先日からメルマガやブログなどでお知らせさせて頂いていますが、現在物語形式で長距離走、マラソントレーニングについて学べる『マラソンにおける我が闘争』という小説を執筆しております。
あらすじとしてはアドルフ・ヒトラーが1945年からタイムスリップしてきて、2019年にベルリンで合宿をしていた私に出会い、ユーチューバーだと思い込んだ私がヒトラーと一緒に仕事をすることになり、その一環としてランニング初心者56歳男性のアドルフ・ヒトラーを色々指導し、1年後にサブ3を目指すという話です。
ランニングと社会、経済、歴史、政治、虚構と現実が巧妙に混ざり合う長編小説です。戦争や人種差別を助長するようなものではなく、アドルフ・ヒトラーの登場なしには描けない内容になっているので、そういった設定になっていることを予め申し上げております。
本日はその物語の中から、インターバルトレーニングの落とし穴について解説している箇所を無料で公開させて頂きます。
2週間後
「もしもし、池上ですが」
「アドルフ・ヒトラー」
「最近の練習はどうかなと思って連絡したんですが」
「ああ、順調にいっているよ。ペースを上げると息があがってゆっくり走るのとはまた違う楽しさがあるな。それから、流しもとても楽しいよ。まるで子供時代に戻ったように感じるよ。速く走るけれど、全力じゃない、ちょうど良い感じの楽しさがあるな」
「そうでしょう。ゆっくり走ると気持ち良いですが、速く走ったら速く走ったで、また楽しさがあるものです」
「で、また連絡してきたということはまた次のステップがあるのだろう?早く教えてくれ」
「はははっ。なかなかお察しが良いですね!まさに、おっしゃる通りですが、今回は大したことではないですよ。もしも、大丈夫そうであれば、30分間走の後半だけペースをあげていたのを初めからある程度速いペースでいきましょう。ただし、速いと言ってもやはり遅めにスタートして後半ペースを上げるようにしてください。今までは、ウォーミングアップがてらスタートしていましたが、30分間走の前に2キロくらい軽くウォーミングアップをして、それからスタートして下さい。慣れてきたら、30分から40分に増やしましょう」
「すぐにでも40分に増やせるぞ」
「うーん、そうですねー」
私は少し考えた。5秒ほど。
「すでに90分ゆっくり走られているので、全然すぐに40分の中強度走にしても良いですよ。ただし、必ず余力を残して終えるようにしてくださいね。全力で走るのではなくて、あげようと思えばいつでも大幅にペースを上げられる状態を維持して下さい」
「大幅にペースを上げられるとはつまりどういう状態だ?」
「そうですね、大雑把に1キロ20秒くらいですかね。全力で走れば1キロ20-30秒は上げられるという状態を維持して頂きたいです。まあ、ラスト1キロだけ全力でいっても良いですけどね。週二回だけですし。そうすると、次からのインターバルの感覚とかも掴みやすいかもしれないですね。ただ・・・」
「ただ、どうしたんだ?」
「今回変えたいところがもう一点ありまして、今やってる流しを200m5本に変えたいんです。今流しはどんな感じでされていますか?」
「言われた通り、100mくらいを10本ほどやっているよ。正確には測っていないから、あの木からあの木までみたいな感じだがな」
「なるほど、なるほど、それで全然大丈夫です。それを200m5本に変えたいんですよ。ただ、正確に距離の分かるところがなければ、40秒速く走って、1分休憩みたいな感じで5本入れたいんです」
「GPSで測れば良いじゃないか?」
「前も言ったんですけど、GPSは人工衛星と通信しながら計算で距離を割り出しているので、200mくらいだと誤差が大きいんですよ。例えば、1キロで2秒くらいズレたとしましょう。正直な話、1キロ2秒のズレはプロでも分からないです。ただ、1キロ5秒ズレたら分かります。でも、200mで1秒ズレるっていうのは1キロ5秒のズレなんですよ。だから、目安として使う分には良いですが、ペース感を養うのには役に立たないです」
「なるほど、つまりなんとなく体に200m5本の負荷をかけるという目安で行う分には良いが、それによって表示されるペースに関してはあまりうのみにしない方が良いということか」
「まさに、おっしゃる通りです」
「それは分かった。まあ、負荷がかかればトレーニング効果はさほど変わらんだろう。ところで、休憩時間はどうやって決めれば良いんだ?呼吸が整うまで歩いておけば良いのか?」
「そんな感じでも良いんですけど、一応1分くらいを目安に休息時間はきっちり決めた方が良いですかね」
「何故だ?これは技術練習だと言ったではないか?それならば、休息時間は取りたいだけ取れば良いではないか」
「実はここでちょっとポイントが変わるんですよ。先ず第一に、流しも実は初期の段階では心肺機能の向上に役立つんですね。本当にただただゆっくりと走っているだけとか、あるいは今までそもそも運動をしていなかったという人であれば、流しだけでも最大酸素摂取量は向上します。ただ、流しだとせいぜい20秒くらいしか走っていないので、最大酸素摂取量の向上にあまり影響を与えません。とは言え、いきなり1マイル6本やるのは負荷が大きいです。ところが、200m5本だけでも結構最大酸素摂取量は向上するんです。200mなら、ある程度速く走れるのでリラックスして速く走るという目的も達せられるし、疲労も次の日にほとんどもちこしません。だから、コスパが最強なんです」
