただ外に出て走ろうと思っている段階である。


 しかし、もしもこの男が「ただ、外に出て走るだけではなく、速く走りたい」就中(なかんずく)「マラソンでサブ3をしたい、サブエガをしたい」と思うようになれば、遅かれ早かれ練習の質というものも考えるようになるだろう。


 その際に、この男が必要とするのは、1キロ6分半よりも速いペースであって、サブエガを目指すからと言って急に5キロ3本を1キロ4分ペースでやろうとすることは自殺行為である。正しいやり方はサブエガを目指す場合においても、せいぜい1キロ6分15秒ペースや1キロ6分ペースに体を慣らすことなのである。


 あるいは、100mくらいの距離をリラックスして速く走り、その本数や距離を徐々に徐々に増やしていくというやり方も有効である。いずれにしても、ここで重要なのは次のステップに進むために必要最小限の負荷をかけた方が結局体は適応が速いということである」


 学校の先生が重要なところまで板書したら、一度チョークを置くようにまた一度沈黙を作り、反応の帰ってこない聴衆者を見渡した。


「それにも関わらず、多くの情報弱者たちが、サブ3.5をするための王道メニューは1キロ5本を4分20秒ペース、サブエガするためには1キロ3分台で5本など、いきなり自分が今までやってきた内容とはかけ離れた練習に取り組んでいる。否、厳密に言えば、取り組もうとしては撃沈し、苦しい思いをしては走力が向上していないというのが現状である。


 では、何故そのような現象が起きてしまうのであろうか?


 ここには根本的な二つの原因がある。


 先ず第一に、多くの人が今の自分に何が必要かということを認識せずに、同じ目標を持つ者同士が集まる練習会に参加したり、同じ目標を持つ者同士が視聴するYouTube動画の言いなりになってしまっているからである。


 つまり、自分の現状を鑑みて自分に必要な刺激をかけるのではなく、サブエガを目指しているから「サブエガの為におすすめなインターバル3選」のようなタイトルの動画を観てその内容を盲目的に実施してしまうのである。


 そして、第二にそもそも練習の目的を達するために本当にインターバルトレーニングが必要かと問われることがないのである。例えば、初めはひたすら距離を伸ばそうとしている段階においては通常は、全力で走るということはしない。距離を伸ばすことだけを考えて、ある程度余裕を残して走るのが通常である。


 この段階では、長い距離を走ること自体が苦しいので、質に焦点を置くことがないのである。そうすると、大抵はインターバルトレーニングを用いなくても、つまり間に休憩を挟まなくても今よりも速く走ることは可能なのである。


 例えば、とにかく90分完走することを目標にし、それを達することが出来たものは、通常はたった30分ならそれよりも速く走れるようになるものである。やはり、この段階ではインターバルトレーニングは必要ないのである」


 ここでヒトラーは自信満々に右手を斜め下に振り下ろした。


「ここでもう一度話を戻しますが、本質的なことは練習では常に新しい刺激を少しずつ少しずつかけていくことが大切で、結局はそちらの方がトレーニング刺激に対して適応するのも早いということです。


 一方で、いきなり新しい刺激をかけると体は不適応を引き起こし、長期的に見ればかえって時間がかかってしまうか、遅かれ早かれ停滞が生じ、本人も自分には才能がないと思い込んでしまうことになる。


 私はインターバルトレーニングを全否定している訳ではありません。寧ろ、インターバルトレーニングは非常に有効なトレーニングであると理解しています。


 ただ、私が言いたいのはインターバルトレーニングこそが無条件に有効な練習であるとしたり、サブエガを達成するためのインターバルトレーニング三選のような、個人の練習状況を省みずに、目標からただ単純に逆算するだけのインターバルトレーニングを無上のものとしたり、10000m34分台を出すためのインターバルトレーニング三選のように、確かにそれが出来れば10000m34分台は出せるであろうけれども、どうすればそれが達成できるかを解説してくれないような無責任な情報の発信者を盲目的に信ずる純粋な走者同志へと警鐘を与えたいのである。


 私は同志諸君の最後の一人までがそういったペテン師の言うことを信じなくなる日が来ることをただ願うのではなく、その日が来るまで徹底抗戦することを誓う」


 そう言って、画面はフェードアウトしていった。まさに、狂気と熱狂が紙一重となった演説だ。おそらく、現在見ている人の大半が面白半分に見ているのだろう。実際に茶化すようなコメントが大半を占めている。しかしながら、もしもたった1年でサブ3が達成できたとすると?


 もはや、誰もヒトラーが演技をしているのか、真実を真剣に伝えようとしているのか、誰も区別がつかなくなるだろう。

 

続く


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筆者紹介

​ウェルビーイング株式会社代表取締役

池上秀志

経歴

中学 京都府亀岡市立亀岡中学校

都道府県対抗男子駅伝6区区間賞 自己ベスト3km 8分51秒

 

高校 洛南高校

京都府駅伝3年連続区間賞 チームも優勝

全国高校駅伝3年連続出場 19位 11位 18位

 

大学 京都教育大学

京都インカレ10000m優勝

関西インカレ10000m優勝 ハーフマラソン優勝

西日本インカレ 5000m 2位 10000m 2位

京都選手権 10000m優勝

近畿選手権 10000m優勝

谷川真理ハーフマラソン優勝

グアムハーフマラソン優勝

上尾ハーフマラソン一般の部優勝

 

大学卒業後

実業団4社からの誘いを断り、ドイツ人コーチDieter Hogenの下でトレーニングを続ける。所属は1990年にCoach Hogen、イギリス人マネージャーのキム・マクドナルドらで立ち上げたKimbia Athletics。

 

大阪ロードレース優勝

ハイテクハーフマラソン二連覇

ももクロマニアハーフマラソン2位

グアムマラソン優勝

大阪マラソン2位

 

自己ベスト

ハーフマラソン 63分09秒

30km 1時間31分53秒

マラソン 2時間13分41秒

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