「それなら何故もっと早く教えてくれなかったんだ!?」
ヒトラーは眼光鋭く私の顔を覗き込んだ。私はその瞳に吸い込まれそうになりそうな、あるいは逆に、その瞳から放たれる鋭い力に気おされそうな、そんな変な気分になった。
「ですから、物事には順序があると言っているではないですか。順番守らないと上にはいけないし、下から1歩ずつ階段登った方が結局は早いんですよ」
「そうか、そうか、何度もそう言っていたな。早くマラソンで3時間が切りたくてついつい焦ってしまう」
「お気持ちはとても分かりますよ。皆さんそうですし、私もそうですから。話を戻しますが、ある程度は心肺機能への負荷を期待しているので、休息時間は1分程度に設定し、ジョギングでつないだ方が良いです」
「ジョギングで休憩するのか?」
「ええ、そうです。最終的には休憩なしで走るんですから。ジョギングしながら休むことを体が覚えれば、その分また力もついていきますよ」
「なるほどな」
「全然余談なのですが、私の高校時代の同期に5000m競歩の京都府インターハイのチャンピオンで、5000mも14分台で走り、全国高校駅伝も走った選手がいました。当然、5000m走と5000m競歩を両立させるのは難しいのですが・・・」
「ちょっと待て待て。その競歩というのは何だね?」
「あー、すみません。どれだけ速く歩けるかを競う競技です」
「プッハハハハハッ」
ヒトラーは電話が壊れるのではないかというくらい豪快に笑った。
「なかなか、面白い冗談を言うな。そんなスポーツがある訳ないだろう。どれだけ速く歩けるかを競う?ハハハハハハハッ」
「いやいやいや、本当ですって。ちゃんと、ルールがあって、前足が地面についてから重心がその前足を超えるまでは膝が伸びていなければいけないということと、必ずどちらかの足が地面についていなければいけないというルールの中で、どれだけ速く歩けるかを競うスポーツがあるんです」
「なんだ、その競技は?何故普通に走らないんだ。そんな、ややこしいルールを設定しても、判定が難しいではないか」
「いや、実際にそうですよ。正確な判定は不可能ですし、ビデオ判定なんかしたら、全員地面から浮いてるから失格ですよ。だって、高校生でも速い子は5000m21分台とか20分台で歩くんですから」
「何!?そんなに速いのか?1キロ4分ちょっとのペースで歩いているじゃないか!?」
「そうですよ。でも、そうなるとやっぱり地面から浮くんですよ、スローモーションで見たら。だから、肉眼で人間が判定して、それで浮いてるように見えなければ、それで良いっていうそういう競技です」
「なんだ、全然競技として成立していないじゃないか」
「うーん、まあでも、人間が肉眼で捉えられる範囲なんて皆だいたい同じですからね。人間の審判が判定すれば、だいたい同じになるんじゃないですか。まあまあまあ、それはどっちでも良いんですけど、だから歩きと走りを両立させるのは難しいんですけど、それをやっていたやつがいて、そいつが200m5本の休息時間をどんどん短くしていって、1000mの変化走みたいにやってたんですよ。で、それだけやっておけば高強度なメインの練習は競歩の練習をやっても、そこそこ走力を維持できたと言っていました。で、200m5本くらいであれば、次の日に疲労を持ち越さないから、競歩の練習にも悪影響なかったと言っていましたよ」
「でも、維持するだけじゃ意味がないじゃないか」
「いや、これは5000m14分台で走る選手の話ですから。今の総統のレベルであれば、どんどん走力は伸びますよ」
「まあ、とにかく信じてやってみるか。もしも嘘ならSS(ナチス守備隊)に言いつけて、秩序を守らせるぞ」
「秩序を守るですか、はははっ。銃殺と言えば良いのに。まっ良いでしょう。今の総統の状態なら200m5本だけでも一気に走力が伸びますよ。週に2回の中強度走も忘れないで下さいね」
「改めての確認だが、中強度走というのは次の日に疲労を持ち越さない程度の最も速いペースだったな?」
「ええ、そうです」
「分かった。やってみよう」
「他にご質問はなかったですか?」
「ああ、今のところは大丈夫だ」
「分かりました。それではまた。あっそうそう、ユーチューブいつも観てますよ。もうチャンネル登録者数3万人突破ですか。やっぱり、1万人超えると速いですね」
「チャンネル登録者数が増えようが、減ろうが私たちのやることに変わりはない。しかし、多くの人に話を聞いてもらわなければ、何も始まらない。違うかね?」
「ええ、まさにおっしゃる通りです。私も全く同じ考えです。それでは、引き続き宜しくお願い致します。ハイル・ライオンズ」
「ハイル・ライオンズ」
そう言って、私達は電話を切った。
続く
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